73.美少女のお願いならしかたないよね
1年以上間が空いてしまいました……すみません。
「うわぁ……」
思わずため息が漏れてしまった。
だって、目の前に広がる料理の数々、それにキラキラした調度品からなんだかよくわからない音楽まで流れてるし。
これぞ『貴族』って感じだ。
「これらはすべてお好きなものをテーブルにお運びいたしますので、遠慮なく仰ってください」
執事さんが恭しく頭を下げた。
「あれが欲しいのですー! これも欲しいのですー!」
「ちょ、ちょっと、セラフィ! 少しは遠慮しなきゃダメよ!」
「ハッハッハ、遠慮などしないでください。お付の方々も遠慮なく申し出てください」
アレコレとメイドさんにいろいろな料理を取らせるセラフィの姿に、クリプトン伯爵は少しも嫌な顔をせずに笑った。
話に聞いていたように、本当にいい人なのかもしれないな。
まだ油断しないけど!
「じゃあ僕もお願いします」
僕もいくつかの料理を選んでメイドさんに運んでもらった。
「ご主人様の料理もおいしそうなのです!」
「はいはい、後で取ってもらおうね」
「……おいしい」
チヨメが珍しく料理の感想を口にした。
「――ん! おいしい!」
たしかにチヨメが感想を言うのも頷けるおいしさだ!
さすが伯爵、きっと凄腕の専属シェフでもいるんだろうな。
「お気に召していただけたようで何よりです。お食事を取りながらでも構いませんので、聞いていただけますかな?」
「こちらへ招待してくださった理由ですか?」
「ええ。と言いましても、構えるほどのお話ではありません。ただ、現在のアルゴン帝国とボロン王国の状況からのお話になります」
予想はついていたけど、商人ギルドでも話が出たように、ここでもそこへ繋がってくるみたいだ。
はてさて、商人ギルドのルークさんが言うように、話の内容が穏便であればいいけど……。
「既にご存知のように、我が国とフラン殿の国は非常に危うい緊張状態であると言えます。聖女様がいらっしゃるので、私の言葉に信憑性がつくことでしょう。これから言うことは、私の嘘偽りない考えでございます」
「お聞きいたします」
「ありがとうございます。まずこの街『ポタシクル』の長としてですが……我々はボロン王国と敵対する意思はございません」
クリプトン伯爵はこれまで聞いた通りの人柄で、どうやら本当にボロン王国と袂を分かつつもりはないみたいだった。
「つまり、それはボロン王国に味方すると受け取ってもよろしいですか?」
「……いえ、そこまでではありません。ですが、この街が帝国領であるからといって、すべていいように扱われるつもりはないということです」
うん、むしろそのほうが自然な流れに感じるな。
完全にこっちの味方ですっていうほうが信じられないし、結局のところ中立な立場ですよってことをアピールしたいんだろうなぁ。
「なるほど。おっしゃりたい意味はなんとなく察することはできます。では、今回私たちをお呼びしていただいたのはそれを説明するためですか?」
アリシアさんの鋭い指摘に、伯爵は一瞬強張った表情を浮かべたように僕には見えた。
きっと、それだけのためじゃないんだろう。
「もちろん、1番は聖女様とボロン王国のモーリブ商会の方々に敵意がないことをお伝えすることを目的としています。ですが……」
伯爵は一瞬言い淀むも、再び口を開けた。
「――会って、見ていただきたい者がいるのです」
◆◇◆
「シーラ、聖女様が来てくれたよ」
僕たちは今、クリプトン伯爵の奥さんのいる寝室へとやってきていた。
理由は単純明快、奥さんのシーラさんが数日前から臥せってしまったようだ。
「シーラ……」
「あの、クリプトン伯爵、奥様は病で……?」
「それがわからないのです……。少し前までは元気にしていたのですが、少し体調を崩しだしたらそこから坂を転げ落ちるようにどんどん悪くなっていき……医者に診てもらいましたが、治療方法が見つからないのです」
「そうだったんですね……ポーションなどは?」
「いざというときの家宝にしていた上級のヒールポーションを使いましたが、効果は得られませんでした。それ以外は……」
ということは、少なくとも内蔵損傷などのケガによるものではないはずだ。
もしそうだったら、完治はしないにしても多少の効果は現れるはずだし。
「――聖女様! どうかっ、どうか妻を救ってください! お願いします!」
伯爵の必死のお願いに、アリシアさんは困った顔を浮かべた。
それはそうだろう、彼女にそんな力はないわけだし。
AOLでは回復魔法はないし、それは聖女だろうと教皇だろう同じだ。
セラフィの持つ『固有能力』の《天使の祝福》だけが特別で、普通はポーションに頼るしかないようになっている。
だから――、
「申し訳ありません……私には治すことができません」
アリシアさんには断ることしかできなかった。
「私には人々を治癒するような力がないんです……。光属性や聖属性は扱えるのですが、それらで人々を救うことはできないのです。回復に関しては、私たちもポーションに頼っているんです」
「そ、そんな……」
クリプトン伯爵はがっくりと肩を落とし、崩れ落ちてしまった。
よくある話だけど、聖女や教皇なら回復魔法が使えるのではと、窮地に陥った人々は思い込んでしまうのだ。
きっと、伯爵も最後の希望と思って賭けていたんだろうな……。
「ん?」
僕がそんな項垂れる伯爵を見ていると、2つの視線を感じた。
――フランさんとアリシアさんだ。
フランさんは「ソーコさんなら治せるのでは?」という意思がこもってそうな目で語り掛け、アリシアさんはうるうると瞳を潤ませて見つめてきた。
――はぁ、この2人からのお願いならしかたないか。
僕はインベントリを開きつつ、
「少し、時間をもらえますか?」
と、2人に告げるのだった。
新しく投稿を始めました!
『おっさんから始まる無双ライフ 〜スキル『シャドウマスター』は最強でした〜』
https://ncode.syosetu.com/n7861jt/
チートスキルを授かうも役に立たず、おっさんになってから覚醒する物語です!
本日複数話投稿するので、ぜひ読んでみてください!




