2-6:人助けの理由
ここからちょっとしんどいお話です…
会話形式が続くので、読みにくかったらごめんなさい。
シェルンがレアニールの救助に向かい、騎士団がホルン岬を調査していたころ。
セラフィーナはミリエラと共に、ホルン岬からわずか数百メートルほど沖に向かったところにある小さな島にいた。
肉眼で人を判別するのは厳しいが、騎士団第二大隊が調査している場所からもその距離は結構近い。
この時代、海の漁は基本的に陸から行う。船は存在するものの、水深の無い場所でしか使われない。
それだけ海に住む大型魔獣が危険だからだ。セラフィーナのように飛べてしまうチートはいざ知らず。
普通の騎士や兵士は、船の上で船を破壊してくる魔獣とまともに戦うことはできない。
幸いなのは、海の魔獣が巨大過ぎて陸に近づけない事。
浅瀬に来れば自重で動けなくなり、海から出れば自重で自壊する。人を襲う性質の、腕や脚がある巨大クジラのようなものである。
そんな理由で、人々は船の漁を放棄し、陸地からの漁で海の幸を得ている。
―― シェルンがシェフィールド邸へ向かった直後
「それでは、わたくし達もお出かけしましょう。」
「お出かけですか?目立つのではないでしょうか?」
セラフィーナは抜けたところがあると、家を出る際にシェルンも言っていたが。
「大丈夫ですわ。目立たないところに行きますから。」
目立たないところ?
「景色のいい場所で、少々お話でも致しましょう。」
「はい。」
また気遣ってくれていると、すぐに分かった。
昨日あれだけのことがあって、セラフィーナとシェルンの二人。その気遣いのお陰で楽しそうに振舞っていても。
ミリエラの心の傷は、簡単には癒えない。
「では、早速参りましょうか。」
いつもの優しい微笑で告げるセラフィーナ。
ミリエラもその微笑みに笑顔で返し。
「セラフィーナ様。
お召し物、寝着のままですよ。」
うん。やっぱり抜けてる。
言われて「あら?」と、今気づいたかのようなセラフィーナ。この方にはシェルンさんがついていないと、色々やらかしそう。
「し、失礼しましたわ。すぐ着替えますわね。」
そう言うと目を閉じ、両手を祈るように胸の前で組み。
ふわり。
風の無い部屋の中で、セラフィーナの長い髪が広がり。
周囲に美しい、透き通った金色に輝く粒子がキラキラと舞い踊り、セラフィーナの身体を包んで輝いたかと思うと。
そこには、いつものお姫様スタイルになっている少女が、神に祈りをささげるかの如く、舞い散る粒子を纏い。
神秘的な光に包まれて、佇んでいて。
(綺麗・・・)
また、目を奪われる。
助けてくれた時のように。あのクリスタルの剣を手にして悠然と構えていた、あの姿を見た時のように。
(はっ!?)
気付き、ミリエラはセラフィーナへと。
「そ、そのお姿も目立つと思います。」
昨日から思っている、至極当然の指摘をした。
(違う!そうだけどそうじゃない!!)
指摘は間違ってない。ただ問題なのはそこではなく。
一瞬で着替えられる魔法?
そんなの、貴族はみんな知りたいのでは?
特にイベント。社交界やお茶会がある日なんて、一日に何度も着替えなきゃいけないし!
「セラフィーナ様。その、お着替えの魔法って?」
「え?お着替えの魔法?ああ、そうですわね。」
今自分がしたことに対して、なぜか疑問形。
「はい。そんな魔法があれば、貴族の方は皆、知りたがるのではないでしょうか?」
私も知りたいです。という気持ちを込めて聞く。
セラフィーナはちょっと困った微笑になり。
「えっとですねミリエラさん。これはですね、お着替えの魔法というわけではなく。いや、着替えてはいますが。」
「え?違うのですか??」
明らかに着替えたように見えるのに?
「はい。わたくしの魔力で、服を構成しているのです。」
「はい?魔力でですか?」
(魔力でドレスを作っているの!?それってつまり、魔力を服に物質化しているという事?そんなことできるわけ。)
「はい。ですのでごめんなさいね。
お教えしてもおそらく行使は難しいかと存じますわ。」
(ちがう!難しいとかそういう話じゃなくて!)
その美しい生地、材質!本当に魔力なの?
もしかしてティアラも?ブーツも?ネックレスも?し、下着も?
魔力が切れたら脱げちゃうの?
いやむしろ本当の服は着てないの?
汗をかいたらどうなるんです?ニオイは??
そもそもお洗濯は?要らないの?
教えても難しいって。
そりゃ魔力の物質化なんて不可能ですよ?
