夏期講習
「やっば、引退してまだ5日だっつーのに、もう筋肉落ちてる」
夏期講習の教室で、坊主頭が腕まくりして、力こぶを作りながら、驚きの声を上げていた。
うちの野球部はふたつ勝って、三回戦で惜敗した。一時は6点差つけられたのを、一挙に5点返したときはスタンドじゅう大騒ぎだったけど、反撃もそこまでで、あと1点が奪えずにチャンスを潰し続け、最後のバッターはショートゴロだった。
試合が終わって、涙をこぼす選手たちがスタンドの前で深々と頭を下げたとき、惜しみない拍手を送りながら、頬を熱いものが伝うのを感じた。
いくぶん傾いた陽の光は、まだまだ刺すように強く、高い湿気に汗が滲んだ。球場の芝の緑は溢れる光に鮮やかで、青い空にはもくもくと白い雲が湧いていた。蝉がかしましい。
スタンド奥の通路に入ると、陽の光が遮られて、心持ち涼しかった。汗が引くのを感じながら、高校生最後の夏が終わる。なぜかそう感じた。
あれからまだ幾ばくも経ってないのに、もうずいぶん昔のことのよう。
あたしは、来る日も来る日も、机に向かっていた。
高校生になって3年目。つくづく思う。全くと言って基礎ができていない。
問題集を解きながら、ああ、こんなのあったよなあとか、これわからなかったんだよなあとか、これ以前も覚えようとしたよなとか、過去のあれこればかりが去来して、で、いっこうに頭の中に入ってくれない。
やっぱ、うちの高校じゃ、まともな大学なんてムリじゃないかと思ったりした。
「大丈夫だって。3年の夏までなあんにもわかってない奴なんてゴマンといるから」
と言ったのは夏期講習で初めて授業を受けた数学の教師。
「○高の生徒でも、今の時期にこれわかってない奴、掃いて捨てるほどいる」
「えー、ほんとですかあ?」
「一昨年まで○高にいたオレが言うんだから、間違いない」
○高と言えば、このあたりでは進学校として知られている。その教師曰く、○高の生徒だからって、みんながみんな、1年生から毎日毎日受験に向けて勉強してるわけじゃないからとのこと。
「国立の難関とか医学部めざすならともかく、今からでも大丈夫だから、オレの言うこと信じて一生懸命するこっちゃ」
基礎が大切
とは、勉強に限らず、なんでもそう。
投資だって、基礎がある。一番の基礎はリスクとリターンの関係なんだろう。
リスクが高ければリターンの振れ幅が大きく、リスクが低ければリターンの振れ幅も小さい。
どこか1銘柄に一時全額投資すれば、当たればでかいだろうが、外れれば悲惨なことになる。
だからこそ、いくつかの銘柄に分散したり、買う時期を何回かに分けることで、外れたときの痛みが致命的なものにならないようにする。これが基礎。
いくつかの銘柄に分散するにしても、似たような銘柄ばかり買ってると分散にはならない。
国内自動車株ばかり複数持つとする。円高になれば、いずれも値下がりするだろう。ならば、資源のような輸入株との組合せによって、為替リスクを分散できる。
んなことを漠然と思ったのは、志帆子が1年生ながら、いろいろ分散していたから。
業績回復株、割安株、成長株、安定株と、彼女は言ってたけれど、株式の分類方法は人によっていろいろのよう。
ただ、分類するのはいいけど、ある銘柄がずっと同じ分類であるわけじゃない。
成長株も高成長をいつまでも続けられない。いずれ低成長になる。だから、会社の名前を聞いて、固定観念をもつことは、とても危ないこと。
分類での狙い目はどこ? と問われれば。
あたしはやっぱり急成長株と言いたい。
だって、急成長株が一番株価の伸びが期待できるから。基本、あたしの持ち株は急成長株だ。
とは言え、急成長株は安定的な大企業ではなりにくい。小さな会社が大きくなる過程で急成長する。
小さな会社は、でも、安定的ではない。
つまり急成長株はハイリスクってこと。ここでも基礎の通りで、大きなリターンを狙うには、大きなリスクと抱き合わせということ。
でも、本当はもっとほしい分類がある。
それは優良株。
高い利益を安定的に生み出し、かつ継続的に成長を続ける銘柄。
志帆子もほしいと言ってたオービックやキーエンスは、あたしだってほしい。
でも、原資がない。こんな株は株価が高いから、手が出ない。
これらの株は3年やそこらで何倍になることはないだろうけど、ずっと持ち続ければ、果てしなく上がり続けることだろう。いいなあ、お金持ちは。こんな優良株をたくさん持つことができるのだから。資産は雪だるまみたいなもの。転がしているうちに、加速度的に膨らんでゆく。
あー、ダメダメ。ついつい四季報繰ってたりしてる。気がついたら。・・・家でひとり机の前にいると、余計なことばかり、とりとめもなく頭をよぎる。
今は、勉強に集中しなきゃ。雑念が多すぎる。
7月21日現在、あたしのポートフォリオ
・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,673円、評価額267,300円、含み益30,300円、含み益率12.8%
・3661 エムアップホールディングス 200株 2023年6月2日購入 買値1,055円、現在1,100円、評価額220,000円、含み益9,000円、含み益率4.3%
・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在3,235円、評価額647,000円、含み益▲92,000円、含み益率▲12.4%
・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,472円、評価額1,472,000円、含み益619,000円、含み益率72.6%
・4498 サイバートラスト 200株 2023年4月26日購入 買値1,665円、現在2,846円、評価額569,200円、含み益236,200円、含み益率70.9%
・6777 santecHD 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在3,005円、評価額300,500円、含み益178,500円、含み益率146.3%
・6999 KOA 200株 2023年6月27日購入 買値1,760円、現在1,837円、評価額367,400円、含み益15,400円、含み益率4.4%
・9432 NTT 300株 2023年6月30日購入 買値172.7円、現在165円、評価額43,530円、含み益▲2,280円、含み益率▲4.4%
・現金 3,605円
・評価額計 3,892,930円、含み益896,535円、 含み益率29.9%
含み益が目減りしてゆくぅ。
いっとき100万円を超えていただけに、10万円以上も下がった。
しゃあねえ。と思うけど、なんとなく悔しい。でも、もう銘柄選定するヒマはない。ヒマはないけど、決算発表されると、やっぱり気になる。はあ。