2-7:亡国の王女
今回もお読みいただきありがとうございます。
今回は、作者の中ではとても大事な回…のつもりです。
進みも遅い、なんか文章の重複も多そうな…そしてどこかで見たことあるような?あるのかな…?
そんな本作でも、見て頂ける、読んでいただける。大変ありがたく思います。
いいな、と思われましたら、ご評価、ブックマークいただけますと、大変励みになりますので、よろしくお願いします。
「あ、いけません。わたくし、少々嘘をついてしまいましたわ。」
(え?)
「はい?噓。ですか?」
(噓?いえ、少々ってどういう。)
「全てといいましたが、もうひとつありました。」
もうひとつ。『…この喜びこそが、全てなのです。』
これがもうひとつ?それはつまり。
「もうひとつ。セラフィーナ様にとってもうひとつ、何よりも喜べることがあるのですね。お聞きしても?」
これほど暖かい方が喜ぶ事。私にできる事なら、できる限りしてあげたい。
「それはですね。こうして知り合う事が出来た、今はミリエラさん、貴女ですね。貴女が幸せになることです。」
「私が幸せに?」
今この瞬間も、まだ酷い状況の中にあっても。
助けて頂いて、親身に接してもらって。
素敵な景色を見せてもらえて。
とても大切な、貴女の想いを伝えて頂いて。
幸せな気持ちになってますよ?
「はい、幸せに。ですわ。
いらっしゃるのでしょう。大切に想われている方が。」
「へ?え!?」
突然。何の前触れもなく。
「とてもお慕いしている様子ですわね。願わくばその想いが結実して。そのお方とぜひ幸せで暖かな家庭を、築いて頂きたいですわ。」
「!!!!」
(えーーーー!?なんで??何も言ってないのに!!)
真っ赤になる。
(セラフィーナ様!?なんでご存知なの??)
「ふふ、可愛らしいですわね。」
「な、なんで?なんでそんな!??」
ミリエラ、半ばパニックである。
「なんで分かるか、ですか?それはもちろん。」
「も、もちろん?」
「ナイショです。」
すごくうれしそうに、悪戯っぽい笑顔で言われた。
「ちょっとーーー!セラフィーナ様!?」
「ふふ、冗談ですわ。照れてるミリエラさんがとても可愛らしくて、つい。」
完全にからかわれてる!
照れと恥ずかしさで涙目になりながら。
「ど、どうしてわかったのか、ちゃんと教えてください!」
怒ったように言う。照れ隠しであると自覚しているが。
「ごめんなさいね。ちゃんとお話しますわ。」
「お、おねがいします。」
教えてくれるらしい。
ミリエラが落ち着くまで、少し待ち。
「実はわたくし、魔力視ができまして。」
「魔力視ですか?それは確かに、セラフィーナ様なら容易いかと。」
魔力視。魔力を用いて遠くのものや、物陰にあって本来見えないものを見る。それなりに魔術の素養が無いと難しい技術である。
物理的に透視するのではなく、対象の魔力分布を視る為、魔力を発していないものは基本的に見えない。
基本技術である魔力感知を、自身から離れた場所で行うようなものであり。
シェフィールド邸でシェルンとシェリーヌの戦いを、何者かが視ていたのもコレである。
術者は対象とする一定領域において、魔力の強弱、動きを見ているだけのパッシブスキルだが、シェルンは何らかの方法で、視られていることを感知していた。
距離が遠く、範囲が広くなるほど難しくなり、また解像度というか、魔力の強弱をどれだけ細かく分けられるかも重要な要素である。
だが、なぜ魔力視が出てくるのか。
「ですがその。魔力視ができても、私がその。
思いを寄せている方がいる事は、わからないかと。」
恥ずかしさを感じつつも指摘する。
「もちろん普通の魔力視では分かりませんわ。わたくしの使える魔力視は。」
「セラフィーナ様の魔力視は?」
「人の魂。その方がどのような方なのかを、視る事が出来るのです。」
(え?魂?魔力ではなく?)
「そしてその魂の大きさや、色、輝きで、その方の本質を把握できる。わたくしは、そんな力を持っていますの。」
「本質とは、どう言う意味でしょう?」
魂の色や輝きで人を見る。今まで全く考えたこともない話である。意味が分からず、ひとまず聞いてみるが。
「そうですね。例えばミリエラさん、貴女の本質。
ミリエラさんという一人の素敵な少女は。
とても透き通った、綺麗な輝きの魂をお持ちですわ。
純真で思いやりがあって、優しい。」
真っ向から自分の本質を、そのように言われて。
「え。あ、う。」
ものすごく恥ずかしい!
