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投資少女  作者: 雨後虹晴
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最後のひと月が始まった

 新学期が始まった。

 学校は文化祭準備一色になった。クラスでは劇の練習、部室では展示のための模造紙に投資のあれこれを書き、パソコンにプロジェクターで投影するあれこれを打ち込む。


 ある日、部室に行くと、なんとなく雰囲気が重い。

「どうしたの?」

 ひろこに聞くと、顧問がツボに入ったとか。

「汚染水と口走った大臣がいたでしょ。あれが気に入らなかったみたいで」


 言い間違えただけだと本人は軽々しく思ってるかもしれないが、政治家こそ言葉が全て。この十数年にかけて、多くの人々が必死の思いで取り組んできたことを一顧だにしない発言であり、いかに問題意識も当事者意識もないかの証左である。

 だいたいが農林水産大臣になってから、いったいなにをやってきたというのか。世界は分断の危機にあり、食料自給率の低い日本が、満足に海外から食料を輸入できなくなればどうするのか。農業人口の高齢化対策をどうするのか。するべき仕事は山積しているにもかかわらず、担当官庁の大臣として、具体的な取組がただのひとつも見られない。

 政治家としての箔をつけるためだけのポストぐらいにしか考えていないのなら、そんな大臣など不要だ。失言があった時点で早々に解任すべきだ。にもかかわらず、首相は首相で、なにを擁護している。それは首相の福島に対する問題意識や関心が乏しいことのあらわれではないか。


 興奮は他にも飛び火して、万博担当大臣にも及んだとか。

 曰く、大阪万博のパピリオン建設遅延問題で、国が前面に立つと宣言したのはいいとして、じゃあ、わざわざ新設された担当大臣は、この事態にいたるまでいったいなにをしてきたというのかと。そもそも万博が円滑に開催されるよう尽力するのが担当大臣の役割であって、結局なにもやってないから、こんな体たらくになっているのだろう。担当大臣としての顔も覚悟も全く伝わってこない。


 株式投資部に入ってから、政治も株価に関わると知ったので、政治ニュースも見るようになったあたし。

 たぶん、政治に興味をもつ高校生など、そうそういないだろうから、他の子たちよりは政治について何らかの知識はあるほうだとは思うけど。

 それでも、汚染水発言をしたおじいちゃんが誰なのかもわかってないし、農林水産大臣の話題などニュースで初めて聞いたように思う。まして、万博担当大臣なんて、そんな大臣がいることすら知らなかった。

 これら大臣に対するふつうの人たちの認知度は、あたしと大差ないんじゃないかな。

 きっと本人たちはあれこれ仕事をしていると考えているんだろうし、なんだかんだ忙しい毎日を送っているのかもしれないけど、政治家として目に見える動きをしているかといえば、残念ながら、あたしには見えていない。きっと大勢の人たちも同じじゃないかな。


 それにしても。

 顧問はふだんはもの静かでとても穏やかだけど、ときに激することがあって、そうなると本人も止まらないらしい。この人、もともとどこかの会社で勤めていたらしく、最初から高校教員をしていたわけではないそうだ。昔のことを顧問自ら話すこともなかったし、人の過去に興味もないので、それ以上のことは知らないけど、クラスの女子が言うには、会社で上司と大喧嘩して退職したんだとか。あるいは、ツボに入って、感情のコントロールができなかったのかなあ、と思ったりもした。


 カレンは今月、希望する会社の面接を受けるんだとか。

「どこ受けるの?」

 と聞くと、具体的な社名が返ってきた。

 てっきり、はぐらかされるとばっか思っていたから、正直な返事に少し戸惑った。

 あまり詳しくは知らないけど、プライムの上場企業だった。

「うまくいったらいいね」

「面接の練習が大変でね、もうちょっと素を出してもいいんじゃないかしらって思うけど、受け応えにもおめかしが必要なんだって。しょうがないわね」

 衝撃の事実は、カレンがすでに簿記の2級を取っていたこと。今年の2月に受けた試験で通ったそう。

「商業高校の子たちに負けるのよ、これもってないと」

 でも、株式投資部で決算書を見たり、財務諸表を見ていたおかげで、とっつきにくさはなかったという。


 このところ、株価の先行きに対する楽観論が多いように思う。

 ひとつには、円安が進んでいること。

 ひとつには、金利の緩和が継続していること。

 その一方で、金利の先高感が具体化してきた。

 物価が上がる一方で、賃金も継続的に上昇するなら、購買力も増し、企業業績が伸びることが想定できる。金利が上がれば、金融機関の評価も見直されよう。


 今月であたしの部活は終わるけど、これからインフレが進んで、物価高だけでなく、人々の所得も増え、金利も上がってくるなら、日本経済は復活するのではないか。失われた何十年から、ようやく脱却して。

 となれば。

 これからは、玉石混交の小型株の中から成長株を探すより、日本を代表する大型株があるべき姿に戻るところに目を向けたほうが、株式投資としては容易かもしれない。

 そういう意味では、PBR1倍未満で、安定的にEPSを生み出し、配当利回りのいい大型株に投資すれば、テンバガーになることは難しいにせよ、それなりにいいリターンを得られるんじゃないか。

 なんとなくだけど、そんなことを思った。それで顧問には最後の組み替えを申請した。理由も告げた。

「あなたは本当に売買頻度が高いですね」

 顧問は苦笑した。

「ダメですか?」

「いえ、残された時間を有効活用したい、最後までより多くの利益を諦めないという気持ちは、天晴と言えなくもないでしょう」


 火曜日。あたしはサイバートラストとKOAを売り払った。いずれも、この月末で部活が終わらなければ、売る必要のない株だが、さっきの理屈に賭けてみようと思ったのだ。売値は2,289円と1,840円。124,800円と16,000円の儲け。

 そしてできた資金829,405円で、水曜日に買ったのは、三井住友フィナンシャルグループとNTTの追加。6,630円で100株と166.9円で900株。それぞれ、9月には配当金も出る。しかし、銀行株はホントに上がったわね。ひろこは同じ株を4,000円未満で買ってたっけ。


 以前売ったCSランバーから配当金が入ってきた。

 なんだかいいのかなあって気持ちになる。送られてきた株主通信を見ると、目先は減収減益ながら、純資産額は着実に増えているし、売上高だって営業利益だって高水準だ。

 この株、PERは3.4倍に過ぎず、PBRは0.6倍ちょっとでしかない。

 どう見たって、安い。安すぎる。あー、長い目で見れば、この株、期待しかない。あたしが今、一年生なら、まとまった株数を買うはずだよ。


 9月2日現在、あたしのポートフォリオ

 ・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,807円、評価額280,700円、含み益43,700円、含み益率18.4%

 ・3661 エムアップホールディングス 200株 2023年6月2日購入 買値1,055円、現在1,511円、評価額302,200円、含み益91,200円、含み益率43.2%

 ・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在2,886円、評価額577,200円、含み益▲161,800円、含み益率▲21.9%

 ・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,431円、評価額1,431,000円、含み益578,000円、含み益率67.8%

 ・6777 santecHD 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,626円、評価額262,600円、含み益140,600円、含み益率115.2%

 ・8316 三井住友フィナンシャルグループ 100株 2023年8月30日購入 買値6,630円、現在6,790円、評価額679,000円、含み益16,000円、含み益率2.4%

 ・9432 NTT 1,200株 2023年6月30日等購入 買値168.35円、現在168.6円、評価額202,320円、含み益300円、含み益率0.1%

 ・現金 22,570円

 ・評価額計 3,757,590円、含み益757,590円、 含み益率25.3%

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