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20.気をつけて

 冒険者ギルドを出た僕達は、一旦宿屋に戻ることにした。

 特に準備なんて必要ないんだけど、することもないし、宿で納品用のポーションでも作ってようかな。

 素材はまだあるし、道具も持ってるしね。

 AOLでは素材と道具さえ揃っていれば、スキルを使用してポーションを錬成することができる。


 ――それはこの世界でも可能だ。


 まあプレイヤーに限ってだろうけど、昨日、宿でまったりしてるときに試してみたから間違いない。

 宿に着くと、リーリに昨日と同じように夕飯時に呼んでもらうように伝え、部屋へと戻る。

 ベッドにボフッと体を投げ出し、仰向けになった。


「ふぅ、焦ったなぁ。エリーさんってば、急に顔を近付けるんだもん……」


「こんな風にですか?」


「わっ!」


 寝転がって天井を見ていた僕に覆い被さるように、アンジェは顔を近付けた。


「び、びっくりしたあ。どうしたの突然? てか近いよ、アンジェ」


「むぅ……ソーコ様、エリーさんの時と反応が違うような気がしますが」


「そ、そう? ドキドキしてるといえばしてると思うよ? そりゃあ、アンジェは可愛いし。でも、アンジェはいつも傍にいてくれてるけど、エリーさんは慣れてないしね」


「か、可愛いですか?」


「え、うん。誰が見ても可愛いでしょ」


「そ、そうですか……うふ、うふふ――」


 アンジェがなにやら嬉しそうに両手を頬に当てて身をよじってる。

 EXRのアンジェが可愛くないわけないじゃないか、まったく。

 その後、しばらくニヤニヤしたり赤くなってるアンジェを放置し、ポーション作りに勤しんだ。

 素材もまだあったので、薬師のスキルを駆使して、ヒールポーションの特級を1本と中級と下級を2本ずつ錬成することにした。


「よっと」


 インベントリから錬成道具を取り出し、素材となる薬草の『ニード草』と『ヒール草』を用意する。

 このニード草は、すべてのポーションに使われる薬師の必需品といっても過言ではない。

 ヒール草はその名の通り、ヒールポーションの錬成に使用する薬草だ。

 それらを必要な分錬成釜に入れ、


「《乾燥(ドライ)》……よし、《製粉(ミル)》」


 完全に乾燥させて砕き、粉末状にする。

 これだけでもスキルがなければ手間だろうし、ほんとスキル様様だ。


「《清水(ピュアウォータ)》」


 きれいな水を足し、《撹拌(スター)》で混ぜ合わせ、《抽出(エクストラ)》で不純物を取り除いた状態でもう1つの釜へ移す。

 そこへ《魔力放出(リリース)》で、魔力を混ぜ合わせる。

 この魔力の放出量と薬草の量で、ポーションのランクを決めることができるのだ。


「よし、まずは下級のできあがり! 次は中級だな」


 同じ作業を繰り返し、最後の《魔力放出(リリース)》だけ中級の量に調整する。


「こんなの、僕以外の薬師にちょっと申し訳なく感じちゃうなぁ」


 スキルが使えれば、たったこれだけで作れてしまうのだ。

 もはやチートだなと若干の罪悪感を感じつつも、最後に特級のヒールポーションを錬成する。


「――《限界突破(オーバーリミット)》」


 1つだけさっきまでと違うところは、薬師レベル10のスキル《限界突破(オーバーリミット)》を使用することだ。

 さっきまでの錬成方法は、実は上級までしか作れない。

 それ以上の最上級、特級、神級を作りたければ、例え必要量の薬草と《魔力放出(リリース)》をしたとしても、このスキルを最後に使わないと錬成成功しないのだ。

 このスキルは、文字通りランクの限界を超えて錬成するのだが、それでも錬成可能なのは最上級と特級までだ。

 神級はというと――、


「おぉっ! ラッキー!」


 錬成釜から神々しい光が放たれている。

 特級のヒールポーションが神級に昇格したのだ。

 神級だけは特級から運次第で昇格するようになっているから、ゲームでも神級はレア度が高いし、体感で言うと5%程度と結構シビアなんだよね。


「よし、とりあえずこれだけあれば十分かな」


 商人ギルドと約束したポーション納品については、種類は問わず、中級、下級、最下級を週に1本ずつとなっている。

 ぶっちゃけ、僕には簡単過ぎる依頼内容だ。


「納品する本数が多い分には問題ないはずだし、少し多めに納品しようっと」


 といっても、あまりどかどか納品しても、それはそれで大問題に発展しそうだからしないけどね。

 ポーション錬成後はリーリが来るまではベッドの上でうだうだし、夕食後も《浄化(ピュリフィケーション)》をお風呂代わりにしてさっさと寝ることにした。

 もしかしたら……もしかしたらだけど、明日はリリスに会えるかもしれない。

 離れ離れになってしまった仲間の1人と、再会できるかもしれないんだ。

 もちろん違う可能性もあるけど、絶対ないとは言えない。

 そう考えると、期待で胸が膨らんだ。



 ◆◇◆



 翌日。

 朝食を食べながら、リーリに今後について伝えた。

 宿から出ていくと伝えたときは寂しそうにしてたけど、またご飯を食べに来ると伝えると、とても喜んでくれた。

 いやー、ほんといい子だねこの子。

 なんならこの子も連れてきたいくらいだよ、ほんと。


「お世話になりました。またご飯食べに来ますね」


「ああ、いつでもおいで」


「ソーコお姉ちゃん、アンジェお姉ちゃん……絶対また来てね!」


