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それは絶対にお断りしますわ  作者: ミカン♬
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前編

 リリアベルは幸福だった。実の両親に愛されて育ち、夫のカインとは7年の婚約期間を経て結婚に至り、ハリソン侯爵夫人としての立場も確立しつつある。

 使用人たちとも上手くいってる、領地経営も夫は手腕に長けていて問題ない、王家からも信頼され王太子妃とは友人である。


 誰から見ても幸福なリリアベルだが一つだけ悩みがあった。それは子供がまだ授からないという非常に繊細な問題だった。


 結婚して3年、夫との夫婦生活も互いに不満は無く、毎日同じベッドで朝まで過ごし、友人同士のお茶会で閨の内緒話を聞いてもリリアベルは夫に愛され過ぎていると思うのだ。


 なのに子どもが3年経っても授からない。


「私、お医者様に診て貰ったの、女医さんよ。問題は無いって言われたわ」

「じゃぁ僕に問題があるのかな、遺伝かも知れない、父も長く僕を授からなかった」


「お医者様がね、一度ご主人も受診してみればって言ってるんだけど、どうなさいます?」

「そうだね、受けてみようか。問題があれば早く治療を受けた方が良いよね」


 だがカインの受診は義母に却下された。

「そんな必要はありません。時が来れば授かります」


 義理の両親はこの3年間一度も孫の話を持ち出さず、せかすことも無い。非常にありがたいことだったが、それは義父母が愛情の薄い人物だからと思っていた。


 義父母は仲の良い夫婦ではない。お互い夫婦を職業のように捉えて社交界では仮面夫婦を演じている。

 昔から一人息子のカインにも愛情を注ぐのを感じたことが無い。

 家族すら一つの職業と捉えているようだった。


 リリアベルが11歳の時にカインの婚約者となり、ハリソン侯爵夫人から教育を受ける時点で違和感があった。

 とにかく、侯爵夫人としての矜持を持つよう耳にタコが出来るほど繰り返して言われた。


『淑女として品位を損なわず、決して夫に見返りを求めない貞淑な妻になりなさい。夫に逆らってはいけません。いずれは良き母親になって、子どもをしっかり教育しなさい』


 高位貴族の侯爵夫人ならそうするべきだろうとリリアベルは思い続けていた。

 カイン自身が思いやりのある人なので、義母に言われるような妻になると思っていたのだ。


 ただ、そう言ってる義母が完ぺきな侯爵夫人かと問われるとリリアベルはちょっと違う気がするのだ。

 なぜだか義母はいつも機嫌の悪い愛想のない人で、良き母親とは思えなかった。


 それはカインも同じ気持ちで、そのせいもあってカインはリリアベルに深く愛情を求め、早く結婚したいと言い続けていた。

 学園を卒業すると二人は直ぐに結婚し、甘い新婚生活を送り温かな家族の未来を想像していた。


「子どもを授からなくても養子を迎えればいいさ。僕は君が妻でいてくれれば、それだけでいい」

「そうね、愛してるわカイン」


 実はカインは義母に内緒で不妊の受診を受けていた、しかしどこも異常がなかったのである。

 お互いに健康体なのに妊娠しない、これは運が悪いとしか言えない。


 3年も経つと男は浮気をするものだと友人たちは嘆いていた。子どもが出来たら愛人も出来たと、涙ながらに語る友人を見るとリリアベルも不安になってゆく。



 そんな不安が的中するように3年が過ぎてリリアベルの幸福は壊れようとしていた。


「カインに愛人を持たせて子どもを産んでもらいます」


 義母が朝食の最中そう宣言したのだ。


「候補は遠縁にあたるユラにお願いしています」


「お母さん、僕はそんなの断るよ、ベルを愛してるのに愛人なんて冗談じゃない」

「お母様、子どもは時が来れば授かると言って下さったじゃないですか」


「3年経っても子どもは授かりませんでした。諦めなさい」


 確かに3年授からなかったリリアベルは反論できない。カインと相性が悪いと言われればそうかも知れない。養子ではなくて義父母はカインの子どもを望んでいる。



「ユラの産んだ子はリリアベル、貴方の子として引き取ります」


 カインとユラの子を自分の子として育てる?お断りだった。


 ユラはくせの無い美しい金髪が自慢の、現在義母の侍女をしている二十歳の男爵令嬢である。時々リリアベルに不敵な視線を向けるのでリリアベルはユラが大嫌いだった。


 今もユラは義母の後ろで勝ち誇った顔をリリアベルに向けている。


 義母のお気に入りなので黙っていたが、ユラはいつもカインを熱のこもった視線で見つめていた。だから夫が侯爵家の実権を握れば真っ先にユラを解雇して欲しいと思っていたのだ。


 義父母はユラを最初からカインの愛人にしようと考え、リリアベルは飾りの侯爵夫人として嫁に迎え入れたのだ。リリアベルは改めて義父母を異常だと思った。


 ユラでなくてもリリアベルは愛するカインの愛人なんて、誰であっても絶対に認められなかった。





読んで頂いて有難うございました。

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