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投資少女  作者: 雨後虹晴
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春の決算発表

 どこもかしこも、人人人であふれかえっていたゴールデンウィークも終わり、学校が再開した。

 進学か、就職かの最終確認票の提出をしなければならない。

 のに、あたしは、まだ決めきれていない。

 入学したときは進学など想像もしなかった。大学? そんなとこ行ってどうする? そう思っていた。

 けれど、部の先輩二人は大学に行った。一人は国立に、もう一人はそれなりに名の知れた私大に。

 うちの高校ではなかなかない進路だが、あたしも選択肢のひとつとして考えていいんじゃない? と思うようになったのだ。


 先輩の一人は、婚活のために行くと言った。女子が希少な国立理系で、誠実な男をつかまえるとかって言ってた。婚活など、もっと考えたことがないあたしは、ただただ驚くばかりだった。

 もう一人の先輩は部活で経済や社会の面白さを感じたとか言ってたけど、

「いきなり就職より、まだ若いんだし、もう少し気楽に遊ぶ時間があってもいいかなって思って」

 とも言ってた。そうだよな、とも思う。


「カレンはどこの大学行くつもり?」

 ゴールデンウィークが終わった火曜日、部室で聞くと、カレンは意外な返答をした。

「大学なんて行かないわよ」

 へ?

「だって、カレン、成績いいんでしょ?」

「べつに今、高い授業料払ってまで習いたいこともないし」

「じゃあ、就職するの?」

「ここで習った投資を活かすには原資が必要でしょ? 時間があればあるほど、投資には有利なんだったら、原資をさっさと作りたいと思って」

 開いた口がふさがらない。この子、そんなこと考えてたんだ。

「セラは大学行くの? どこの大学?」

 決めきれないこと聞かれても困るだけだって。


「大学って、おもしろい?」

 うちで大学生の兄に聞いてみた。

「え? おまえ、大学行くの? どこめざしてるんだ?」

 カレンと同じこと聞かれた。

「まだ、なんも決めてない、つーか、ぜんぜんわかんないよ」

 素直に答えた。笑われた。

「勉強してんかよ?」

 こっちが笑うしかない。

「行きたいんだったら、志望校決めて、早めに受験対策しないと間に合わないぞ」

 そりゃそうだよねえ。。


 春の決算発表が本格化した。

 3月期決算企業の本決算が続々発表。

 コロナの規制が緩和され、人流が戻ってきたことが数多くの決算にも色濃く反映された。

 全体傾向として、2023年3月期決算はよいところが多いように思う。ただ、2024年3月期に継続されるかとなると、慎重姿勢なところが多いようだ。

 欧米の景気がわるくなる、ウクライナとロシアの戦争に終わりが見えない、中国と西側諸国の対立激化で自由貿易に制限が増える、インフレが進んで消費が低迷する、などが懸念されているのだろう。


 となると。

 来月発売される四季報夏号、今年の青い四季報は、あまり景気のいい記事が多くない、かもしれない。

 注目は次の夏の四半期決算でどうなってるかだ。そこで進捗が好調なら、様子見を決め込む投資家が一気に買いに走るかもしれない。

 高三のあたしたちにとって、今年の8月は、最後の銘柄選定機会になる。9月末までの超短期間で爆上げする銘柄を探すための。


 志帆子へのレクチャーは、顧問が二年生交えて日々行なっていた。

「株価 = EPS × PER」

 という単純かつ極めて重要な数式が繰り返し語られる。

「人気のPER、実力のEPS」

 顧問は新しい表現をした。

「人気のセ、実力のパ」

 にかけてみましたと、顧問は笑った。

「なに、それ?」

「あれ? 知りません? 最近は言わないのかなあ、パ・リーグも観客増えたからなあ」

 昔のプロ野球は、セントラルリーグのチームに人気が集中し、パシフィックリーグの試合には観客があまり集まらなかったそうだ。けれど、セ・パで対決するオールスター戦や、日本シリーズでは、パ・リーグのチームが勝つことが多くて、そういう言い方をしたのだという。

