インデックス 積立投資の意味
日経平均株価は高値を更新し続けている。
このところ、株価への楽観論を多く目にするようになった。
ひとつは、FRBが利上げの見送りをするのではないかとの観測から、アメリカ市場の株価が上昇傾向にあること。
ひとつは、なんらか利上げに舵を切るとみられていた日銀の植田総裁が、緩和政策を維持する姿勢を見せていること。
ひとつは、衆議院の解散総選挙が近いとみられていること。
「選挙が近いと、なんで株価が上がるんです?」
ひろこの素直な質問に、顧問は「さあ」と笑った。
「理由はよくわかりませんが、過去の実績値では上がる傾向が強いようですね」
選挙みたいなごく短期の出来事で、株価が多少上げ下げしたからと言って、どってことないでしょう
というのが顧問の本音のようだ。
とかなんとか、言ってたら、岸田首相は今国会での解散はしないと明言した。
解散だ解散だと大騒ぎしてたのに、あっさりしないという話になって、なあんだとなったけど、株高は変わらず進んだ。
アメリカのFRBは利上げを見送った。
インフレがやや緩やかになったことや金融不安への懸念がその理由ではないかと言われてる。
アメリカの株式市場は穏当だ。
マネーが溢れかえっているから、いずれバブルが崩壊するのではと言われたりするけど、去年10月頃に調整したところから戻している。
無論、この先、どうなるのかは、わからない。
このところの株高で、日経平均株価もバブルではないか? の声も聞こえるようになった。
「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、陶酔の中で消えてゆく」
という格言がある。
今はどの位置にある?
懐疑ならば、まだまだこれからだろう。ちょっと儲かったからと嬉しそうに売ると、その後ドーンと上がって後悔することになる。
楽観ならば、そろそろ売り時だ。陶酔になるまでに処分しなければ、値崩れにせっかくの儲けを逸してしまう。
「一般論として、格言の言うところはそのとおりなんでしょうが」
と顧問は言う。
「じゃあ、今がどの位置にあるのか、そんなことは誰にもわからないと考えたほうがいい」
全体相場のことを言っているのか、日経平均株価のことを言っているのか、個別株式のことを言っているのか。対象によっても違う。
「それに、投資姿勢として短期で見てるのか、長期で見てるのかでも、話は変わってくるでしょう」
長期的に成長が続くと考えられるのなら、株価が下がったところで買い増せば、先々の株価上昇時に大きな実りとなる。
「PERがEPSの成長率に比べて明らかに割高になれば、もちろんそこは売りでしょうけどね」
とは言え、EPSの成長率も過去の推移は誰でもわかるが、先々を完全に見透せるわけではない。PERが100倍でも、当面は毎年倍々で成長する企業なら、決して割高とは言えない。
逆に、一見順調な見通しの会社であっても、為替や天変地異、事故、戦争などで思わぬ危機に直面することもあろう。
「個別株に投資することは、どうしたってギャンブルの要素があるってことです」
「ギャンブルの要素をなくしてしまうことはありえないってことですね」
「個別株に投資するなら、ね」
「個別株以外ならあるんですか?」
「資本主義経済は成長を前提にしています。長期的に経済が必ず成長する以上、全体に投資すれば、長期的には必ず儲かりますよね。必ず儲かるものをギャンブルとは言わないでしょう」
「それって、インデックスファンドとかインデックスのETFのこと言ってます?」
「そうです。市場全体を丸ごと買ってしまうインデックスファンドを、毎月とか毎週、一定額をずっと買い続けて行けば、間違いなく資産を増やすことができます。長期的に経済は成長するのだから、一時的に相場が暴落したってどうってことはありません」
例えば、毎月2万円をインデックスファンドに投資したとしましょう。
初月のインデックスファンドの値段が100円だとすれば、20,000円 ÷ 100円 = 200株買えますね。
翌月の値段が80円に下がっていれば、20,000円 ÷ 80円 = 250株買えます。
その次の月の値段が100円になれば、20,000円 ÷ 100円 = 200株買えます。
その次は100円で200株、その次も100円で200株、その次は80円で250株、その次も80円で250株、その次は100円で200株、その次は80円で250株、その次も80円で250株、その次も80円で250株、その次が100円で200株買ったとしましょう。
一年間トータルで2,700株、投資総額は240,000円です。時価総額は270,000円ですから、一時ひどく暴落したにも関わらず、30,000円のプラス、12.5%の儲けです。最後に買った次の日に110円になれば、時価総額は297,000円、23.7%の儲けです。
経済は成長しますから、暴落時に数多く買える積立投資は、長期的に大きな恵みをもたらしてくれるのです。
「個別株投資より有利ということですか」
「有利ではなく、確実ということです」
個別株の場合、将来EPSが上がると思われるところに投資しようとしますよね。インデックスは市場全体に投資します。市場全体は長い目で見れば上がります。先々上がるところに投資するのですから、これほど安全な投資先はありません。
「じゃあ個別株に投資する意味って、どこにあるんです?」
「みっつあります」
ひとつめは、インデックスよりも高い利回りを期待できること。
インデックスは市場平均ですから、平均以上の利回りは望めない。個別株なら、何十倍、何百倍といった成果を期待することができます。インデックスのように確実ではないけれども、リスクを取ることでより大きな果実を得る可能性がある。
