1-1:魔法の書簡
はじめまして。ろーすとぽーくと申します。
本作は見た目も性格も被るのに、全然違う二人のお姫様と、それぞれの姫に付く侍女、女騎士の4人を中心にお送りします。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
辺境の小国フィルメリア。
農業、漁業が盛んで、豊かな食資源に恵まれた、美しい自然が豊かな国である。
歴代の国王は皆、民の安寧、諸外国との融和を第一としており、清貧で贅沢を是としない王家の敷く善政は国民の支持も厚く、長きにわたり平和を保ってきた。
そんな穏やかなフィルメリア王国は今、過去に類を見ない程多くの国に注目されていて。
その理由は国王の一人娘、アセリア姫が誕生日を迎えたからである。
アセリア・エル・フィルメリア。
当代最高の美姫と謳われる、清楚可憐なフィルメリア王国の王女であり。
白銀の髪を腰まで伸ばし、同じく白銀の瞳。整った顔立ちに透き通るような白い肌を持つその少女は、常に穏やかに、優しく民に接する、王国のアイドルである。
更に外見のみならず、王国史上最高とされる類稀なる神聖魔法の使い手であり、その一面も、諸外国からも注目される理由のひとつである。
一見すると線が細く、スレンダーなアセリア姫は、その儚げな外見に似合わず強い意志と崇高な理念を持ち、非常に努力家でもあった。
王族でありながら魔法の才があると知るや否や、その力を民の為に役立てたいと、他の者がとてもついていけない程厳しい修行を自らに課し。
もとより高い才能に、血の滲むような努力を重ね。
若干14歳にして王国最高峰の王宮魔術師すら、遠く及ばないレベルまで至ってしまった。
一言で言うと魔法マニアである。
魔法が一定の水準を超えてからは、修行を兼ねて自ら各地へ足を運び、病や怪我に苦しむ国民の治療にあたり、高度な神聖魔法を惜しげもなく民のために使い続ける。
それどころか立場も気にせず、国内最強と誉れ高い騎士団長とともに魔獣討伐に出て、強力な防護結界で兵を護り。
傷ついた兵を癒す等、その力を遺憾なく発揮してきた。
そんな美貌と実力、慈悲深い心を兼ね備えたアセリア姫が今年の誕生日で、国が定める女性が結婚を許される年齢となったのである。
当然のように国内外の貴族、他国の王族等、アセリア姫を知る者たちが色めき立った。
ぜひ伴侶にと考える者、あるいはまずはその清楚可憐な姫君を一目見たいと考えるものは数多おり。
お見合いやお目通りに混ざって、いたずらや一方的に婚儀の予定を押し付ける失礼なもの等、連日城には多数の書簡が届いていた。
あまりにも多くの書簡が殺到し、混乱の中で選別と調整を進めていたところ、一通、有象無象の中に紛れ、見慣れない意匠の書簡が届いていて。
その書簡には<親愛なるアセリア姫殿下へ>とだけ記されており、差出人については記載がなく。
金で縁取られた、見たこともないキラキラと輝く魔法紙が用いられ、非常に高度な神聖魔法により封印されていた。
何者か判断がつかない不信な書簡ではあるが、その意匠と素材のレベルから、差出人の身分はさぞ高貴な方であると考えられ、急ぎその内容を確認しようとしたが。
書簡を検閲する秘書官どころか、国の誉れ高い王宮魔術師ですら、誰もがその開封ができず。
仕方なく、神聖魔法の使い手として、国内最高の能力を持つアセリア姫が呼ばれることとなる。
国王としては、検閲前の書簡を直接娘に見せたくないという希望もあったが、未開封で処分するにはその書簡は高度で高貴に過ぎ、最悪国際問題も懸念されたためである。
そして国王、王妃、近衛騎士として姫の護衛も兼ねる国家騎士団長、激務に追われる可哀そうな秘書官が見守る中、その親書は姫の手で開封されることとなり。
「では開封いたしますわ。これは、なんて美しい術式!
これほど高度で複雑な神聖魔法、わたくしも目にするのは初めてです!」
アセリア姫は書簡の封印を解析する術を展開し、開封に必要な術式の構築を開始する。
姫が解析魔法を織りなす度、書簡の周りには複数の魔法陣が浮かんでは消え、少しずつ封印を解いていく。
「すごい!たった一つの封印の中に、30以上の暗号化された術式が複雑に絡み合って!
それなのに一切の無駄もなく美しく繋がって。綺麗...」
素晴らしい術式です!
わたくしもまだまだ研鑽が足りないようですね!