「今年は野球が盛り上がってますからね」

 まあ、単純化したほうが、わかりやすくはあるわな。


 1. 人気もあって、実力もあれば、株価は上がる。

 2. 人気はあるけど、実力が伴わなければ、株価は下がる恐れがある。

 3. 人気はないけど、実力があれば、株価は上がる可能性がある。

 4. 人気もなくて、実力もなければ、株価は低迷する。

「という理解でいいか」

 志帆子は、静かに言った。

 顧問は大きく頷いた。


「であれば、狙い目は1か3という理解でいいか」

「その通り」

「株価の上昇幅が大きいのは1より3と推察するが、上昇に時間を要するのは3と認識する」

 志帆子は静かに言った。

 顧問は笑った。ひろこが「志帆子ちゃん、すごーい」と目を丸くして、志帆子に抱きついた。


 新たに発表された決算の中で、志帆子のいう1に該当するのは。

 ・2267 ヤクルト本社

 時価総額1兆円を超える巨大企業ながら、2023年3月期は、売上高が16%増収、営業利益は24%増益。2024年3月期も売上高10%増収、営業利益14%増益を見込む。PERは25倍。


 ・6036 KeePer技研

 こちらはこの3年ほどで株価は10倍になった。本決算は6月。先日発表の3Qも、売上高21%増収、営業利益31%増益。PERは40倍を超える。


 3に該当するのは。

 ・6338 タカトリ

 こちらはこの3年ほどで株価は30倍まで噴き上がり、そこから6割ほど下がった。本決算は9月。先日発表の半期は、売上高50%増収、営業利益35%増益。PERは13倍ほど。


 あたしの持ち株は。

 ・2588 プレミアムウォーターホールディングス

 2023年3月期の本決算。

 売上高 12%増収、営業利益 20%増益。増収率、増益率ともに前年比で下がった。事業規模が拡大している中では致し方なしというところかな。今期は7%増収、12%増益の見込み。

 すごいなと思ったのは、フリーキャッシュフローが9,542百万円に達したこと。

 この会社の場合、顧客を獲得するための初期費用が一時的にかかるものの、いったん契約を勝ち取れば、月々安定的に利用料が入ってくる。原価率は15%ほどにすぎないので、新規顧客の拡大が先々落ち着けば、75%もの販管費率を減らすことで利益を生み出すことは容易のはず。

 会社計画では今期の営業利益率は10%ほどだから、まだまだ新規顧客を増やし続けるということだろう。


 ・6777 santecホールディングス

 2023年3月期の本決算。

 売上高 71%!増収、営業利益 2.4倍!増益。営業利益率は26%に達する。買収した2社がフル寄与。

 今期は伸び率こそ小さいものの、前期の水準を維持。純利益が10%ほど減る計画だから、週明けは株価も下がるかもだけど、ここ何年の伸び率と将来期待を思えば、もしぐっと下がれば、押し目買いの好機になるかもしれない。


 5月12日現在、あたしのポートフォリオ

 ・1357 日経平均ダブルインバース 1,000株 2021年12月8日購入 買値388円、現在295円、評価額295,000円、含み益▲93,000円、含み益率▲24.0%

 ・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,430円、評価額243,000円、含み益6,000円、含み益率2.5%

 ・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在3,095円、評価額619,000円、含み益▲120,000円、含み益率▲16.2%

 ・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,413円、評価額1,413,000円、含み益560,000円、含み益率65.7%

 ・4498 サイバートラスト 200株 2023年4月26日購入 買値1,665円、現在2,998円、評価額599,600円、含み益266,600円、含み益率80.1%

 ・6777 santecHD 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,237円、評価額223,700円、含み益101,700円、含み益率83.4%

 ・7808 シー・エス・ランバー 100株 2022年4月18日購入 買値3,470円、現在3,155円、評価額315,500円、含み益▲31,500円、含み益率▲9.1%

 ・現金 20,526円

 ・評価額計 3,708,800円、含み益729,326円 含み益率24.3%


 サイバートラストの上げが全体を押し上げた。志帆子分類で言えば、3から1に移ってるところ、といったところかな。

 GMOリサーチは、直近高値からの調整がなかなか終わってくれない。PERから言えば、3に該当すると思うんだけどな。

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