25.固有能力《ユニークスキル》
リリスに再会することができ、僕はほっと安堵のため息をついた。
よかった。
アンジェから聞いた話だと、サポーター達はみんな散らばっちゃったみたいだから、ほんとにまた会えるかやっぱりどこか不安だった。
「ん? リリス?」
リリスの様子がなんかおかしい。
こっちを向いたまま、固まってる?
「ぁ――」
「ん?」
「あああぁぁぁああ――!! 主様あああぁぁ――――っ!! ずっとお会いしたかったですわぁぁ――っ!!」
僕よりも背の高いリリスが、子供のように泣きながら抱きついてきた。
その勢いで、思わず後ろに倒れそうになる。
「っとと――僕も会えて嬉しいよ、リリス。いっぱい待たせたみたいで……ごめんね」
僕はそう言って、リリスの頭を撫でた。
きっと、リリスだって数百年も主である僕に会えなかったし、不安だったんだろう。
「うぅ……ようやく会えましたわ……。主様と再会するこの時をどれほど待ちわびていたか……もう、離れたくないですわ――!」
「リ、リリス、苦しい……」
ガッチリと抱き締められ、身動きが取れなくなる。
リリスと僕ではレベル差がかなりあるので、本気を出されたらどうしようもない。
「あぁ、主様の匂い……! 温もり……! たまりませんわ――」
「――リリス、いい加減にしなさい」
「――あぅ!?」
ゴスッと鈍い音と呻き声が上の方から聞こえた。
どうやら、リリスの頭にアンジェがチョップをしたみたいだ。
痛そうにリリスが頭を抑えたので、なんとか僕は解放された。
く、苦しかった……。
「まったく、あなたときたら……」
「しょうがないじゃない……主様とやっと出会えたんですもの。それにしてもあなた、久し振りだというのに随分じゃないの」
「自業自得です」
呆れるアンジェと子供のように拗ねるリリス。
普段大人っぽいリリスがこうなんだから、よっぽど嬉しかったみたいだ。
この城に数百年ずっといたのかな。
いやでも、確か数週間前に突然現れたとか言ってたな。
城ってそんなに突然建つものなのかリリスに聞いてみると、
「これはセバスの能力で建てましたわ。眷属達にも主様のことを探させていたので、拠点となる場所を用意させましたの」
「あー、なるほど。セバスにそんな能力があったんだね」
セバスとは13人いる純血種の眷属の1人で、彼がほとんど眷属をまとめ上げている、とリリスに聞いたことがある。
しかし、眷属にも特殊な能力を持ってたりするのがいるんだなあ。
AOLでは、さすがにリリスの眷属の能力まではわからなかったな。
もしかして、僕達の持ってる『固有能力』みたいなものかな?
『固有能力』とは、誰でも取得できる共通のスキルや魔法とは違い、個人が持つ特殊スキルだ。
AOLではプレイヤーに3つ初期から共通のものが与えられていた。
サポーターにも最低1つはあり、アンジェやリリスのようなランクがEXRのサポーターは2つ持っている。
ちなみに『種族スキル』とは別になるので、吸血鬼であるリリスもフェルのように持っている。
でも、人種である僕やアンジェには種族スキルがないのだ。
「そういえば、今、そのセバス達は? 僕のことを探しに行ってるの?」
「はい、その通りですわ。私もこれから主様を探しに城を出るところでしたわ」
泣き止んだリリスが教えてくれる。
そうか、純血種組はお出掛け中か。
ということは――、
「彼はお留守番かな?」
僕は床に伏せている少年に目を向けた。
「……レノ、あなた何やってるの?」
リリスの言葉に、びくりと肩を震わすレノ。
「ぁ……リ、リリス様……」
レノはガタガタと震え、それ以上言葉を続けれない。
まあ、ここであったことをそのまま報告したら、リリスの性格上かなりの罰が下りそうだ。
「ああ、それは――」
「――ソーコ様、私が説明します」
助け舟を出そうと口を開いたが、アンジェに止められてしまった。
ごめん、レノ。
アンジェじゃあ、包み隠さず話しちゃうだろう。
強く生きてくれ。
◆◇◆
「なんと、そんなことが……」
リリスはここであった一部始終を聞き、言葉を失った。
レノも吸血鬼なので元々白い肌をしていたけど、それ以上に顔面蒼白になっていた。
「確かに愚かな行いをしたのはその者ですが、元はと言えばリリス、あなたがしっかり教育していないせいなのです。あなたの管理不足を問われてもしかたないのでは?」
「う……」
アンジェも少しはレノを手助けしてくれたかなと思ったけど、同時に今度はリリスが責められていた。
レノは「アンジェ様、すべて私の責任です! 一切リリス様に落ち度はありません!」と必死に訴えてたけど、アンジェに「黙っていなさい」と一蹴されていた。
ちなみに、アンジェの纏う雰囲気が怖いので、僕は口を挟まないように黙っている。
「確かに、あなたの言う通りね……。主様、眷属であるレノが主様に行った数々の不敬、大変申し訳ございません。主たる私がいかなる罰でもお受けします」
「リ、リリス様!」
リリスがその場に膝を付いて頭を下げた。
これで土下座を見るのは、今日だけで2回目だ。
レノは、その光景を見て完全に硬直している。
まあ、自分が発端となって敬愛する主が土下座するだなんて、ショック以外の何物でもないだろうし。
「リリス、頭を上げて。ていうか、立って。僕はそんなの望んでないし、もう何も気にしてないよ。それと、アンジェも言い過ぎだよ。アンジェが僕のことを大切に思ってくれるのは嬉しいけど、僕達は仲間だ。いや、家族同然だ。こんなことで追い込んで、家族に土下座なんかさせちゃダメだよ」
「も、申し訳ありません、ソーコ様。言い過ぎてしまいました……」
諭すように僕が言うと、アンジェは慌てて謝った。
彼女も悪気があったわけではなく、忠誠心の高さ故に許せなかったのだろう。
「とりあえず、この件はこれでおしまい! はい、レノ」
僕は、レノに下級のヒールポーションを手渡した。
これくらいの怪我なら下級でも十分治るだろう。
「い、いえっ、この程度の怪我、放っておいて大丈夫ですので! ソーコ様のお手を煩わせる必要もございません!」
レノは慌てて拒否しようとするも、
「いや、そんな大層な物じゃないし、気にしないで使ってよ。それにそのまんまにしとくなんて、僕が気になっちゃうし」
「あなた、ソーコ様の好意を無下にするつもりですか?」
「そうよ。レノ、頂きなさい。そして、主様のお情けに感謝しなさい」
3人に言いくるめられ、レノはポーションを受けとった。
「私のような愚か者に……感謝の至りでございます。ソーコ様、頂戴させて頂きます」
感激したレノがポーションを飲むと、身体が少し光り、みるみる顔の傷が消えていった。
「お、よかった。元通りだね。それじゃ――」
「ぅ……んん」
この後のことについて話そうとすると、気を失っていたフェルが意識を取り戻した。
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