などと、高みに魅せられて、素直に封印を施した相手を称賛するアセリア姫。
魔法マニアの姫にとって、魔法は人を救い護る大切な技術でもあり、同時に芸術でもあり趣味でもあった。
ひとつひとつの術式を丁寧に解析し、美しい細工のような封印を少しずつ解除していく。
そして最後の術式が解け、
「お待たせいたしました。解析できましたわ。
今、封印を解除します。」
その言葉と共に、誰一人解くことができなかった封印がキラキラと星屑のように消え。
机の上に開かれた書簡から眩い光が溢れ出し、部屋を真っ白に染め上げた。
「な!?なんだこれは!?アセリア!?」
「アセリア、下がりなさい!早くっ!」
「姫様、離れてください!危険ですっ!」
国王と王妃、秘書官は、光で目が眩みなにもできず、ただただアセリア姫の身を案じ慌てるだけ。
程なくして光が消え、皆がゆっくりと目を開くと、そこには机の上に開かれたキラキラと輝いている書簡があり。
そして姫の前に割り込み、防御結界を展開して防御態勢を取る、騎士団長セティスの姿があった。
複雑な文様でガラス面を構成したような防御結界は、書簡から姫を護るように光を反射し、キィィィンと小さな音を立てている。
「ありがとうございます。セティス様。」
「いえ、姫様がご無事でさえあれば、この程度、何のこともございません。」
セティス・エル・クレーディア。
王国に長く仕えるクレーディア家の長女であり、女性でありながら若年で爵位を継いだ侯爵である。
フィルメリア人の特徴である輝く銀髪を伸ばし、長くポニーテールに纏めた長身のその姿は、凛とした雰囲気を漂わせる美しい女性で。
筆頭騎士団長であり、更に女性であることからアセリアの近衛騎士も兼任する、才識兼備、文武両道の高潔な人物でもある。
セティスは書簡が光を放ち始めた瞬間に、誰の目にも映らぬ速さで瞬時に姫の前に割り込み、即座に結界を展開して姫を護っていた。
圧倒的な速さと瞬時の判断力。そして魔法の展開速度。
王国最強騎士の実力はこの瞬間だけでも垣間見え、その姿に皆、安堵とともに強い信頼を覚える。
どうでもいいことだが。
フィルメリアの貴族は基本的に男性はアル、女性はエルの接続詞を持つ。
男女共に美しい容姿を持つものが多い国にあって、特に貴族はその傾向が強く、名前で男女を明確にするという王国の風習である。
そうしないと、時々同性に告白してしまう可哀そうなものが出てしまうためである。爵位とは何の関係もない。
「今のは、いったい。あっ?」
光がおさまり、何事もなかったために少し落ち着いてきた皆の前で、書簡が魔力を放ち、その真上に水晶球のような透明の球体を作り上げる。
直径が1メートル近くもあるその球体は、淡い光を放ちながら数度明滅すると、内部に一人の、囚われの少女の姿が映し出された。
「ミ、ミリエラさん!?これは一体?」
映し出されたのはアセリア姫の、立場上どうしても増やすことが難しい数少ない親友である、ミリエラ・エル・シェフィールドだった。
王国北端にあるシェフィールド領領主の一人娘。
同い年のアセリアとは幼少の頃から親交があり、今では貴族社会の中においてもお互いに気を使わないで済む、心許せる大切な存在になっている。
そのミリエラが両腕に枷をはめられ、鎖で天井から吊り下げられた状態で立たされている、という、容認しがたい状況で映し出されている。
ミリエラは気を失っているのか、目を閉じて下を向いたまま微動だにしないその姿は、見せられているものの不安を掻き立てた。
そして、人の姿を映し出す魔術など、この世界では誰も見たことがない。
驚きの中で囚われたミリエラの姿を見せつけられ、皆一様に言葉を失う。
そんな中、ミリエラの姿が映し出されて数秒後、今度は球体から透き通った美しい声が響き始めた。
『フィルメリア王国第一王女、
アセリア・エル・フィルメリア様。
はじめまして。この度はこのような不躾な書簡を送りましたこと、ご容赦頂きたく存じます。』
それはこれまで聞いたことがない優しく暖かい声色で、球体に映し出されたミリエラの姿そぐわない、全く合致しない雰囲気が、見るものの混乱をより一層引き起こす。
『わたくしは、セラフィーナと申します。ですがアセリア姫様、並びに王家の皆様には。」
セラフィーナ?
いや、聞いたことがない。お前は?
