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エピローグ

15、 エピローグ


 


 ー-------卒業して一年。


 初春の(すず)やかな風と暖かい日差しのこの日、クリステ・モーガン子爵令嬢とロアン・コンラート伯爵令息の結婚式は、コンラート領の小さな森を切り開いた場所に位置する、自然豊かな教会で行われることとなった。

 ほんのひと月ほど前まで暗い雲と雪に覆われていたと思えないほど雲一つない晴れ渡ったその空は、どこまでも穏やかな優しい水色で・・・・・・・・・・。

 「まるでクリステの瞳みたいな空だ・・・・・・」

 本来は式の時まで新郎新婦は顔を合わせないものだと言われたが、待ちきれずにクリステのいる別館の控え室を訪れ、窓辺で空を見上げる俺の横でクリステはその頬を染めた。

 「私の瞳はこんなにきれいじゃないわ。ロアンは最近やたらに私を褒めすぎよ」

 「褒めるところしか見当たらないからな」

 そう言って横に並ぶ彼女の腰を引き寄せると、クリステは更に顔を赤くして目を()らせた。

 「・・・・・・ロアンがこんな饒舌(じょうぜつ)で甘々になるなんて、本当に全く、露ほども、微塵も想像しなかったわ・・・・・」

 首元まで赤く染まった彼女を見下ろし、美味しそうなその(うなじ)に口づけたい衝動を抑える。

 今はまずい。やっと今日まで我慢したんだ。あと少し、あと少しだ・・・・・・・・・・。

 「早く式が終わらないかな。早く二人きりになりたいな」

 「お、終わらないかなって・・・・・まだ始まってもいないのに!」

 「夜まで待てない」

 クリステは優しいアイボリーホワイトのウエディングドレスを身に(まと)い、結い上げられた髪の上に細やかな刺繍とレースが(ほどこ)されたベールが覆いかぶさるその姿は、まるで着飾った春の妖精のようだ。

 華美な装いにはしたくないという彼女の意見を最小限に取り入れながら、肩から胸にかけてはクリステがこの半年もの間コツコツと作り進めてきた金糸の繊細なレースがあしらわれ、腰から下のスカート部分には俺の選りすぐりの宝石を存分に散りばめたそのドレスの華やかさは隠しようもなく、主役の花嫁を(まばゆ)い光で包み込んでいた。

 言うなれば、このドレスは俺たちの夫婦最初となる共同作業の産物だ。

 珍しくしっかりめの化粧を施した花嫁の愛らしい姿に思わずへにゃりと頬が緩み、そこをクリステの小さな指でつままれた。

 「いたいいたい・・・・・」

 「いい男が台無しよ。ちょっとは顔を引き締めて下さいな・・・・・・・、旦那さま」

 「・・・・・・・・・・・だんな、さま・・・・・」

 思わず呟く俺を見て、頬を染めつつ照れ隠しにプイと横を向くクリステが愛おしくて愛おしくて・・・・・・。 

 彼女を再び抱き寄せようと手を伸ばした時、控え室の扉がノックされ、クリステの付添人が式の時間の訪れを知らせに来た。

 (ー-----ああ、いよいよだ・・・・・・)

 いよいよ今日、俺たちは正式な夫婦となる。

 「じゃあ先に行くよ。またすぐ、後ほど」

 「うん、すぐ、後ほど」

 にっこり微笑む新婦の頬にキスを落とし、俺は促されるまま部屋を後にする。

 控えの間から出て別館の扉を開けば、そこは教会へと続く小道で、その道の先には小さな教会とそれを取り囲むように一面に咲きほこる大きなミモザの木々が見えた。水色の空いっぱいを覆い尽くす、春の黄色だ。俺はその光景に思わず微笑んだ。この教会を選んで正解だった。

式には、学院の友人としてエバンと王立騎士団に入団したジョシュを招いた。クリステは、バロックさんとジュリア嬢の二名だ。

 ジュリア嬢が幼馴染の婚約者アリシェ・ランドールと上手くいっておらず、しかもバロックさんがかつてよりジュリア嬢に想いを寄せていたことを後に知り、驚愕した。嫉妬に苦しんだ昔の自分にそのことを教えてあげたいものだ・・・・・・。

 学生時代からここまでの道のりは長く苦しかったように思っていたが、しかし通り過ぎれば所詮(しょせん)過去。苦しいことも多かったが、自分だけが苦しかった訳でないことも知っている。

 過去の出来事は変わらないが、その解釈を変えることは出来るのだ。それらの経験が今の俺の大切な人やものを作って、そして最愛の人と前に進むことができた。

 ------ー鐘と神童たちの歌声が教会に高らかに鳴り響く。

 「いついかなる時も互いを慈しみ、支え、共に生きることを誓いますか」

 そう問う神父に頬を染めて肯いた新たな夫婦の誓いの言葉と、誓いのキスにしては少しばかり長いそれを終えて、式は滞りなく終わった。

 祝いの言葉を口にする参列者に笑顔で手を振り応えながら、俺とクリステは教会の階段前に広がる庭園へと向かう。満面の笑みを向ける友人たちに、同じく満面の笑みを返した。

 ー------庭園に出てみれば、足元には黄色の花びらが明るい絨毯を作っていた。森から風が吹き、身体の周りにミモザの花びらが絡まる。

 ミモザと家族、友人たちの祝福を受け、俺は幸せそうに頬を紅潮させ笑みを浮かべたクリステと共に、一歩一歩と庭園の中、足を進めていった。

 見上げても見下ろしても、前も後ろも、そして横も。愛するものに囲まれて。

 ー---------俺たちは、今日から、ようやくスタートだ。

 風になびく最愛の妻の柔らかな麦色の髪に、俺は優しいキスを落とした。



  


 ~~~~~おしまい~~~~~

 

 

   




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