26.フェル
「うぅ……あっ!」
よろよろと頭を上げたフェルが、僕達を見て驚きの声を上げた。
「お、目が覚めた? これ、ヒールポーションだから飲んでね。……どう? どこか痛いところとかない?」
フェルには、レノにあげた下級ヒールポーションより断然効果の高い上級を飲ませた。
怪我の度合いはレノより低いと思うから、治らないことはないだろうけど、一応確認する。
「え、あ、はい! 大丈夫です……?」
フェルは今の状況に、ちょっと混乱しているようだ。
まあ、当然か。
僕の横には嬉しそうにくっつく女性とそれに冷たい目を向けるアンジェ、そして地に伏せて感涙している少年吸血鬼。
うん、カオスだね。
僕だって逆の立場なら説明を求めるに決まってる。
「あ、あの……」
「あー、うん、フェルの考えてることはわかるよ。まずちょっと説明するね。とりあえず、レノは立ってリリスは離れようか」
名残惜しそうに従うリリス。
レノもいつまでも土下座の姿勢はちょっとね。
フェルに、彼女が気を失ってから現時点までのいきさつを説明した。
もちろん、ここがAOLの中だとか、アンジェやリリスがサポーターだとかは誤魔化してだけど。とりあえず、彼女達は離れ離れになってしまった僕の仲間と伝えた。
「――そうだったんですね。ポーションだなんて高価なものをありがとうございます。どれくらい掛かるかわかりませんが……か、必ずお返ししますっ!」
悪いのはセシール達であって、フェルは何も悪くないのに、律儀にもポーション代を払おうとしてる。
健気な子だなあ。
「気にしないでいいよ。一時的にもパーティーを組んでたわけだし、仲間なんだから助け合わないとね。それより、何でセシール達と一緒にいたか……よかったら教えてくれる?」
「そ、それは……」
フェルはそこで口籠ってしまった。
なんとなくだけど、フェルの性格的にこれ以上僕に迷惑を掛けたくないと思ってるかもしれない。
「大丈夫ですよ。ソーコ様は、あなたのことを迷惑だなんて思いません」
「そうよ。きっと、あなたの力になってくださるわ。だから安心して話しなさい」
2人ともナイスフォロー!
ちょっと照れるけど、2人の言うようにフェルを助けれるのなら助けたい。
こんな可愛い子が悩んでるなら、手を差し伸べるのは当然だよね!
「2人が言うように、出来る限り力になるよ。聞かせてくれる?」
「……わかりました」
フェルはゆっくりと口を開き、これまでのことを僕達に話し始めた。
フェルはこうなる前は、母親は病気がちであったが、幸せに暮らしていたそうだ。
しかし治療薬は高く、少女が手に入れるには借金をするしかなかった。
でも、いつまでも借金生活でいられるわけもなく、冒険者になる決意をした。
彼女には、《野生の嗅覚》という罠を発見したり鍵を解錠する能力があったが、冒険者となるには実力が不足していたので荷物持ちとして様々なパーティーに参加していたそうだ。
それでも高価な薬代の前には焼け石に水で、借金はどんどん膨れ上がっていった。
だけど、残念なことに母親は亡くなってしまい、後には借金だけが残ってしまった。
そして、借金をしたところから働き口として紹介されたのが、セシールのホームだった。
彼等はBランクと高ランクなため、稼ぎも良かったのが理由だそう。
でも、フェルはセシール達にこき使われ、借金を返しているのかどうかすらわからない酷い状態のようだった。
「セシール様に、後どれくらい借金があるのかお伺いしたのですが、『まだ全然足りない』の一言だけで……フェルはもうどうすればいいか……。申し訳ありません、セシール様たちのことをもっとしっかりお話できればこんな事にならなかったのですが」
フェルの大きな瞳に涙が溜まる。
だけど、フェルは必死に堪えて流さないようにしていた。
そうか、フェルが『気をつけてください』って何か言いかけてたのは、セシール達のことだったのか。
まったく、こんなかわいい子を泣かせるだなんて許せないね。
「気にしないで。それよりも……辛かったね。どうだろう、よかったら僕達のホームに来ない? まあまだ(仮)なんだけどね」
「フェ、フェルがですか!? で、でも、フェルは戦えないですし、罠よけくらにしか……それに、これ以上ソーコ様達にお世話になるわけには……フェルは何もお返しができないです」
やっぱり彼女は気付いてないみたいだ。
僕は、冒険者ギルドで出会ったとき、全員のステータスを見た。
そのときに僕は知ってしまったのだ――彼女の秘めた力を。
再確認するためにもう一度フェルのステータスを見てみると――、
【名前】フェル
【種族】獣人族
【レベル】5
【HP】1800/1800
【MP】3/3
【力】33
【耐久】32
【魔力】5
【器用】17
【敏捷】34
【運】49
【クラス】
短剣術Lv.1、体術Lv.1、爪術Lv.1、回避Lv.1、索敵Lv.1
【種族スキル】
《野生の嗅覚》:本能的に罠の位置がわかったり、鍵の解錠にも長けている。
パッと見はレベルが5と低く、ステータスも低く見える。
だけど、獣人族ということもあって基礎値が高いことを考慮しても、この数値はレベル5にしては異様に高い。
クラスもこれだけあれば十分だし、将来性でいえば、URのサポーターと同程度まで伸びる可能性を秘めてると思う。
種族スキルの《野生の嗅覚》もかなり優秀だしね。
「フェルにはすごい可能性があると思う。嘘じゃない。だから、僕達の仲間になって欲しいんだ。どうかな?」
「……でも可能性だなんて、フェルなんかじゃご迷わ――」
「――迷惑なんかじゃない。フェルが一緒にいてくれれば心強いし、僕達の仲間になってくれるなら――本当に嬉しいよ」
「――っ!」
フェルが俯く。
ふるふると震える、ぽつぽつと涙が零れ落ちた。
僕は、フェルが落ち着くのをゆっくり待つ。
今きっと彼女は、気持ちの整理をつけているだろうからね。
すすり泣くような声も止まり、フェルはゆっくりと顔を上げた。
もう涙は流れておらず、その表情はとても晴れやかな笑顔だった。
「初めてそんなこと言ってもらえました――どうか、よろしくお願いします!」
よかった。
これまで信じたことも裏切られてきただろうに、僕のことを受け入れてくれたようだ。
フェルの信頼に答えられるように、僕も頑張らないと!
「よろしく! フェル!」
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