日経平均株価30,000円超え
欧米の景気後退がほぼ確実視される中。
日経平均株価は先週木曜日からあれよあれよと上がり続けた。
背景には、好調な企業業績がある。
「物価が上がってるってことは、企業の売上高も増えてるってことですから」と顧問。
「でも、物価が上がるってことは、費用も上がるってことでしょ?」とひろこ。
「そうなんですけど、もう物価高も当たり前のように感じていませんか?」
当たり前・・・うーん、そうは思わないけど、仕方ないとは感じるようになってきた。
「どれもこれも値上げが続いてますよね。値引きでマーケットを取る戦略を取った企業も中にはありますが、あまりうまく行ってるように思えないですし」
例えば、あたしの持ち株だった小売の会社は、費用の上昇に利益幅を減らさざるを得ず、値引きを補うほど販売を伸ばすことも叶わなかった。結局、一転、値上げに踏み切ったっけ。
「物価も一種の流行というか、空気みたいなものですから。値上げもしょうがないなと思う空気が生まれたなら、そこは素直に乗ってしまえば、売上高も増えるし、利益を減らすこともない」
「そんな単純な話なんですか?」とカレンが質すと
「敢えて単純に言えばですね。値段を上げたらお客が離れた、シェアを奪われた、なんてことも勿論あります。単純ではあっても、簡単ではないってことですね」
「投資する立場から言えば、コストの上昇分以上に価格転嫁できる企業や、インフレで弱った他社のシェアを奪うことができる企業こそ狙い目になります」
価格転嫁できる企業とは?
今までと同じ商品の値段を上げればいい・・・という単純な話でもないんだろう。
「旅行業界は富裕層向けの高額商品を揃えることで、物価高を超える価値を生み出そうとしていますね」
そう言えば、一泊何十万円、何百万円もするような宿泊施設が近ごろよく話題になったりする。お寺全部をホテル代わりに利用できるプランもあった。日本中にお寺や神社がいくつあるか知らないけど、泊まれるお寺や神社をあちこちに作れば、けっこういい稼ぎになりそうだ。檀家がいなくなって廃寺になったところなど、地域再生の起爆剤になる可能性さえあるかも。
「それ、いいんじゃない? セラ、どこかで事業化してみたら?」
もう、カレン、茶化さないでよ。
「でも、いろいろ考えられるわよね」
日本のサービスが細かく丁寧すぎると外国人に感じさせているようだけど、様々なサービスの職場体験ツアーが実現できれば、人気を集めるにちがいない、とか。
「高校だって、制服着て、授業を受けられるツアーもアリじゃないかしら。日本の制服に憧れる外国人は多いんでしょう。少子化でどこの学校も教室は余ってるし、高校無償化で財政負担が大きくなってるから、ツアーでお金を稼げるようになれば、都道府県だって嬉しいんじゃないかしら」
カレン、あんたこそ、それ、事業化すれば?
「まあ、でも、具体化の話になれば、教育と観光は管轄が違うだの、安全を保証することが難しいだの、教員の確保が難しいだの、できない理由を並べる人、絶対出てくるわよね。特に役所だったら。そこが一番のカベかも」
でも、インバウンド観光客も、数ばかり追っていると、あっちもこっちもごった返してしまうばかりだけど、単価の高い人たちなら、数を追わずとも額を稼ぐことができる。
インフレになって、価格の許容度が上がるなら、いっそ高価格帯の市場に参入するのは戦略としてアリなんだろうな。
「参入というより、創造といったほうがいいと思います」
なるほど、ないものを作るほうが面白そうだし、既存市場への先入観やジョーシキがない分、発想にしがらみもなさそうだ。
「インフレになって値段が上がるということは、モノの価値が変わるということです。今は世界的に値段が上がっていますから、価値は流動的ですよね。言い換えれば、価値の落ち着きどころを探っているところです。ここで自社に有利な落ち着きどころが社会に認められれば、その会社の成長は約束されますね」
あたしの部活もあと4ヶ月ちょっと。
もっと成果が欲しい。
インフレは始まった。賃上げも多くの企業が踏み切った。日銀は緩和政策を継続している。脱コロナで人流は回復している。これって、一昨年の欧米と一緒じゃない? となれば、日経平均株価は上がるしかない、よね?
