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第7章 標的の死角

「そう言えば、レイは時々何やらブツブツと呟いておるようじゃが、独り言か?」

「まぁ、そうだな……。聞こえているのか?」

「内容までは分からんが、ちょっと変じゃな」


 リリアとの会話を変だと言われてしまった。脳内で会話ができるのだが、つい口に出てしまうこともある。気を付けないとおかしな人だと思われてしまうとレイは考え注意する事にした。


「リリア。彼女たちの前に姿を現す事はできないのか?」

『彼女たちの脳に欺瞞情報を侵入させれば、できない事もないのですが。あまりお勧めはしません』

「なぜだ?」

「脳を操作することになりますから、後遺症が発症する事もあります。何より彼女たちしか認識できませんから、別の人には見えない事になります」

「つまり、彼女たちも幻覚を見ていると思われてしまうんだな」

「はい。不審人物だと思われるのは不憫です」

「俺はいいんだ……」


 レイはちょっと悲しい気分になった。以前から感じていたのだが、リリアの自分に対する言動は少し厳しいような気がする。とりあえずは独り言をしないように注意するしかないだろう。

 

『御主人様。魔物の反応です』

「あぁ。そうだな」

『口に出てますよ。脳内会話はどうされたのですか?』

「ちょっと油断しただけだ。お前、やっぱり意地が悪いな」


 会話をしながら周囲の気配を探っていた。斜め左前方15mほどに大きな魔物の気配を感じる。レイは少女たちを後方の木陰に移動させ、ゆっくりと魔物の方向に進んだ。魔物は川を挟んで向こう岸にいる。川幅は3mぐらいで、水深もそれほど深い訳ではなさそうだ。レイは軽く体を屈ませると一気に飛び上がった。助走も無く川を渡ったのである。

それを見ていた少女たちは驚きを隠せなかった。レイの身体能力は何度も見たが、ここまでとは思ってなかったのだ。


「リリア。これって」

『はい。人種がいるようです。2名分の生体反応を感じます』

「どうも魔物に追われているようだな。とりあえず、様子を見に行くぞ」


 レイから見て前方の木に隠れるようにしている人の気配を感じた。すでに魔物に見つかっているようで、魔物も隠れている人物に向かって進んでいる。レイは回り込むように魔物の横に移動した。幸い魔物の索敵能力は高くないようで、レイには気づかず隠れている2人しか分からないようだ。レイは隠れながら魔物を確認した。体長10mはありそうな大きなヘビだった。ぬめぬめと濡れ光っている白い鱗に覆われた体皮が印象的な大蛇が、鎌首をもたげて2人の方向を見ている。


「貴方! 魔法使いですよね。早くこんな魔物倒してください」

「うるさいわね!! 詠唱の時間が無いのよ! あんた囮になりなさい!」

「わたくしは聖職に就くものです。囮なんて出来ませんわ。元々、貴方が白蛇の巣にファイヤーボールを放ったからでしょう?」

「あれは……。まさか白蛇の巣だとは思ってなかったのよ。知らなかったから仕方ないじゃない!」


 隠れている2人がこそこそと言い合いをしている。幸い白蛇と呼ばれる白ヘビは、気付いて無いようだった。


「なぁ。リリア。あれはなんだ?」

『なんだと言われても困ります。会話から推測するにあの魔獣を怒らせたようです』

「そうだな。それは俺も分かるよ。魔法使いとか聖職ってなんだ?」

『私のデータベース内の児童向け物語に出てくる職業と同じ名称です。実際に存在するとは存じませんでした』

「じゃ、自称魔法使いかぁ。なんだか厄介ごとに巻き込まれそうだな。助けた方が良いと思うか?」

『御主人様の良心によります。見捨てても気になさらないなら、どうぞ』


 そう言われたら助けない訳に行かないじゃないかとレイは心の中で思った。実際、彼は彼女らを助けるつもりだった。ラーファ達以外の人間からも、情報を得る必要もあると考えていたのだ。レイは白蛇の横に静かに移動した。