「そしてその中に、仄かに揺らめく、桜色が視えますの。」
「桜色、ですか。」
色の雰囲気から、なんとなく分かる気がするが。
「これは想い人がいる方に視える色ですわ。
想いが強ければ強いほど、強く、美しく輝きますの。」
ここまで聞いて。
既に先ほど以上に真っ赤になっているミリエラ。
「貴女の揺らめく桜色は。とても強く、つよく恋焦がれていて、心からお慕いして。
愛してらっしゃいますのね。」
ボンッ!プシューー・・・・
限界だった。セラフィーナの優しく、心のこもった。
ものすごく恥ずかしい、ミリエラの魂に対する見解。
オーバーヒートしたミリエラが戻ってくるまでは、いくばくかの時間を要したのは言うまでもない。
―― やっと少しクールダウンして。
「セ、セラフィーナ様は、ストレートが過ぎますっ!」
まだ頬の火照りはおさまらないが、オーバーヒートから帰ってきたミリエラはひとまず文句を言った。
セラフィーナの物言いは恥ずかしすぎる。なぜあんなことを、照れも羞恥もなく言えるのか?
「ふふ。可愛らしい姿を拝見できて、満足ですわ。」
また、からかわれてて。
「ですけれど、魂の色が見えることは。
わたくしにとって、とても大切な事なのです。」
急に今までと違う、落ち着いた声音になる。
そこにからかうような雰囲気。違う。
今までにあった、祝福するような。
幸せな響きは一切なく。
先ほどまでの。責務の事を話してた時と同じ。
優しくて、悲しい声音で。
「大切、ですか。それはどうして。」
「もうひとつの、貴女が知りたかったこと。
<災厄の魔女>の歴史を、繰り返さない為。ですわ。」
「え?」
今まで恥ずかしいばかりだった話が。
ミリエラにとって最も知りたい事のひとつ。
セラフィーナの過去に、繋がっていた。
―― まだ二人、寄り添ったまま。
「わたくしの力。無限の魔力と、無限の若さ。と言って差し支えないかと思います。
この力は、わたくしがもとより持っていたものではございませんの。」
「もとより。つまり後天的に、身につけられたのですか?」
それは確かに、少しだけしか見てはいないが、人が元から持っているとは思えない力である。
どのような修行、修練、経験。何をすればそんな力が手に入る?世の権力者が皆、喉から手が出るほどに欲する力。
「はい。身につけた、と申しますか。
手に入れてしまった、と申しますか。」
歯切れが悪い。自ら望んでその力を手にしたわけではないことが伝わってくる。
「わたくしが魔女として歴史に名を残した時から、三百数十年程前に、とある国が滅亡しました。」
「滅亡、ですか。」
国の滅亡。一歩間違えば、今のフィルメリアもそうなりかねない。アセリア様を狙って現在進行形で、侵略の準備が進んでいて。
セラフィーナ様が来なければ、下手をすれば。
「その時滅亡した国は、ある封印を護っていました。
封印されているのは、いにしえの邪神、ということだったらしいです。」
話が大きくなる。邪神?そんなものが実在したのかどうかすら怪しいが。
「邪神。伝説や御伽噺では出てきますが、歴史上はいないですよね?」
「そうですわね。ですから、ただの伝説や御伽噺。
そう思って、聞いていただければ…と、思いますわ。」
「はい。」
「その封印は、その国が建国された理由であり、その封印を護ることが、その国の存在意義でした。」
(なんだか確かに伝説で、似たような話を聞いたことがある気がする。かつて、封印を守護するために出来た王国があったと。)
「その後その国は代を重ね、滅びの時を迎え。
滅びの間際に、邪神の封印が解かれました。」
(そう、邪神の封印が解けて、国が滅び。伝説では、その後神様が降臨して再度封印。という事になっていたと思う。)
「封印が解かれ、封印を施したもの。
自らを犠牲にし、時を止める封印に邪神を封じた、
建国の巫女が、邪神と共に復活しました。」
(建国の巫女?私が知ってるお話とは、伝説とは話が違うのかな。これはいったい何の話?)