そして、しばらくしてから、インフレが止まらなくなって、日銀が慌てて金利を急ピッチで上げざる得なくなる・・・
政府の財政状況が違うから、そこまで相似形を描くかどうかはわからないにしても、目先は株価が下がる要因が見当たらない。
「と、思いました」と、あたしが言うと、
「それで?」と顧問。
「Wインバを売っちまうことにしました」
「あ、そう」
「・・・あの、」
「なんですか?」
「あたしの考え、おかしくないですか?」
「おかしい? あなたなりに理屈は通っていると思いますが」
「理屈は通ってても、根本的に考えが違ってるとかないですか?」
顧問はふっと笑った。
「もう投資を始めて2年以上なるんですから、おわかりのことだと思いますけど、投資の世界に正解なんてありませんよ。予想外のことはいくらでも起こります。ほら、この何年の間でも、ロシアのウクライナ侵攻とか、コロナウィルスの世界的蔓延とかありましたよね」
「欧米で進むインフレだって、中央銀行が一時的なものと見誤ったから、今になって懸命に利上げを進めていると言われているわけですが、言い換えれば、中央銀行に勤める金融のプロ、それも最高峰の人たちでさえ、予想外のことが起こるわけです」
未来に何が起こるかはわからない。
「そんな誰でも知ってることを、投資するときは反芻することです。だから、正解なんてない。正解がない以上、どんな立派な人が言うことでも、鵜呑みにしてはいけません。誰かが推奨したから、この株を買いますなど愚の骨頂です」
「あの・・・」
「なんですか?」
「Wインバ売って問題ないですよね?」
顧問は笑った。
結局、火曜日の初値286円で売れた。買値より100円ほど下回ったから、10万円以上の損だった。
でも、日経平均株価はその後も上がり続け、翌水曜日は30,000円を超えた。さらに止まることなく、木曜日も金曜日も上がり続け、終値は30,808円に達した。売るタイミングとしてはよかった・・・わけないか。手ひどく損したんだから。
まあ、でも、相場が高騰しきったときに、下落リスクを担保するための手段として、インバースのETFが有効だってことを知ることはできた・・・と納得しよう。
・・・イソップだっけ? こんな話、あったなあ。
軍資金ができた。
さあ、何を買おう。こと部活最後の買い物になる。かもしれない。じっくり見よう。
今週は、大谷翔平が投げては勝利投手で5勝目、打ってはあわやサイクルヒットかというほどの活躍があった。
そして、週末。
G7サミットが広島で開催され、アメリカのバイデン大統領、カナダのトルドー首相、イギリスのスナク首相、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相、イタリアのメローニ首相、それにEUからの二人が来日した。他にインドのモディ首相や韓国の尹大統領など招待国の首脳も続々集まってきた。
驚きは、ウクライナのゼレンスキー大統領までが来日するとのニュースが飛び込んできたこと。
「え? 来れるの?」
ウクライナとロシアの戦争、この先どうなるかはわからないけど、少なくともウクライナにはトップが世界に協力を呼びかけるために動く自由がある。国外に出れば、逮捕されかねないロシアのトップには、今となってはやりたくてもできない芸当だ。
逃げず勇気ある行動を示し続けて多くの国々から支援を勝ち取る大統領と、自分だけは絶対守られた場所にいて、国際的にはただの犯罪容疑者にすぎない大統領。もう勝負あったと思うのは、あたしだけ?
