幸せになれなくたっていい
幸せになれなくたっていい。
それで周りが幸せなのなら。
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ーー自己犠牲。
ずっと、言われてきた言葉。
仲間達だって自己犠牲を果たして死んでいった。己を盾に。
だから僕も、そうするつもりだった。
次の戦場で、国のために、仲間のために。華々しく散るつもりだった。
だのに、終わってしまった。結局、僕は仲間を盾にして生き残ってしまった。
戦争が終わって、命の大切さが世間に広がって。
変わらず、自己犠牲の精神は美しいものと呼ばれた。
けれど、身を盾にして守ってしまわれた僕にとって、自己犠牲は忌まわしいものとなった。
あの時、僕を庇わずに逃げてくれていれば。自分から戦場に戻ってくることがなければ。
しかし、物心ついた時から言われてきた自己犠牲には、従うしかなかっただろう。
そうしてあの頃を悔やみながら、僕の時間は流れていく。
家が、燃やされていく。魔法が放たれていく。
あの国の残党が残っていたのだ。
皆一斉に逃げて行く。あの戦場で育った者など僕以外に此処にはいないから当然だ。
逃げる、逃げる、逃げる……。頭では逃げようとしているのに、体が動かない。
……ああ。そうだ、自己犠牲だ。
そう、頭が理解する。それと同時に、詠唱を始める。
我が身を代償とし、敵とみなしたモノを一掃する、僕にしか使えない術。
ただ、最期に思ったのは、僕も結局のところ、自己犠牲の暗示には逆らえなかったということだ。
*** *** ***
幸せになれなくたっていい。
それで周りが幸せなのなら。
そうして、この世界は巡っていく。