最後の投資先?
「資産株ですか」
顧問はそう言って、笑った。
「難しいですよ、資産株を狙うのは。景気循環株と同じくらい難しいかもしれない」
顧問は、よくこう言ってた。
「確かに株式は、資産株、景気循環株、成長株、停滞株、優良株、業績回復株など、分類すれば、わかりやすいのかもしれませんが、この会社は資産株だ、この会社は優良株だなどと、型にはめて考えるのはどうかと思います。なぜなら、会社は常々変化するからです」
結局、株価をEPS × PERで判断するのが一番わかりやすい。
EPSが上がり続けると想定されることが大前提にあって、その想定される成長率に比べて現在のPERがどの程度なのかを見る。ここを押さえておくことが株式投資の基本。
どんなに前途洋洋の会社であっても、PERが高すぎれば、株価は期待を織り込んでしまっている。もうそれ以上、上がることは期待薄だ。
逆にいくらPERが低かろうと、EPSが先々伸び悩むようなら、株価も伸び悩む。
「資産株をEPSとPERで考えると、どうなりますか?」
「それはむずかしいなあ」
「むずかしい?」
「だって、資産と成長は別物でしょう。いくら資産があっても、成長が見込めないなら、株価が上がることは期待しにくいでしょう」
「じゃあ、資産株が意味を持つのは、どういうときですか?」
「みっつあります」
ひとつめは。
その資産を使って、株主に還元するとき。
配当金を増やす、自社株を買う。特に自社株を買えば、株数が減るので、EPSも増える。
ふたつめは。
その資産を使って、投資するとき。
その投資が成長につながるのなら、会社は化ける可能性がある。
けれど、誤った使い方をすると、お金をドブに捨てることになる。
みっつめは。
その資産を狙って、誰かが買収しようとするとき。
「本当なら、ふたつめが望ましい姿なのかもしれませんが、それも投資が成功すればの話です。うまく行くかどうかはわからない」
「じゃあ、資産株に投資する狙い目はどこにあるんですか?」
「短期ならひとつめでしょうね。ほら、PBR1倍未満の企業に具体的な改善を求めると言われて、ROEの改善を打ち出してる会社などは好例だと思います」
そして、これは誰かさん任せにはなるけれど
「誰かが買収しようとするなら、株価は上がります」
「どうして?」
「買収するからには過半数の株式を取得する必要があるでしょう。買い需要が大量に出るんだから、株価は上がるしかありませんね」
「でも、株価が上がったら、買収する人は安値で買えないですよね」
「ええ。だから安値で放置される資産株が少なくないとも考えられますが、買収する場合はTOB(株式公開買付)が普通です」
「TOB?」
「決めた価格で株を買うと宣言して株式を買い占める方法です。その時点の株価の何割増しの金額を提示するのが普通です」
でもね。
「本当の資産株は、普通の人にはわかりにくい隠れた資産を持つ株のことだと、私は思います」
「どういうことですか?」
「現金がいくらあるかはバランスシートを見れば誰でもわかります。あり余る現金があれば、それはそれですばらしいことですし、中には時価総額よりはるかに多いネットキャッシュをもつ企業もありますから、侮れるものではありません。しかし、そんな資産は誰だって知っていること、少なくともちょっと確認すればわかることです」
「ですよね」
「でも、簿価の低い不動産や、なにか独占的な権利を持っていればどうでしょう。知る人ぞ知る資産は、普通の人にはわかりにくい。価値がわからない人が多ければ、EPSの増減など、わかりやすい別の要因で株価は上下します。ところが、その人知れずの資産が明るみに出ると、株価も急騰する可能性があります」
なるほど、むずかしいな。
わかりにくい資産を一生懸命探すより、EPSの見通しとPERを見比べて、割安な株を丹念に探した方がまだ簡単だ。だから、顧問は「株価 = EPS × PER」を繰り返すのかな。
・・・ということで、高校最後の投資先を資産株にするのは、やめた。
じゃあ、どうしよう。資金は30万円ほどある。
4月に買ったサイバートラストはひと月で倍近くになった。
しかーぁし!
そのサイバートラストを買うために売ったメック。
売却額は2,550円だった。
が、月曜日の終値は3,200円!
ちょっと待ってよ、なに、この上がり方。
こんなことなら、値動きの乏しいプレミアムウォーターホールディングスか、CSランバーを売っておけばよかった。
深く深く息が漏れた。
なこと言ってても始まらない。
あたしが選んだのは。
・3661 エムアップホールディングス
歌手などのファンサイトを運営するITベンチャー。
コロナウィルスが収束し、行動制限が解かれた今、各種ファンサイトは急速に増えてゆくはず。また、コンサートも増えてゆくだろうから、電子チケット販売も比例するだろう。
営業利益率は9.0%、12.4%、13.0%ときて、2024年3月期は14.3%を見込む。売上高は9.8%増収、営業利益は20.5%増益、純利益は37.2%増益を見込む。PERは20倍程度。株価は直近高値1,873円から半値近くまで下げている。
純資産は4,454百万円、5,396百万円、6,657百万円と着実増。有利子負債はなし。
顧問には木曜日に告げ、金曜日の初値1,055円で200株買った。
6月2日現在、あたしのポートフォリオ
・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,479円、評価額247,900円、含み益10,900円、含み益率4.6%
・3661 エムアップホールディングス 200株 2023年6月2日購入 買値1,055円、現在1,066円、評価額213,200円、含み益2,200円、含み益率1.0%
・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在3,095円、評価額619,000円、含み益▲120,000円、含み益率▲16.2%
・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,426円、評価額1,426,000円、含み益573,000円、含み益率67.2%
・4498 サイバートラスト 200株 2023年4月26日購入 買値1,665円、現在3,310円、評価額662,000円、含み益329,000円、含み益率98.8%
・6777 santecHD 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,948円、評価額294,800円、含み益172,800円、含み益率141.6%
・7808 シー・エス・ランバー 100株 2022年4月18日購入 買値3,470円、現在3,080円、評価額308,000円、含み益▲39,000円、含み益率▲11.2%
・現金 95,526円
・評価額計 3,866,426円、含み益866,426円 含み益率28.9%