5月19日現在、あたしのポートフォリオ
・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,442円、評価額244,200円、含み益7,200円、含み益率3.0%
・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在3,110円、評価額622,000円、含み益▲117,000円、含み益率▲15.8%
・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,335円、評価額1,335,000円、含み益482,000円、含み益率56.5%
・4498 サイバートラスト 200株 2023年4月26日購入 買値1,665円、現在2,781円、評価額556,200円、含み益223,200円、含み益率67.0%
・6777 santecHD 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,591円、評価額259,100円、含み益137,100円、含み益率112.4%
・7808 シー・エス・ランバー 100株 2022年4月18日購入 買値3,470円、現在3,135円、評価額313,500円、含み益▲33,500円、含み益率▲9.7%
・現金 306,526円
・評価額計 3,636,526円、含み益636,526円 含み益率21.2%
1年生の志帆子へのレクチャーは続く。
1. 人気もあって、実力もあれば、株価は上がる。
2. 人気はあるけど、実力が伴わなければ、株価は下がる恐れがある。
3. 人気はないけど、実力があれば、株価は上がる可能性がある。
4. 人気もなくて、実力もなければ、株価は低迷する。
「・・・とは言うが、人気や実力の基準は何をもって判断すればいい?」
人気を表すPERは、株価がEPSの何倍かを表す。
仮にPER10倍なら、株価はEPSの10倍、つまり現利益の10年分ということだ。
見方を変えれば、PER10倍とは、株価に対してEPSが10%であることを示す。
「例えば、今ここにEPSが100円の株があるとしましょう。この株は一年で一株あたり100円の純利益を生み出します」
「仮にこの株の株価が1,000円ならば、一年で100円の価値を生み出すわけですから、年間利回りが100 ÷ 1,000 = 10%を期待できると判断できます」
ちなみに、利回りというと、確実につく利息のように聞こえるので、ここでは益回りという表現をする。
企業の業績は必ずしも一定しているわけではない。EPSにも変化がある。
「仮にEPSが200円に倍増する見通しが示されたならば、年間益回りは200 ÷ 1,000 = 20%が期待できることになります。20%の利回りなんて、そうそうあるものではありません。だから、多くの人がこの株を買おうとします」
「一方で、この株を持っている人は利回りがこんないい株を手放そうとはしないでしょう。それに見合った株価でなければ売りたくないですよね。買いたい人が多くて、売りたい人が少ない・・・」
となると、株価は上がる。例えば、益回り10%の水準まで上がるなら、株価は200円 ÷ 10% = 2,000円まで上がることになる。
逆に、EPSが50円に落ち込む見通しとなれば、株価1,000円では、50 ÷ 1,000 = 5%しか益回りが期待できなくなる。そんな株なら買いたい人は少なくなるので、EPS50円でもそれなりの益回りが期待できる水準まで株価は下がることになる。
「株式は将来価値を今の価格に置き換えようとします」
株式の期待益回りが年間10%とするなら、EPSが200円になると見込めば、株価は2,000円が期待できるし、50円になると思えば、株価は500円になる。
「その会社の業績が好調で、向こう三年間、毎年25%ずつ増益すると見込まれれば、EPSは1.25 × 1.25 × 1.25 = 1.953 のざっくり2倍になるので、株価も倍増が期待できるし、他社を買収するなどしてEPSの水準そのものが大きく変わってしまえば、株価は何倍、何十倍にもなることも珍しくはありません」
なので、今のEPSが100円でも、何年か後に1,000円が期待できるなら、益回り10%として、1,000円 ÷ 10% = 10,000円の株価だって容認されることになる。今のEPS100円を基準にすれば、株価10,000円の益回りがわずか1%でしかないにしても、だ。
「PERで言えば、株価10,000円 ÷ EPS100円 = 100倍ということになります。普通なら、純利益100年分の株価など、途方もなく高いと判断されるでしょうが、EPSが爆発的に伸びる株にはそれだけの人気が集まるということです」
志帆子は黙って聞いている。
無口なこの子がどこまで理解できているのかはわからない。
でも、基本の話ながら、あたしたち投資経験をかじった者にも、理解の整理になると感じる。
そう、将来価値を今の株価に置き換えたときに、まだ十分反映されていないと思えば買い、もうちょっと高くなりすぎと思えば売り、という判断をすればいいわけで。