白蛇はレイには全く気付いてないようで、彼女たちを探している。白蛇は生い茂っている木々の間を縫う様に動いている。


「ここじゃ、ちょっとな」

『何か不都合でも?』

「木が邪魔でやりにくいな。もう少し開けた場所は無いか?」

『白蛇と呼称される魔物の向こう側、つまり御主人様から見て2時の方向です』

「それは白蛇を飛び越して行かないといけないと言う事か? 冗談じゃないぞ」

『私に冗談を語る機能はありません。御主人様のご要望の場所がそこです。御主人様なら大丈夫です』

「お前、時々冗談言っているよな? それと根拠の無い信用ありがとう。じゃ、行ってみるか!」


 レイは頭上を見て、それから軽く飛び上がった。両手で太い木の枝を握ると、クルッと逆上がりの要領で枝の上にのぼった。それから右前方に一気にジャンプした。想像以上の高度まで飛べた事に驚きながら、レイは白蛇の上を飛び越えた。飛び降りながら木の枝を掴み折るを繰り返し、盛大な音を立てて白蛇をおびき寄せた。

 予定通り白蛇はレイの落ちた方向を目指して這ってくる。レイはリリアの示した開けた場所まで、白蛇との距離を一定に保ちつつ移動した。乱雑に立ち並ぶ木々を避けながらでも、余裕で白蛇の追跡から逃げることができた。シンはもっと早く走れそうな自分が不思議だった。


『御主人様。報告があります』

「なんだ。ちょっと忙しいんだけど、今じゃないといけない事か?」

『いえ。優先順位は御主人様が決めて頂いてよいのですが……』

「お前は俺の現状が分かって言っているだろう? とりあえず言ってみろ!」

『了解しました。先ほどの2名の人種が、御主人様の目的地近くに高速で移動しています』

「じゃ、俺と白蛇の戦闘に巻き込まれるって事か? 高速ってなんだ?」

『何らかの高速移動手段を用いていると推測できます。このままでは御主人様の到着予定時間と、ほぼ同時に目的地に着きます』

「なんで白蛇の向かった方に逃げるんだ? 馬鹿なのか?」


 最初から彼女たちは白蛇から逃げていたので、目的地の開けた場所はレイよりも近くにいた事になる。更に何らかの力を使って、自身らの移動速度を上昇させているようだ。レイは先に彼女達に会って逃げるように話しておかなかった事を後悔していた。彼女たちを守る義務も義理も無いが、情報収集の為には助けるしかないと自分に言い聞かせていた。


 レイが悩みながら走っている間に目的地に着いた。白蛇も後ろに迫ってきている。少女たちはまだ目的地に着いていないようだった。レイは開けた場所の奥の方に移動した。白蛇はじっとレイを見つめてゆっくりと近づいてくる。レイが白蛇を開けた場所の奥まで引き寄せた時に少女たちが白蛇の後ろに現れた。


(このまま騒がずにじっとしていてくれよ)


「なんでなの! 白蛇から逃げたんじゃないの?」

「貴方が移動補助魔法でこちらに向かったのですよ。進行方向も制御できないのですか?」

「だって、高速移動じゃ木を避けるので精一杯だったのよ。あんたも何も言わなかったじゃない」


 レイの心の願いも届かずに少女たちは騒いでいる。言葉の端々に出ている魔法という単語が気になっていたが、今はそれどころじゃない。白蛇も騒いでいる少女達に気づいて、頭ごと少女たちの方を向いている。レイはその辺に生えていた木を片手で引き抜いた。直径40㎝くらいの木の幹にずぶりと手刀を突き刺し無造作に抜いた。


 それを肩まで上げて、白蛇に向かって放り投げた。もちろん木の根の部分には大量の土が付いていたし、枝や葉もそのままである。土や葉をバラまきながら投げられた木は、白蛇の後頭部にぶつかった。少女たちを見ていた白蛇はすぐさまレイの方に顔を向け、威嚇の様に牙が並ぶ口を大きく開けシャーと鳴いていた。

白蛇は尻尾をビタビタと地面に叩きつけている。明らかに激怒していた。大木を引き抜いて白蛇に投げつけたレイを見て、少女たちは驚愕しながら固まっている。


「なに? あいつ? 何なの?」


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