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投資少女  作者: 雨後虹晴
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EPSとかPERとか

「株式投資の基本、それは安く買って、高く売ること、です」

 株式投資部に入って部員全員を集めた最初のレクチャーで、いの一番に顧問から言われたのがこれだった。

 そんなの当たり前じゃん。

 高く買って、安く売ったら、損しちゃうよ。そんなこと、誰もするはずがない。

「しかし、世の中には、高く買って安く売る人がいます。おそらくそんな人は本当にたくさんいると思います」

 へー。

「なぜそうなるのか、それは買った株が上がるか下がるかなんて、誰にもわからないからです」

 え、そうなの? じゃあ、株式投資って、結局はギャンブルってこと?

「それでも、今の株価が高いか安いかを判断する指標ならあります。その中で重要な指標がEPSイーピーエスPERピーイーアールです。このふたつはセットで使います」

 EPS?

 PER?

「EPSは、企業の純利益を発行済み株数で割ったもの。つまり、一株当たりの利益額のことです。例えば、百万株を発行する企業の純利益が一億円だとすると、EPSは百円になります。当然、毎年EPSが増える企業、つまり利益が増え続ける企業は、先々株価も上がる可能性が高いと判断されます」

 顧問はそう言って、いくつかの企業のEPSの推移を見せた。着実に増加する企業もあれば、変化に乏しい企業、増えたり減ったりする企業、中にはマイナス続きの企業もあった。

「PERは、株価をEPSで割ったものです。例えば、株価が千円でEPSが百円なら、PERは十倍です。株価が二千円になれば、PERは二十倍になります。これで、株価が利益に比べてどのくらい買われているかを見ることができます。わかるのは、株式市場におけるその会社の人気度です。PERが高いということは、株価が高くてもその株を買う人がいるということですから、人気がある株だと判断できます」


 株価=EPS×PER

 株価=企業の利益×企業の人気


 顧問は黒板にさらさらとこう記して、言った。

「株価が高いか安いかを判断する基本は、まずこれです。ふつう、利益と人気は比例します。利益が伸びる企業は人気も高い。利益が伸びなければ、人気もない。EPSが増える企業のPERは高く、EPSが増えない企業のPERは低い」

顧問は皆を見回した。そして続けて言った。

「利益が増えれば株価は上がります。株価が上がれば人気が出て更に株価は上がります。逆も然りです」

 ところがね。

「本当は利益が伸びているのに、そこまで人気のない企業があったりもします。こういう企業はPERが低いですから、株価も安いと考えられます。安く買うためには、こういう企業を探すことがひとつの狙い目です」


 ただ、気をつけてもらいたいことがあります、と顧問は言った。

「EPSの過去の推移は誰でもわかります。しかし、未来がどうなるかは誰にもわかりません。だから、企業の未来を想像する必要があります。成長は長続きするのか、一時的なのか。ずっと成長するなら株価は果てしなく上がります」

 例えばと言って、顧問はファーストリテーリングという会社を引き合いに出した。聞いたことないと思ったら、ユニクロをやってる会社だった。

「この会社はずっと成長を続けて、この二十何年の間に株価は二百倍になりました。百万円を投資していれば、二億円になる計算です。もし今のあなたたちがこんな株を買ったら、四十歳頃には億万長者になりますね」

 ほおー、とそこにいた誰もが息を漏らした。

「こういう企業を見つけること、それが株式投資の醍醐味です」


「質問いいですか?」

 一年生の女子が手を挙げた。

「株式投資の基本は安く買って高く売ることでしたけど、こんなユニクロみたいな株はいつ売ればいいんですか?」

「成長が続くと思うなら、売る必要はありません」

「売らないんですか?」

「ええ、売る必要のない株、これが理想です。売れば売却益に税金がかかります。売らなければ一円も取られません。持ち続ければ、配当金もどんどん増えるでしょう。黙っていても財産が増えるはずです」


 顧問の最初のレクチャーはそれで終わった。

 最後に釘を刺されたことは、投資の判断を人に委ねるなということだった。人に委ねたら、いつまで経っても誰かの判断がなければ売買ができない。自分で判断できなければ、投資などするものではない。

 制限の多いコロナ禍の生活では、一人で考える時間はたっぷりあった。

 最初の投資先をEPSもPERも深く考えずに勢いで決めたあたしは、そこをじっくりと調べてみようと思った。

 先輩に相談すると、こんなアドバイスを受けた。


 ・過去、三年のEPSが伸び続けているのに、PERが低い企業を探す

 ・その中から、これからもEPSが伸びてゆくと思う企業に的を絞る


「PERが低いかどうかって、数字の基準はあるんですか?」

「単純にいくら以上が高くて、いくら以下が低いとは言えないみたい」

「なら、わからなくないですか?」

「そうね、各会社のこれまでの実績でPERの高値平均と安値平均が四季報に出てるから、それを参考にするのがいいかもって聞いたよ。試してみたら?」

「先輩はいつもそうしてるんですか?」

「そうしてることもある」

「えー、なんだか不安ですう」

「株式投資って、いつもいつもこの方法が絶対ってのがないみたいなんだよ。先生から言われたのも、そんな決まった方法があるんなら、世の中、株長者で溢れてるよって。難しいけど、自分なりにいろいろ試して状況に合った投資方法を見つけていくことが大切だって」

「先輩はもう見つけたんですか?」

「なわけないじゃん。まだまだ失敗ばっかだよ。でも、失敗のほとんどがよく見てなかったからなんだけどね。こればっかりは経験しないとわかんないから、よく考えて見つけてゆくしかないんだと思う」


 コロナウィルスが蔓延する中、夏休みなのに外出もままならない。あたしは、四半期決算の発表がある企業のEPSの伸びとPERを比較しながら、来る日も来る日も割安株を探した。そして、いくつか購入候補をピックアップした。

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