文化祭が終わって
「株式投資って、結局、怪しいものとか、怖いものとかって思われてるみたいね」
文化祭が終わって、後片づけした後、部として初参加した活動の総括をした。
「テンバガーを探せ! 企画をやってたら、どうだったと思う?」
「あんまり変わらなかったんじゃないかな。興味のない人たちにテンバガーだなんだ言っても、ふーんで終わっちゃったと思う」
株式投資に対する一般のイメージってなんだろう。
・怖い
・大事なお金を失ってしまう
・むずかしい
てなとこかな。
「むずかしいのはむずかしいよな。それが証拠に部活でも確かな成果を出せるかどうかわからないし」
「だから、誰でも簡単ってことで、インデックスファンドの積立投資出したんだけどね」
「インデックスファンドの積立投資は、でも株式投資をやってる人たちからはあんまりよく思われてないみたい」
「そうなの?」
あるおっさんが「市場平均狙う? それじゃあ、株やる意味がない」と言ったらしい。
「でも、市場平均を超える成果を出すのは、言うほど簡単じゃないって聞くわよね」
9月2日の日経新聞に、インデックスとアクティブ比較の記事が出ていたが、アクティブ型が好成績を維持するのは難しいとあった。
そこには純資産残高上位のアクティブ型投信の運用成績が掲載されていたが、総じてTOPIX連動インデックスファンドを下回っている。信託報酬はアクティブ型が高いから、わざわざ割高な手数料を払って、運用成績が劣る金融商品をもつことに何の意味があるのか? とも言える。
「でも、不思議と言えば不思議ですよね」
だって、腕に覚えのある優秀な人たちが運用しているわけでしょ。インデックスファンドは市場全体を丸ごと買うわけだから、その中には倒産寸前の会社もあったりするわけじゃん。アクティブ型は優秀な人たちが厳選した銘柄に投資するんだから、本当ならもっと好成績が出ていいはずじゃなくて?
「と同じことを言ってるアクティブ型投信の創始者がいた」と志帆子。
インデックスファンドは玉石混交、こっちは玉ばかり厳選しているのだから、どちらがいいかわかるというものだと。
ところが、そう大きく出た人が運用するアクティブ型は市場平均を上回ることがない。
「だったら、愚直にインデックスファンドの積立投資をしていたほうがいいですよね」
「個別株投資に銘柄の選定する手間暇を考えたら、そこに時間使うより、投資はインデックスファンドに任せて、あとは自分の好きなことしたほうがいいよね」
と思って、あんな誰でも簡単に儲かるインデックスファンドをやったんだけど。
「そこ、あんまり伝わってなかったように思う」
「あたしたちからすると、銀行にお金預けてても、増えることはないから、もっと増えるところに預け替えませんかって言いたかっただけなんだけどね」
「そこ書いてなかったから。インフレになれば、預けてるお金が目減りするってことも言ってなかったし」
「そうだよねー。でも、それって半分常識じゃねって思ってたからなあ」
メガネくんが対応したおばさんは、インフレになったら銀行預金は大損することになると聞いて、ひどく驚いていたらしい。
「今、ものの値段がどんどん上がっていますよね。今まで100円で買えたものが105円になったとしたら、5%物価が高くなります。だけど、銀行にお金預けてても、今どき5%も利息はつかないでしょう」
「5%どころか、1%もつかないわよ」
「ですよね。デフレの時代なら利息がつかなくてもお金の価値はそのまま以上でしたから、銀行に預ける意味はあったんですけど、インフレの時代になると、利息がつかない銀行預金はお金を目減りさせるだけなんです」
「物価は5%どころじゃないわよね。卵なんて倍になったし、電気もガスもガソリンだってすごく上がってる」
「いいこと教えましょう。電力会社もガス会社も今とても儲けているんです」
「え? どういうこと?」
「だから、値上げのおかげで、業績のいい電力会社やガス会社が多いんです」
「ホントに? じゃあ、値上げなんてしなくてもいいじゃないよね」
「独占企業だから、原価がこれだけ増えましたと言えば、それで通っちゃうみたいです」
「バカにしてる」
「もうひとついいこと教えましょう。そんな独占企業の儲けの分け前を取る方法です」
「分け前を取る?」
「ええ。一番簡単なのは、電力会社やガス会社の株式を買って株主になることです。そうすれば、上がった電気代、ガス代を補ってくれるほど配当金をくれたり、株価自体も上がって大儲けできるかもしれません」
「株式投資? 証券会社でしょ? 悪いことばっかりしてる人たちがいっぱいいるとこよね。あたし、嫌だわ、そんなとことつきあうの」
「そうなんですか?」
「あなた、まだ若いから知らないだろうけど、昔は証券会社の社長さんが不正取引で逮捕されたこともあったのよ。あんな大きなお金動かすんだから、やろうと思えば、なんだってできちゃうんじゃないの」
「証券会社の評判ってわるいみたいね」とは、ひろこ。
「あたしが話したおじさんも証券会社はひどいって、散々な言い方してたよ」
ちょっと儲かると、もうこれ以上上がることはないから、別のに乗り換えましょう。
逆に損してると、いつまでも抱えてても時間のムダだから、もっと可能性のあるのに乗り換えましょう。
などと言って、どんどん売買を繰り返させる。売ってしまった株がその後どうなったかと言えば、例外なく上がってんだよね。
あいつら、手数料が入るから、売り買いを繰り返せば繰り返すほど、証券会社は儲かるわけよ。だから、頻繁に売り買いさせる。客のことなんて何も考えてない。
それどころか、どの株が上がる可能性が高いのかさえ、本当にわかっているのかどうかも怪しいんだ。担当だった若造は、結局のところ、どの株が上がるかどうかなんて運ですよとぬかしやがった。