いえ、私も存じ上げません。
その場に居合わせたものが、誰一人としてその名に心当たりがない中、意味ありげに切られた言葉の続きが響く。
『<災厄の魔女>と名乗らせていただいた方が、お分かりいただけるかと存じます。』
ざわり。
セラフィーナと名乗った声が告げたもう一つの名。
その名前を聞いた瞬間、もとより緊迫した状況の中、それまで以上に場の緊張感が高まる。
災厄の魔女。
かつて絶大な魔力で猛威を振るい、数多の国々を滅ぼしたとされる、邪神や魔王と同列とされる恐るべき魔女。
その力は国家の軍勢をものともせず、単騎で数多の国を相手に圧倒するほど凄まじいとされ。
逸話の大半は、後の時代に脚色されたものであると、そう考えられているが、歴史や伝説に置いて、確かにその名を持つ魔女は存在して。
「災厄の魔女だと?どういう意味…」
『突然の事ですので信じて頂くかはお任せいたしますが』
セティスが問いただそうとするが、魔女と名乗った女の声は一方的に続く。
『わたくしは過日、姫様が懇意にされておられます、シェフィールド領領主グライス様の一人娘、ミリエラ様をお預かりしました。』
「まずはこちらの話を聞け。それから」
『シェフィールド卿には伝えておりませんので、領内においては行方不明という事になっていることかと思います。』
静止の声など届かぬように。無視するように。
『そうそう、伝え忘れておりましたわ。わたくしの声と、球体に映し出した姿は、あくまでも記憶したものを繰り返しているだけ。
これは文字の代わりに姿と声で伝えるだけの、ただの書簡になりますわ。』
「な、なに?ではそこにいるわけでは」
『今、この場に居るわけではございませんので、わたくしにもミリエラ様にも、皆様の言葉は届きません。
あくまでも書簡、こちらの言葉を伝えるだけのもの、とご理解ください。』
「・・・・・」
これは書簡であると理解し、口を噤むセティス。
にわかには信じられない、魔法で声と姿を伝えるの手紙という未知の技術に内心驚愕しつつ、状況を見極めようとこの場に居る全員が球体を凝視する。
『ミリエラ様を預かりました理由ですが、わたくしの目的はアセリア姫様でございます。
貴国のみならず近隣諸国からも讃えられている、素晴らしい才を持った、美貌の姫君。』
その言葉を聞き、ピクリと体を震わせるアセリア。無意識に隣に立つセティスの手を握る。
『民のために先頭に立ち、多くの方々を自ら率先して救われる、聖女のようなお方。
ぜひ一度お会いしまして、わたくしの願いを聞き届けて頂きたいと、そう思います。』
願い?災厄の魔女を語るものが、一体何を願う?
『ですが、かつては恐怖の象徴たる魔女として恐れられたわたくしがご招待をしましても。
ご自身のみならず、関係の方々、そして貴国にも取り合って頂けないものと理解しております。』
(つまり人質という事か。姫様を狙う下賤な魔女め。)
セティスはすでにこのメッセージの意図を理解し、この書簡の送り主を完全に敵とみなす。
『そこで大変失礼な形ではございますが、アセリア姫様が懇意にされておりますミリエラ様をお預かりすれば、姫様としては動かざるを得なくなると愚考いたしました。』
『卑劣な手段ではございますが、ミリエラ様は人質、と考えて頂いても間違いはございません。』
「それではミリエラさんは、私をおびき寄せるためにこんな目に。」
開封の時、封印を解いていたときは、その高度な魔法を使う相手がどんな方なのか?
と、ときめきにも似た感情を持っていたアセリア。
だが今は、その相手の取った手段に強い嫌悪と、そしてその高い魔法技術に恐怖を感じる。
『書簡が届きました日から三日後の夜、貴国シェフィールド領の北東端、カヤック村からほど近いホルン岬に。
わたくしの城を建ててお待ちしております。』
『聡明なアセリア姫様であれば、わたくしの願いを聞き届けて下さる、そう信じてはおりますが。」
意味ありげに言葉が途切れ、球体に映る、吊り下げられたミリエラの後ろから、白いサテンの、艶やかなドレスグローブに包まれた、たおやかな繊手が伸びてくる。
その掌はミリエラの首に後ろからそっと触れ、優しく撫でるように動き。
『もし仮にお越し頂けないようでしたら、わたくし<災厄の魔女>としては。』
言いつつ、その手を首の前へ回し。
『ミリエラ様の身の安全は、保障致しかねます。』
「や、やめなさい!ミリエラさんを離して!!」
親友の危機に耐え切れず、アセリア姫のあげた悲痛な声が部屋に響く。
主人公がいきなり悪役ムーブ全開でスタート。この先が大丈夫か書いていて心配です。
以下簡単なキャラ紹介。増えてきたらどこかで紹介ページ作るかもです。
■セラフィーナ
本作の主人公。かつて<災厄の魔女>と呼ばれ、天災級のバケモノとして扱われた存在。
性格は温厚で優しく、穏やかな物腰で接する、見た目は少女だがオトナの女性?
とても強くて美しくて優しくて。天然でポンコツという、分かりやすいキャラクター。
■アセリア
本作の一応メインヒロインのはずの人。
外見、表向きの性格、物腰はセラフィーナと丸被り。
ただしこちらは天然でもなければポンコツでもない。
フィルメリア王国最高の魔法使い、魔術士である。王国の至宝。
■セティス
本作のサブ?ヒロイン。
なんとなくメインヒロインとかサブヒロインとか関係なく、自由に活躍させてあげたい人。
若くして騎士団長になっており、容姿は二十歳前後にしか見えないが、実年齢は20代中盤~後半くらいのイメージ。よくある、魔力がすごいから歳を取るのが遅い系の人。
■ミリエラ
暫くの間ヒロイン二人を差し置いて、メインポジションに君臨してそうな子。
性格は純真で、とてもいい子。
4話くらいからしばらく大変な目に遭う。
■クラード
パパ
■シルヴィア
ママ
■ロスペール
秘書官。名前は本編で出てこないし活躍もしない。
大量の書簡を仕分ける業務に駆り出され、疲労困憊のかわいそうな人。