「うん、近いうちにまた来るね! リーリも今度遊びにおいで」


「その時には私が頑張ってご馳走を用意しますね」


 女将さんとリーリにお礼を言い宿屋を出て、冒険者ギルドへ向かう。

 今日の夜から宿を取ってないから、依頼をこなしたら商人ギルドへ鍵を貰いに行かないといけない。

 あまり遅くなると商人ギルドが閉まっちゃうかもしれないし、なるべく早く依頼を終わらさねば。

 ま、頑張りますかね。

 ギルドに着くと、既に『輝く星々(シャイニングスターズ)』のメンバーは揃っていた。

 昨日と面子は変わらず、あのケモミミ少女も一緒だ。

 相変わらずお姉さん方が睨んできてるけど――とりま気付かない振りをしておこう。


「フッ、この『流星』を待たせるだなんて随分余裕じゃないか。まあいい、古城は街からそう遠くはない。さあ、行こうか」


 昨日も言ってたけど、何なんだ『流星』って。

 それにしても、相変わらずの自分大好き人間だな。

 お姉さん方は、後ろでなんかぶつくさ文句言ってるし。

 こんな最悪な雰囲気のパーティーでずっとは無理だけど、今回は一時的だ、なんとか我慢するしかないか。


「こんにちは、エリーさん」


「こんにちは」


「こんにちは、ソーコちゃん、アンジェちゃん」


 古城へ向かうために、ギルドで正式に依頼を受注する。

 受付はエリーさんだ、今日もかわいい。

 昨日の今日で若干の気まずさが僕にはあったんだけど、エリーさんの様子を見るに、彼女はまったく気にしてない様子だった。

 受注の手続きをしてるときに教えてくれたんだけど、どうやら何組も僕達より先に行ってるけど、踏破したところはもちろんまだないみたい。

 それどころか、帰ってきてるのはすぐ逃げてきた者達だけで、ある程度進んだところから帰ってきた人はいないみたいだ。

 ふーむ、もし相手がリリスなら、そこら辺の冒険者でどうにかなるわけがない。

 だって、EXR(エクストラレア)なんだから。


「くれぐれも気をつけてね」


「はい、ありがとうございます。いってきますね」


 古城は、ハイドニアの街を出て30分ほど歩いたところにあった。

 禍々しいオーラが漂ってるなあ。

 確証はないけど、いかにも吸血鬼とかいそうな雰囲気だ。


「さて、ここが噂の古城らしい。中々な雰囲気を醸し出しているが、僕達にかかれば調査することなど大したことではないだろう。可能なら踏破したいところだがな。では、準備は良いか?」


「はい! セシール様!」


「いつでも大丈夫ですわ、セシール様」


 相変わらずキザったらしいけど、古城の雰囲気だけでも普通の冒険者なら威圧されそうな感じがするだけに、そのキャラを変えないセシールも中々のものかもしれない。

 お姉さん方はそんなセシールしか見てないからか、恐怖感覚が麻痺してそうなだけっぽいけど。


「いいですよ」


「問題ありません」


 僕とアンジェも返事をする。


「フッ、Fランクの割に堂々としてるじゃないか。それでこそ、僕のパーティーに相応しい」


「……ふんっ」


「……チッ」


 もー、そういうのもうほんといいから……お願いだから僕よりお姉さん方を大事にしてあげて、ほんと。

 わけのわからない恋愛のいざこざなんて、メンタル的な意味でちょっときついです。


「では行こう」


 だいぶ僕もうんざりした顔が出てたと思うんだけど、セシールはまったく意に介してない様子だ。

 先頭にセシール、その後ろにお姉さん方、そして僕とアンジェが続き、最後尾にケモミミ少女という順で古城の中を探索していく。


「あ、あのっ」


「ん?」


 後ろにいたケモミミ少女から声を掛けられる。


「えと……き、気をつけてくださいっ」


「気をつける? 何を?」


「それは……」


「――おい!」


 ケモミミ少女が何かを喋ろうとしたとき、今度は前から声を掛けられる。


「お出迎えのようだ。君達の力を披露したまえ」


 セシールはそう言って、顎で前方を指し示した。

 マミーという、包帯をぐるぐる巻いたミイラが2体こちらに向かってきてた。

 これで僕達の実力を測るってことね。

 まあ、本気を出す必要はないけど、不信感を取り除くくらいの力はお見せしようじゃないか。

 おっとその前に――、


「そういえば、まだ自己紹介してなかったね。僕はソーコ、こっちはアンジェね。君の名前は?」


 このケモミミ少女の名前を聞いとかなきゃな。


「あ……フェ、フェルですっ」


「フェルね、うん。よろしく、フェル」


「よ、よろしくお願いします、ソーコ様、アンジェ様」


「様はいらないんだけどね――さて」


 僕は前に向き直り、バッグから『リーベンエンデ』を1本取り出す。

 わざわざ双剣の姿を彼等に見せる必要もないし、これで十分、というかオーバー過ぎるくらいだ。


「アンジェ、右の1体をお願い。僕は左のやつで」


「はい!」


 僕は片手に持った剣を握り締め、マミーへと駆け出した。

お読みいただきありがとうございます。


ソーコたちの物語を少しでも、


『いいな』


『もう少し読んでみたいな』


と思ったら、


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また、ブックマークもしていただけると本当に嬉しいです。


執筆活動の励みになるので、何卒よろしくお願いいたしします!

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