24.アンジェ的教育指導
「話? 貴様と私が何を話すというのだ。殺され方のリクエストでもしたいのか?」
レノが小馬鹿にしたような嗤う。
「殺される気はないし、殺す気もないよ。――っとその前に、アンジェ、フェルにこれを」
「わかりました、ソーコ様」
アンジェに上級ヒールポーションを渡した。
一瞬でフェルの傍まで移動したアンジェは、彼女を抱えて一旦後ろへ下がってポーションを飲ます。
フェルの体が淡く光り、すぐに消える。
徐々に苦しんでいた顔が和らぎ、すうすうと穏やかな寝息が聞こえてきた。
よかった、これでもう大丈夫だろう。
「――っと、話の途中だったね。とにかく、レノはリリスの眷属だし、殺る殺られるの戦いをするつもりはないよ。僕はリリスに会いたいだけなんだから」
「貴様、性懲りもなく――いや、待て。なぜ、貴様が私の名前を知っている」
レノが少し驚いた顔をしている。
ああ、そっか。
僕が鑑定で勝手に名前を見ただけで、彼は名乗ってなかったっけ。
そりゃあ、不思議だろう。
「僕は鑑定スキルがあるからね。でも、君が何種の吸血鬼かまでは分からなかったんだ。だから、さっきはごめんね。悪気があったわけじゃないんだ」
僕は隠すことなくレノに教えた。
セシール達のようなこの世界の人に言いふらすつもりはないけど、彼はリリスの眷属だし、僕は仲間だと思っている。
だから何も隠す必要なんてないのだ。
「鑑定スキルだと? 貴様のようなやつが、そんな特殊なスキルを持っていると? ふむ、おもしろい。ならば、私を倒すことが出来れば、貴様をリリス様の元へ案内しよう。だが、貴様が取るに足らない相手であれば餌にしてくれる」
「いや、僕は戦うつもりないんだって――」
なぜか戦う気マンマンになってるレノに、僕がNOを突き付けようとすると、
「――ソーコ様」
「どした?」
「先程からの不遜な態度、目に余ります。いくらリリスの眷属であるとはいえ、最上の主に対する態度ではありません。まったくもって、言語道断。リリスに代わって、私が躾けましょう」
「え? ちょ――」
貼り付けたような氷の微笑でレノを見据えるアンジェ。
僕が慌てて彼女を止めようとするも、
「ん? 貴様、今何と言った? 『ソーコ』と――」
「――いきます」
アンジェは一瞬でレノの前まで移動し、
「――げぼあッ!?」
穴が空くんじゃないかというボディブローをかました。
――うえぇ……レノの身体が浮いたぞ……。
「はぁぷ――ッ!?」
今度は浮いたレノの顔面に回し蹴りをする。
レノは、バウンドしながら10メートル近く後方の壁に叩きつけられた。
「さあ、立つのです。まだ、躾けは終わってませんよ? 理解するまで、その身に刻み込んであげましょう」
仁王立ちのアンジェが、レノを見下ろしながら冷たく言い放った。
顔を上げたレノの鼻からは、大量の血が流れ出ており、整った顔が台無しになる。
まるでさっきのセシールみたいだ。
目の焦点も定まってないし、痛みよりも驚きのほうが大きそうだ。
「ア、アンジェ、ストップストップ! これ以上は必要ないよ!」
「いえ、ソーコ様。このような輩には徹底的に教え込まないと、自分の立場を理解できないのです。ソーコ様に相応しい態度が取れるように、殴り付け――いえ、躾けてみせましょう」
「今、殴り付けって言ったよね!? もう、十分だから! レノも、もう分かったでしょ?」
これ以上レノを傷付けないように、僕はアンジェを説得する。
いくら態度がアレだからって、仲間同士で血だらけになるような一方的な戦いは見たくない。
あれだけ大口叩いてたレノも、さすがに理解できただろうし。
「――ソーコ? アンジェ……? え、いや、そんな……え?」
「呼び捨て、ですか。どうやら、まだお仕置きが必要なようです」
アンジェの言葉に、レノの肩がびくんっと跳ね、ガタガタと震えだした。
「あ、あの、もしかして……リリス様の主であるソーコ、様と、リリス様と同格……従者であられるアンジェ様でしょうか?」
「あ、うん、そうだよ」
「ようやく気付きましたか」
レノは震えが最高潮に達したのか、口をあわあわさせながら、目から大粒の涙を流しだした。
すぐにシュババッと地に頭を付け、
「も、もももも、申し、申し訳ありませんでした――っ!!!」
完璧な土下座だった。
土下座なんて初めてされたけど、なんとも綺麗なフォームだ。
レノの反応を見るに、どうやら僕やアンジェの存在は知っているみたいだ。
ただ実際に会ったことがなかったから、気付かなかったんだろうね。
「ソ、ソーコ様とアンジェ様とはつゆ知らず、これまでの不敬極まりない態度、大変申し訳ございません……ど、どうか、お許しを――」
涙と血でぐしゃぐしゃになって、どんな沙汰が下るのかと震えながら謝るレノ。
これじゃまるでイジメてるみたいで、なんだか居心地が悪い。
「あー、まあ、僕もちゃんと名乗らなかったしね。わからなかったのもしかたない――」
「いえ、ソーコ様。ソーコ様は何一つ悪くありません。仕える者ならば最上位の主を知っておくべきですし、あまつさえそのお方に手を出そうとするとは――やはり、もう少し教育が必要な気がしてきました」
アンジェの圧に、レノの額から汗が流れ出す。
色々流れ出ちゃって、このままだと吸血鬼なのに干からびちゃうよ。
「まあまあ、アンジェ。その辺で終わりにしとこう。それよりも、僕はリリスに――」
そう言いかけると、
「レノ、なんだかすごい音が聞こえて――っ!?」
「リリス!」
広間の奥の扉が開き、リリスが入ってきたのだった。
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