市場の雰囲気
9月中旬からの株価の下落は市場に重く暗い影を落とした。
ほんの半月前の明るい雰囲気はどこに行ったのやら。
それが先週の木曜日から反発を始め、週明けの月曜日になると、不安は去ったとばかりに株価は騰勢を強めた。何なんだろう、この気分の移り変わりは。騰勢を強めた理由は、岸田首相の金融所得課税強化の見直し発言らしい。
つくづく思う。株価が上がると、嬉しくなって強気になる。株価が下がると、怖くなって弱気になる。強気になって高値を追う。あるいは今の内に買っておかねば値上がりしてしまうと焦って高値でも買おうとする。弱気になると損が怖くて安値でも売る。
でも、半月やそこらで、会社の業績は簡単に変わってしまうものなのだろうか。高校生のあたしにはわからない。でも、何となくだけど、そんなことあり得ないような気がする。株価が上下すれば、いちいち理由づけがされるけど、それもどうなんだろう。理由があるから株価に影響するのか、株価が動くから理由を探しているのか、まるでタマゴが先かニワトリが先かの議論のような気がする。
秋の決算発表が増えてきた。
どんな銘柄が有望なのか、株式投資部では部員が手分けして決算の中身を確認した。
・1434 JESCOホールディングス
・3543 コメダホールディングス
・5018 MORESCO
・6668 アドテックプラズマテクノロジー
・8095 アステナホールディングス
・3228 三栄建築設計
・7352 Branding Engineer
・7453 良品計画
・9270 バリュエンスホールディングス
・9418 USEN-NEXT HOLDINGS
・9983 ファーストリテイリング
・2292 SFoods
・2683 魚喜
・7420 佐鳥電機
10月14日木曜日、あたしの持ち株のひとつ、良品計画の2021年8月期本決算が発表された。
「えー!」
思わず大きな声を出していた。
7月の第3四半期決算時に出ていた通期見通し額に、売上高も営業利益も届いていない。それも大きな開きがある。ちょっと、なにこれー!
案の定、掲示板には荒れたコメントが増え、PTSでは株価が暴落していた。あたしの持ち株の含み損が拡大してゆく。えー、ちょっと、やめてよー! 信じらんないよ、こんなの。
「なに騒いでんの?」
「万単位で損が出てるんですう」
「万単位? って、一桁万円のこと?」
「そうですう」
「んなの、損の内に入らないって」
「えー、だって万ですよ、万! バイトだったら何時間も働かなきゃならないんですよ」
「だからあ。株価なんて10%や20%くらい上にも下にも簡単に動くんだから、万単位の含み損なんていつでもあるって。何十万の含み損だって珍しくもないよ」
な、何十万?
「値動きにいちいち驚いてたら、きりないって。下がるときはどんな好業績の企業だって下がるんだから」
マリノさん、他人事だと思ってるでしょ。
「で、今期の見通しはどうなの?」
今期の見通し? は、売上高も営業利益も増える見込だ。
「なら、いいじゃん」
いい?
「だって済んだ話はどうにもなんないけど、これから先が明るいんなら、株価だって期待できるじゃん」
このやりとりを聞いていた顧問がぼそっと言った。
「良品計画は中期経営計画の見直しでも発表したの?」
「いえ」
「会社は高い成長を目指しているのだったよね」
「ええ」
「そこに着目して投資したのなら、とてもそんな成長はムリだと判断できる材料がでない限り、投資判断を変える必要はないよ。今回の決算はそんな材料なの?」
う・・・。
「表面的な数字を追うだけじゃなくって、成長に向けて何をしようとして、今どの段階にあるのかをよく見なきゃ」
はい・・・。
PCの画面を眺めていたマリノさんが言った。
「ふーん、いいとこ目につけてんじゃん。へー、暴落してくれてるから、あたしも買っとこ」
家に帰ってからも、ネットで決算内容を見ていた。
計画に比べて未達とは言いながら、増収増益だし、販管費率も減っている。この会社は販管費の占める割合が大きいので、そこを減らせば営業利益は増える。説明会資料には3年で事業基盤を確立すると大書していた。PTSは惨状を呈していたが、あたしはむしろ買い増しできるチャンスなんじゃないかと思った。株価暴落で怖くなっていた自分に冷静になれと言い聞かせながら、今度は過剰な自信に惑わされるんじゃないぞとも思った。あれこれ考えた挙句、顧問に連絡を入れた。
「良品計画、買い増ししようと思います」
「いくらで? どのくらい?」
掲示板には2,000円割れを危惧する声が溢れていた。
「1,900円、200株で」
「わかった」
はたして、翌金曜日。
良品計画の株価はPTSの雰囲気に影響を受けてか、市場が始まってすぐは暴落したが、終わってみると、前日比プラスまで回復した。
「ああ、いい買い物できたあ!」
週末の部室でマリノさんが「あなたのおかげだよー」と満面の笑み。
「いくらで買ったんですか?」
「2,150円、400株!」
ちっ! 指し値を欲張り過ぎたか。その日、良品計画の株価は2,000円どころか2,100円を割り込むことさえなかった。マリノさんは1日で60,000円もの含み益を作ったことになる。
10月15日現在、あたしのポートフォリオ。
・3964 オークネット 200株 8月13日購入 買値1,779円、現在 2,301円、評価額460,200円、含み益104,400円
・7453 良品計画 200株 8月16日購入 買値2,301円、現在 2,304円、評価額460,800円、含み益600円
・9201 日本航空 200株 7月30日購入 買値2,250円、現在 2,499円、評価額499,800円、含み益49,800円
・現金 734,000円
・評価額計 2,154,800円、含み益154,800円、含み益率7.7%