ツッコミどころが多すぎて。
「はい、無理です。すみません。」
とりあえず、スルーした。
結局、お姫様スタイルのままで、離島へと空間転移し、ホルン岬からカヤック村へと続く、美しい海岸線を。
離島から二人で、隣り合って座り眺めていた。
蒼い空と海に、海外線の白い砂浜。
岬は先端まで少し小高い丘となっており、草木の緑に咲く花の鮮やかな色どりが広がっている。
遠くに見える村には小さいながらも石造りの家々が並び、煙突から立ち上る煙に人々の営みが感じられる。
「本当に、こんなにも綺麗なのですね。」
陸地を海側から見たことなど無いミリエラにとって、見ているだけで幸せになれるような、そんな素敵な風景だった。
「自然の美しさは、過去も今も、そして未来も。ずっと続いてほしい、大切なものだと思いますわ。」
ミリエラと並んで座り、一緒に風景を眺めているセラフィーナ。その横顔を眺め。
『景色のいい場所で、少々お話でも致しましょう。』
家を出る前の、セラフィーナ言葉を思い出す。
この景色を見ながら、どんなお話をされるのですか?
ミリエラの想いに気付いたのか、偶然なのか。
「ミリエラさん。今日ここに貴女をお連れして、この場所でお話したかったのは。」
遠くを見つめたまま、少し寂しそうに見える表情で、
「貴女も気になさってらっしゃる、わたくしの責務についてと。」
「はい。」
「<災厄の魔女>の所業について。です。」
(あ!)
『歴史はどうあれ、これだけは。これだけは信じて頂ければと、思います。』
昨日聞いた、願うような、祈るようなあの言葉。
「その、私がお聞きしてもよろしいのでしょうか。」
あの時は、またの機会という事で。ほんの少しだけ、歴史が事実だとそれだけを教えてくれて。
だからそれは言いにくいこと、人には言えない事なのだと思っていた。
でもそうではなく、本当に時間が無かったからだけで、この方は、私に全て話してもいいと思ってくれている?
「もちろんですわ。ミリエラさんにはわたくしの想いを、理解頂きましたもの。」
そういってまた、あの時と同じ嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
二人並び、座って。
ミリエラは、気持ちセラフィーナに寄りかかって。
美しい景色を眺めながら、話を聞く。
「それで。セラフィーナ様は、なぜ世界を巡って、このような、人助けのような事をされているのですか?
そしてそれが責務と。」
「そうですわね。ではその前にひとつ。貴女はアセリア様の事、どう思われてますの?」
知りたい事の答えではなく、質問で返される。
「アセリア様ですか?そう、ですね。常に民の事を想い、率先して人々を助ける、本当に素敵な方だと思います。」
親友の事を聞かれ、思っていることをそのまま伝える。
その表情にはアセリアを信頼している、ミリエラの気持ちがありありと見て取れて。
「ふふ。とても慕ってますのね。ではそうですね。
もし他国で、力なくとも日々家族のため、そして友の為に頑張っている民がいるとします。」
「は、はい。」
「その国とフィルメリアが仮に敵対国として、残念なことに戦争になりました。アセリア様はおそらく、皆を助けるため奔走されますわね。」
「そ、それはもちろん。アセリア様はそういう方です!」
当たり前だ。アセリア様が人々を助けないはずがない。
「そうですわね。では、敵国の力なき民が戦争で損害を受ける。戦を望んでいないのに徴兵される。」
「う。はい。」
「彼らは。力なき普通の国民は、決してフィルメリアと戦いたいわけではありません。
ですが国の都合で戦いに駆り立てられます。望む、望まないは別として。そして傷つきます。」
「・・・・」
分かる。その通りだ。
たとえ自国から見て敵国でも、皆が戦いたいと思っているわけではない。
「そんな彼等には、アセリア様のように癒し、救ってくれる方はいません。
戦に駆り出さた夫や父、子供を失った家族にも。
決して、救いはありません。」
「はい。」
「ではそのような方々の事を知ったとき、アセリア様はどうされますか?」
「その、もちろんお助けしたいと。そう思われるかと。」
強く、自信をもって答えられない。アセリア様は間違いなく、救えるならば救いたいと考える。けど。
「敵国の兵士やその家族であっても、アセリア様は救ってくださいますか?」
「・・・・」
言葉に出せない。
救って下さると、そう言いたい。
ミリエラが知るアセリア様は、絶対に救ってくれる。
だがそれはあくまでも、国という枠組みがそれを許す場合のみだ。