「ですがその邪神を縛るほどに、高度で精密な封印は壊れ、再封印は叶わず。
邪神が顕現の為に体を乗っ取ろうとした者。憑代に、邪神が入り込むと同時に巫女はその身、その魂を憑代に捧げ。
邪神の意思に、自身の意思をぶつけて、互いを消滅させることで。
憑代となりかけたものを。その心、魂を救いました。」
話を続ける。その顔は微笑を浮かべているのに。
セラフィーナのその横顔は、涙を流さずに。
でも、泣いてるように見えて。
「こうして、憑代になりかけたもの。自ら邪神の封印を解いてしまった、そんな愚かな者は。
封印の為に、自らの身を犠牲にしていた。
人々の安寧の為に尽くした巫女の。
心を、想いを犠牲にして。
邪神の持つ無限の力と終わらない命、そして一部の知識だけを引き継ぎ。」
(それが。憑代になりかけた者が。)
「のちの世に、生き続けます。」
(・・・・)
もう、ミリエラの目からは、涙が零れており。
セラフィーナに、横からしがみつくように。
耐えながら、話の続きを。
「ですが、その国が滅びた理由は邪神の復活ではなく。」
(え?)
「その国のもつ利権と、王女の身を狙ったものの、侵略でした。」
(そ、そんな!邪神ではなく侵略。人が。
王女の身を狙って。王女の!?
それってまるで今の。アセリア様を狙われている、
フィルメリアそのもの!)
「侵略者にみずからの国を蹂躙され、
民を、家族を殺され、全てを失った。
邪神の力を宿してしまった、その者は。」
(セラフィーナ様は?)
あふれる涙は、もう止まらない。
「侵略した国を、その力を以て。
滅ぼしました。」
(・・・・)
「それから数百年。世界には常に。
利権、欲望、怨恨。
どのような理由であれ、あらゆる国の間で、罪のない者を巻き込んで、戦争は続きます。」
(・・・・)
「強大な力を手に入れた、その愚かなものは。
世界の間違った戦争を止めようとして。
平和を害する侵略国、それらの軍を力で退け。
侵略の根源たる、侵略国そのものを。
力を以て、滅ぼしました。」
(違う!それは、平和を護る為で。愚かなんじゃなくて)
「もちろん侵略をした国にも、国民が居ました。
戦争を望まず、何の罪もなく、
日々を大切なもののために生きている。
そんなごく普通の方も、たくさんいたのです。」
(それって先ほどの。今のアセリア様では。
守れない、救えない。)
「それでもその愚かなもの。かつてのわたくしは。
何もわかっておらず、未熟で力だけを持ったわたくしは。
それを考えず、侵略され、蹂躙された。
目に映る、奪われて悲しみに沈む者たちの。
侵略された国と、その国に住まう人々の事のみを考え。
力を揮いました。」
「セラフィーナ様」
「そして、そんな愚かな行いを。
数百年に渡って、戦争が起きるたびに。
侵略者を、たくさん殺して。
侵略国を、幾度となく滅ぼして。
わたくしは<災厄の魔女>として、歴史にその名を。
刻まれました。」
「ごめんなさい。ごめんなさいっ!」
ミリエラは。
セラフィーナに縋り付き、号泣する。
話をしているセラフィーナの顔を見て。
分かった、分かってしまった。
憑代となったのは。
国の危機に、封印を解いたのは。
自らの国の、民を殺され、家族を殺され。
侵略されて、滅ぼされた国の。
「すみません。
ごめんなさい。ごめんなさい!
ほんとうに、本当につらいことを。
お聞きしました。」
嗚咽を漏らしながら、謝罪する。
ミリエラは謀略で母を失い、
父も操られ、絶望の淵に堕ちた。そう思っていた。
でもこの方は、そんなレベルではない。
本当の、死ぬよりもつらい。
生き地獄を味わって。
それでも、懸命に生きる者が。
戦争で侵略され、大切なものを失う悲しみを、
繰り返させないために。
「ほら、やっぱりあなたは、とてもいい子ですわ。」
泣きじゃくるミリエラの頭を、その膝の上に乗せ。
いつものように。子をあやすように優しく頭を撫でる。
こんなに慈悲深く優しい方が。
侵略されて、すべてを失っても。
それでも、目に映る弱きものを護る為に。
侵略から護る為に、自らを悪として。
侵略者を、打ち倒してきた。
そんな、どこまでも、どこまでも優しくて。
どこまでも悲しい。
亡国の王女が。
<災厄の魔女>だなんて、呼ばれていいはずがない。
前回、今回は、意図的に行間を多く開けてます。読みにくいようでしたらごめんなさい。
このお話で、一番伝えたかったことのダイジェスト、優しくて悲しいお姫様が、ようやく書けました。
もっとも、拙い文章なので、どれだけ伝わるかは^^;
これはミリエラさん向けダイジェストなので、そのうち本当の過去編を書きたいです。
ただ、本職の物書きではないただの焼き豚が、ちゃんと書けるのかは不明です(´・oo・`)