TOB
文化祭が終われば、体育祭。
メガネくんは去年と同じようにリレーで圧倒的な走りを見せ、ひろこは男女混合体操でしなやかな動きを見せた。
志帆子は騎馬戦に出た。小柄だから上になったのだろうけど、華奢すぎる身体は吹けば飛ぶよな印象しかなかった。ところがだ。伸びる手をゆらりとかわし、傾けた体から繰り出す細く白い腕が相手の帽子を払ってゆく。帽子を払われた相手は一様に、帽子が頭から消えていることに驚いているようだった。
あたしは。
スウェーデンリレーに駆り出された。
なんでよ! あたし、足遅いんだって。
「いいから、いいから。あとでごぼう抜きする方が盛り上がる」
なんなのよ、それ!
よーいどんで、一走のあたしは飛び出した。200mトラックの半周分。走り出したらいきなりカーブ。隣の子が寄ってくる。
「いいか、強く腕を振るんだ。腕を振れば速く走れる」
陸上部の男の子から言われたとおりに腕を強く速く振った。つられて足が前に出る。自分史上、異次元のスピードに恐怖さえ覚えた。隣の子が視界から消えてゆく。
「おおおおーっ!」
あたしのクラスが陣取る前を駆けてゆく。クラスの男の子たちが異様に盛り上がってる。前は二人しかいない。ってことは、あたし、3位?
直線コースに入った。青いハチマキを巻いた二走の男の子がなにかを叫びながら、両手を大きく振っている。前を走る子のペースが落ちたように思った。
もっと、強く!
もっと、速く!
振る腕に力を入れた。前を走る子の背中がどんどん大きくなる。肩が並んだ。二走は目の前だ。バトンを前に伸ばす。足が、もつれた。
「あ、あ、あ、あ」
天地がひっくり返った。バトンは? 首を上げると、青いハチマキを巻いた男の子がトラックを駆けてゆく。その姿を地面近くの低い位置から眺めていると
「大丈夫? さ、こっちへ」
体育委員の女の子が事務的にあたしをトラックから引っ張っていった。三走の女の子が「セラ、すごいじゃん」と笑顔を向けてくれた。
二走の男の子は直線コースで先頭に立ち、三走の女の子は2位との差を拡げ、四走は余裕で先頭のゴールテープを切った。
今週もいろいろあった。
プロ野球では阪神タイガースが18年ぶりに「アレ」を達成した。こう言っちゃあわるいけど、今のタイガースって誰がいたっけ? って感じがするけど、ぶっちぎりの優勝だった。
嘘か誠か、タイガース優勝の経済効果は、ワールドベースボールクラシックの優勝をも上回るそうだ。なら、タイガース関連銘柄の株価はすごく上がるのでは? と思うよね。豈図らんや、軒並み下がった。材料出尽くし、なんだそう。期待ある内が株価の上昇要因となっても、事実が見えたら、そのネタはもうおしまい。これが株式市場なんだと改めて思わされる。
景気が良くて、企業がどんなに最高益を更新していようとも、次のシーズンを覆う雲が見えてくれば株価は下がり始める。
逆に景気がどん底にあって、企業業績が悲惨きわまりなくても、落ちるところまで落ちた株価は未来に向かって上り始める。
タイガースのアレを契機とした株価の動きは、事実が見えてから投資に動いても遅いということを教えてくれる。
ジャニーズとの契約を解除する企業が増えているという。
故人の元経営者による所属タレントへの性加害が、今になって大きな問題となってしまって、イメージを損なう恐れがあるからと、所属タレントの広告起用をやめるのだそうだ。
所属タレントからすれば、踏んだり蹴ったりだ。名のあるタレントなら、脱退する方がいいのではとも思う。そんなことすれば、裏切り者とでも思われるのかな?
ファンにとっても残念極まりない。
あたしの持ち株、エムアップホールディングスは、ジャニーズ騒動を受けてか、大きく値を消した。あんまり関係ないと思うんだけど、ここまで株価が下がるのは影響があったから、としか思えない。
岸田首相は内閣改造をしたけど、特に変わりばえのないものだったと思う。
ただ、外務大臣に上川さんを充てたのには驚きだった。外相に女性が就くのは珍しいと思ったから。特に今はウクライナ戦争はじめ世界が大きく動いている。外交の重要性は計り知れない。よほど腹の据わった人でなければ務まらないだろう。頑張ってほしいと思う。
なあんてこと、興味さえなかったあたしからすれば、ニュースを追いかけるようになってる自分に驚く。
今週は四季報の発売もあった。
志帆子がさっさと買ってきたらしく、金曜日の夕方、部室を覗くと、すでに人数分が揃っていた。オレンジ色の四季報。あたしにとっては、部活で手にする最後の四季報となる。
秋の四季報は、3月決算の企業の1Qが掲載されている。夏の段階では概ね企業の今期計画が掲載されているだけだが、3ヶ月経って、計画通り進捗しているのかどうかが見えてくるのが秋の四季報だ。だから、ここで上振れしてようものなら、先々の見通しは明るいと考えられる。それだけに見ごたえいっぱいの四季報だとも言える。
それにしても。
パラパラっとページを繰って目につくのは、ここにきて株価が急騰している銘柄の多いこと。
例えば、建設。例えば、食料品。例えば、小売。銀行も軒並みって感じ。
こういうのを見ていると、「あー、やっぱり、ここ上がるよなー、目をつけてたんだけどなあ」と思うのもあれば、「こんなとこ上がってるんだ」と驚くのもある。まだ全然あたしの目が及んでいないところがたくさんあるということで。当たり前と言えば当たり前なんだけどね。
・6121 TAKISAWA
急騰銘柄のひとつ。
ニデック(もと日本電産、なんだろう、慣れないなあ、この社名)がTOB実施することで、話題になって株価が急騰した。ずっと1,000円当たりだった株価は、公開買い付け価格2,600円へ。それでも、1株純資産の2,740円に満たず、今、話題になってるPBR1倍にもならない。
こういう例がこれから増えるだろう。
PBR1倍割れの企業に対する改善措置要求が東証から出てからしばらく経つ。が、具体的な対策を打ち出した企業ばかりではない。
PBRがどうあれ、安穏とした経営を続ける企業がまだまだあるってこと。
言い方を変えれば、経営次第で業績が大幅に改善する余地のある会社がゴロゴロしている、ってこと。
志帆子が買った銘柄のひとつに6623 愛知電機がある。ここのPBRも0.5程度。彼女はTOBにかかるかも言ってたけど、今後、TOBにかかる可能性のある企業は投資の狙い目になると思う。あたしの持ち株の中にはないけど。
9月15日現在、あたしのポートフォリオ
・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,799円、評価額279,900円、含み益42,900円、含み益率18.1%
・3661 エムアップホールディングス 200株 2023年6月2日購入 買値1,055円、現在1,265円、評価額253,000円、含み益42,000円、含み益率19.9%
・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在2,792円、評価額558,400円、含み益▲180,600円、含み益率▲24.4%
・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,416円、評価額1,416,000円、含み益558,400円、含み益率75.6%
・6777 santecHD 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,672円、評価額267,200円、含み益145,200円、含み益率119.0%
・8316 三井住友フィナンシャルグループ 100株 2023年8月30日購入 買値6,630円、現在7,394円、評価額739,400円、含み益76,400円、含み益率6.4%
・9432 NTT 1,200株 2023年6月30日等購入 買値168.35円、現在179.1円、評価額214,920円、含み益12,900円、含み益率6.4%
・現金 22,570円
・評価額計 3,751,390円、含み益751,390円、 含み益率25.0%