ここはとても重要なところです。
各企業の事業だってそうですよね。果敢に投資をしなければ、事業規模を大きくすることはできません。身の丈にあった経営は堅実でしょうが、堅実経営だけでは大きな成長は期待できない。ほら、万年低PER企業や低PBR企業は、株価の大きな伸びも期待しづらいでしょ。
もっと言えば、人生だってそうかもしれません。リスクを取れば、失敗するかもしれない。けれど、リスクを取らなければ、大きな成功も期待できないと言えるのではないでしょうか。
ふたつめは、企業の実態を把握できること。
インデックスは何も考えずに、ただ愚直に積立投資をしていればいい。
けれど、それではなぜ企業が大きく成長したり、伸び悩んだりするのかわからない。
利益の源泉がどこにあるのか、利益を伸ばすためにはどうすればいいのか、ライバル企業との関係は、といったことを知るには個別株投資をしなければわからない。
会計や事業内容を知ることで、事業の良し悪しを把握することができます。それは単に投資だけでなく、あなたたちが社会人になったときに、きっと役立つことも多いと思います。企業を見る上において、ね。
みっつめは、社会の動きに敏感になること。
株価は様々な要因で上下することは、個別株投資していればよくわかりますよね。
「風が吹けば桶屋が儲かる」のようなことがたくさんある。そうしたことを常日頃から目にすれば、いろいろなことに関連性があることを意識せざるを得ないはずです、個別株投資しておれば。
あなたたちが社会人になったとき、これはとても役立つことだと思います。
これは漫然とインデックスに積立投資をしていては身につかないことです。
「あなたたちが社会人になれば、インデックスの積立投資と個別株投資の双方をすればいいと思います。インデックスの積立投資は貯金代わりに毎月一定額すればいいでしょう。相場が下がったときに通常より多くの金額を投資すれば、もっと効果的です。銀行口座に貯金するより、よっぽど確実に財産を増やしてくれるでしょう。インフレ対策にも、もってこいです」
金曜日、青い四季報が発売された。
四季報の購入は一年生の仕事だ。が、今年の一年生は志帆子しかいない。
「志帆子ひとりじゃかわいそう」とひろこ。
顧問と部員の計六人分の四季報を買ってくる。
「問題ない」
無口な少女は部費を握りしめて、静かに学校を出て行った。やがて、サンタクロースのように荷物を担いで戻ってきた。
その日は昨日の大雨とは打って変わって、真っ青な空に、ギラギラした太陽が容赦なく照りつけていた。少女は白い頬を赤く染めて、額から汗を流していた。
「ご苦労さまだったね、大丈夫?」とひろこがお茶を出しながら、後輩を気遣った。
「問題ない」
3月期決算企業の本決算がまとめられた青い四季報。
さあて、今年度の見通しはどうなんだろう。あたしの持ち株を見ると。
・2588 プレミアムウォーターホールディングス
順調な伸びを見込む。営業利益の伸びに比べてPERはまず妥当な水準。
・3661 エムアップホールディングス
こちらも順調な伸びを見込む。PERも妥当。
・3695 GMOリサーチ
こちらも順調。PERは割安。
・4380 Mマート
順調。PERは妥当だが、どこかで爆発しないかな。
・4498 サイバートラスト
今期は大きく伸びる見込み。PERは妥当だけど、上振れすると割安になる。
・6777 santecHD
今期反落とか。でも、そうだろうかと思う。上振れすればPERが低いだけに、株価は大きく伸びる可能性がある。次の決算でどんな数字を出してくれる?
・7808 シー・エス・ランバー
見通し暗いようなこと書かれている。が、キャッシュフローは良好で、問題ないと思う。PERは異常なまでに低い。ただ、あたしには残り時間がない。どうしようか。
6月16日現在、あたしのポートフォリオ
・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,542円、評価額254,200円、含み益17,200円、含み益率7.3%
・3661 エムアップホールディングス 200株 2023年6月2日購入 買値1,055円、現在1,240、評価額248,000円、含み益37,000円、含み益率7.5%
・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在3,195円、評価額639,000円、含み益▲100,000円、含み益率▲13.5%
・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,467円、評価額1,467,000円、含み益659,000円、含み益率77.3%
・4498 サイバートラスト 200株 2023年4月26日購入 買値1,665円、現在3,550円、評価額710,000円、含み益381,000円、含み益率114.4%
・6777 santecHD 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,903円、評価額290,300円、含み益168,300円、含み益率138.0%
・7808 シー・エス・ランバー 100株 2022年4月18日購入 買値3,470円、現在3,045円、評価額304,500円、含み益▲42,500円、含み益率▲12.2%
・現金 99,430円
・評価額計 4,016,430円、含み益1,016,430円、 含み益率33.9%