「運と言われると、それはそうかもしれないわね。いろんな経験すると、確実はないんだから、運次第といった人も素直な実感だったかもしれない」
「でも、手数料で稼ぐビジネスモデルは、もう終わってるんじゃないの?」
「SBI証券は国内株式の手数料を完全にゼロにするって言ってる。楽天も追随するらしい」
「じゃあ、その人が言ってるようなことは、それら証券会社には当てはまらないってことになるのかな」
「結局、長年に渡ってお客にイヤな思いをさせ続けてきた報いが、株は怖いとか、信用ならないとかって話になってるってことなんじゃない?」
「そんな綺麗ごとで商売できるかって言いたいのかも」
「そんなこと言うおじさん、いそうだよね」
「でも、いくら会社の理屈を並べたところで、お客にソッポ向かれて、違う収益モデルで市場を取りに行く業者が出てきたら、もう変わらざるを得ないんだろうね」
「志帆子ちゃんは、気になる話あった?」
小柄な少女は、微かに首を傾けてから、間を置いて口を開いた。
あるおじさん、と言ってもまだ30代前半ぐらいの若い人が、インデックスファンドをしつつも、個別株投資もすべきと言っていた。
個別株は平均を大きく上回るリターンを生むことができる。テンバガーやハンドレッドバガーをインデックスで実現することは不可能。個別株にはその楽しみがある。株価が明日どうなるかは誰にもわからない。しかし、長い目で見て割安の株なら、ある程度は判別できる。
その有力指標はPEGレシオ。
見込みのEPSの伸びに比べてPERが明らかに低ければ、その株は割安に放置されていると判断できる。無論、だからと言って確実ではない。評価されるまで何年かかるかわからない。肝心なことは、狙いを定めた株が株価に反映されるようになるまでじっくり待つこと。時間を味方につければ、株は必ず応えてくれる。
その人はこんなことも言ったという。
アクティブファンドの成績がインデックスファンドを下回るのは、手数料の割増分があるから。重りをつけて走らされているみたいなもので、手数料率の差がアクティブファンドの成績を悪くしている。
それから、ファンドもある程度の規模になれば、買える銘柄に限りがある。株価の上昇幅が大きいのは、小型成長株か業績回復株だが、小型成長株の発行株数は大型株のように潤沢ではない。よって、どんな成長株とて、それを持ってたからといってファンド全体の成績を底上げするほど購入できない場合がある。業績回復株はそもそもいつもいつもあるわけではないし、思惑が外れて業績回復しないこともある。
その意味で個人投資家には個別株を買うメリットがある。
ファンドのように大金を運用することがないのだから、買える銘柄に制限はない。テンバガーを狙って、小型成長株や業績回復株を中心に運用すればいい。テンバガーと言わずとも、ツーバガーやスリーバガーを2〜3年で実現することはさほど難しいことではない。
今だったら、銀行株など十分、業績回復株になり得る。金利が上がることで、貸金ビジネスが好転する。預金金利はまだしばらく低水準が続くだろうから、銀行はほとんどタダで預金を集め、以前より高金利で貸し出すことができる。
今どき、銀行に口座を開いてもティッシュひとつくれないかもしれないし、円で預けていれば利息もなきに等しいが、株主という会社の立場になれば、配当金だけで3%以上はつく。この先、業績回復が顕著になれば、配当も株価も上がるだろうから、銀行にお金を預けてるくらいなら、銀行株買ったほうがいいと思う。
「とりあえず、今年は初めての試みをしてみましたってことで終わりましたが、それなりに世間の人たちの生の声が聞けてよかったんじゃないかなって思います」
最後にブチョーからと言われて、あたしはそう挨拶した。
「来年どうするかは、今年の結果を受けて、2年生と1年生でまた考えて下さい」
てことで、解散。
9月9日現在、あたしのポートフォリオ
・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,735円、評価額273,500円、含み益35,500円、含み益率15.4%
・3661 エムアップホールディングス 200株 2023年6月2日購入 買値1,055円、現在1,372円、評価額274,400円、含み益63,400円、含み益率30.0%
・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在2,880円、評価額576,000円、含み益▲163,000円、含み益率▲22.1%
・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,510円、評価額1,510,000円、含み益657,000円、含み益率77.0%
・6777 santecHD 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,638円、評価額263,800円、含み益141,800円、含み益率116.2%
・8316 三井住友フィナンシャルグループ 100株 2023年8月30日購入 買値6,630円、現在6,925円、評価額692,500円、含み益29,500円、含み益率4.4%
・9432 NTT 1,200株 2023年6月30日等購入 買値168.35円、現在171.3円、評価額205,560円、含み益3,540円、含み益率1.8%
・現金 22,570円
・評価額計 3,795,760円、含み益818,330円、 含み益率27.3%