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投資少女  作者: 雨後虹晴
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部としての文化祭 初日

 今年も文化祭が始まった。

 初めての部としての参加。あたしたち部員五人は教室をひとつあてがわれて、「株式投資部」の張り紙をでかでかと扉の上部につけて、来場者を待った。

 出し物は大きく三つ。


 ひとつめは「株式投資の基本」と、えらそーな題をつけた模造紙。

 あたしたち部員が、顧問からいの一番に教わった、シンプルかつ最重要の方程式「株価 = EPS × PER」をまとめたもの。


 ふたつめは「誰でもぜったい儲かる簡単投資法」と、少し怪しげな題をつけた模造紙。

 こちらは毎月一定額をインデックスファンドに積立投資することを、株式投資部としてオススメした。そして、仮に成人年齢18歳から毎月1万円を60歳まで42年間積立投資したならば、いくらになるかを試算した。

 だけでなく、社会への提言も加えた。


 みっつめはゲーム。

 コロナウィルス騒ぎで、世界中の株式市場で大暴落が起こったときに、どの株を買えば一番儲かったかを、三択で選んで貰うクイズ大会。

 三択はランダムにして、上場企業のどの銘柄でも選択できるようにはしていたが、あまり聞きなれない企業名を出しても「そんな会社聞いたこともない」と言われるだろうからと、消費者目線でなじみある会社を厳選した。

 例えば、キーエンスやオービック、ディスコなど、株式投資をかじったものなら誰でも知ってる優良銘柄でも、普通の高校生には縁遠いだろうからと除外した。ファーストリテイリングも社名そのままでは伝わりにくかろうと、カッコ付けでユニクロの運営会社と注釈をつけた。


 在校生だけ参加できる文化祭初日の金曜日は、台風直撃で大雨だった。

 株式投資なんてマイナーだし、模造紙に手書きで文字が羅列された部屋を、好きこのんで見たいという生徒など、そうそういるはずもなく、時おり激しい雨音ばかり響く教室は閑散としたものだった。


 株価の方程式はわかりやすく書いたつもりだったけど、数式とアルファベットたった3文字さえ、「なに、この難しいの」と拒否反応ばっかりで、一生懸命に書いた文章をろくに読んでくれない。

 クラスの子に「EPSの伸びが一番大切なんだよ」と熱入れて説明しても、「ふーん」で終わってしまう。


 インデックスファンドに毎月1万円ずつ42年間、積立投資したとすると。

 仮に年平均10%で運用した場合、積立総額12万円 × 42年間 = 504万円が、なんと6,742万円になる!

 どう、すごくない? 元本の13倍以上だよ。

 と言ってみたけど、「42年先の話されても」と、これまた気のない反応。

 年平均10%で運用ってどういう意味? と言われて、黒板に数式を書いて説明しようとすると

「ああ、ごめん。数学苦手だから、もういい」と拒否られるか、こっちの説明がただただ終わるのを待ってるだけなのか、どっちかだけだった。


 クイズも「当たった」「外れた」でその場限りの歓声が上がるだけで、プロジェクターで映し出される企業名に「この会社知ってる」「ここの製品が好き」などの反応はあっても、なんで株価が上がったのかはどうでもいいみたいだった。


「硬いかな、やっぱり」

 初日が終わって、あたしが客の入りがあまりに少なく、反応もよくない理由を、部員みんなに確認すると、

「ブチョー、なに期待してんですか」とひろこが言った。

「文化祭なんて、劇とか音楽とか飲み食いが楽しいんであって、株式投資のこと知りたくて文化祭楽しみにしてる子、いるわけないですよ」

 まあ、そりゃそうなんだけどね。

「あたしたちの相手は在校生じゃなくて、明日来る一般客でしょ」


 明日は、台風一過。

 気温もぶり返すらしいけど、さてさてどんな外部客が来てくれるのやら。

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