敵対している国が相手国の民を救いたいと考え、相手国からの救いを受け入れた場合のみだ。
「ふふ。ごめんなさいね。アセリア様を貶めるつもりも、あなたを困らせるつもりもございませんの。」
「はい。」
「では、そうならない為には。力なき民が傷つかず、大切なものを失わず。そして他の国。自国と関係ない所にいる、力なき民も傷つけない。
つまり戦争を起こさない為には、どうすればよろしいでしょう?」
聞かれる内容が変わる。でもそれは、聞かれるまでもなく分かり切っていることで。
「そ、それは。ええと。国交を重視して、戦争にならないように他国と友好関係を築いて。」
「その通りです。フィルメリアはそうやって、長きにわたり平和を維持してきましたね。」
「はい。私もそう思ってます。」
それは自信をもって答えられる。
この国は国民を大切にし、他国との関係も重視し、平和のために努力してきた。
「それでは、今のフィルメリアをもう一度思い返してください。シェフィールド、そして他国の動き。」
「それはでも、それはその。」
そうだ。先ほど自信を持って答えられたはずの、平和のための努力が、現在進行形で崩されようとしている。
「ええ。その通りです。どれだけ努力しても、平和を大切にしても。何も間違えなくても、こうして戦を起こそうとする者はいます。」
「では、セラフィーナ様は。」
「わたくしはそれでも、出来るのであれば戦になるのを防ぎたいと思いますわ。
人々が悲しむのも、傷つくのも。大切なものを失うのも決して望みません。
きっとアセリア様も、わたくしと同じ気持ちだと思いますわ。そして貴女も。」
「私も。はい、セラフィーナ様やアセリア様のように力はありませんが、私も戦は嫌です。人々が悲しむのも、傷つくのも嫌です!」
何かができる、と言わけではない。
ただ、自分の望みはセラフィーナ様の言った通り。
それだけは間違いない。
「そうですわね。ですから、その気持ちだけなのですよ。」
「その気持ちだけ?」
「貴女が知りたい事。わたくしが人助けみたいなことをする理由、ですわね。」
「そ、それだけなのですか?
それだけでこんな。世界を渡って」
戦が嫌だ。誰かが傷つくのは嫌だ。悲しむのは嫌だ。
だから世界を巡り、戦争にならないようにしよう。
世界を巡り、人が悲しむような事は、無くしていこう。
想いと行動が直結している。あまりにも簡単だ。
あまりにも簡単で、そしてそれを実行することは、あまりにも難しい。
だって、どれだけ簡単な事と言っても。
そこに至るまでの労力は。苦労は。
なにより、自分の幸せは。まるで考えてなくて。
「あら。おかしいでしょうか?
わたくしが悲しむ人々を見たくない、平和がいいと思う気持ちは、あなたも同じと仰いましたわ。」
「それはそうですが!そのためにご自分の全てをなげうってまで?」
この方は、ご自分の。
「ふふ。やはりお優しいですわね。でも、考えてみてください。わたくしがこうしてミリエラさんとお話できている、今この瞬間。とても素敵な時間だと思いません?」
「え?」
「あなたをお助けした時、とても感謝頂きました。
領の問題は、まだ解決まではかかりそうですが。
それでもわたくしが協力を申し出たとき、とても喜んでくださいましたわ。」
「は、はい。」
それはそうだ。スラムで助けて頂いたとき。
シェフィールドを。父を救ってくれるといったとき。
嬉しくないわけがない!
あれほど絶望の淵に沈んでいた私を、たった一日でこれほど前向きにしてくれた。
まだ何も終わってないけれど、セラフィーナ様には、感謝しかない。
「わたくしには長き時を過ごせる、朽ちない身体も。
悲しみを生み出す悪意を、打破する力もあります。
なにしろわたくしは、世界を恐怖に陥れたあの<災厄の魔女>ですからね。」
その言葉。その名は。
目の前の、これほどに暖かくて優しい方には。
まったく合ってなくて。的外れで。
「そんな!セラフィーナ様はそんな、恐怖の魔女ではないですっ!こんなにも…こんなにも人々の事を想って。」
「ふふ。だからこそその長き時のなかで、あなたのように私の行いを喜び、感謝してくださる方がいる。」
「はい。」
「それこそがわたくしへの最高の報酬であり、喜びですわ。 すべてを投げうって、と仰いましたが、わたくしにはこの喜びこそが、全てなのです。」
「ありがとう、ございます。」
どうして?どうしてこんなにも。
ここまで優しく、暖かくなれるの?
この方は本当に。どこまで優しくて、悲しいの?
「あ、いけません。わたくし、少々嘘をついてしまいましたわ。」
え?
限りない優しさ…
たぶん、白〇魔女の影響を受けてるのかなー。と思います。




