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投資少女  作者: 雨後虹晴
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ゴールデンウィーク

 5月2日現在、あたしのポートフォリオ

 ・1357 日経平均ダブルインバース 1,000株 2021年12月8日購入 買値388円、現在300円、評価額300,000円、含み益▲88,000円、含み益率▲22.7%

 ・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,470円、評価額247,000円、含み益10,000円、含み益率4.2%

 ・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在3,095円、評価額619,000円、含み益▲120,000円、含み益率▲16.2%

 ・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,407円、評価額1,407,000円、含み益554,000円、含み益率64.9%

 ・4498 サイバートラスト 200株 2023年4月26日購入 買値1,665円、現在2,595円、評価額519,000円、含み益186,000円、含み益率55.9%

 ・6777 santecHD 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,359円、評価額235,900円、含み益113,900円、含み益率93.4%

 ・7808 シー・エス・ランバー 100株 2022年4月18日購入 買値3,470円、現在3,195円、評価額319,500円、含み益▲27,500円、含み益率▲7.9%

 ・現金 20,526円

 ・評価額計 3,667,926円、含み益667,926円 含み益率22.3%


 含み益率が20%を初めて超えた。上がってくれる株もあれば、思い通りにならない株もあるけど、単純に嬉しいと思う。マリノさんみたいに、大学の学費ほどにはならないけど。

「まあ、まだ時間あるからな」

 卒業後の投資に向け、先々の原資になるほどにはしたい。100万円でも、200万円でもいいから。


「ワイハに行ってきまーす」

 5月2日火曜日、授業が終わると、わざわざ校門まで迎えに来た高級車に乗り込んで、ひろこはさっさといなくなった。

「やぁっとですよ、やぁっと。コロナコロナで全然海外行けなかったから。高校初です」

 お嬢の家では、年に二度は海外に行ってたらしい。

「コロナの間はずっと家にいたのかよ」

 メガネくんが聞くと

「おじいちゃんちの別荘に行ってた」

「別荘?」

「でも、つまんないんだよねー。避暑地ってただの田舎だから。お店って言っても限られるし、森とか山とか、いい加減、見飽きるしさあ」

「ふーん」

 メガネくんは、なあんの興味もなさそうだった。


「おれ、バイトなんで」

 メガネくんは休みの間、ずっと親戚がやってる旅館に行くのだとか。

「外人来たら困るんっすけど。英語できないんで」

「時給どれくらい?」

「1,300円」

「わるくないね」

「三食つきますしね、でも、人手不足で時給増やしてもなかなか集まってくれないみたいっすよ」

「そうなんだ、もったいないね、せっかくの稼ぎどきなのに」

「セラさん、どーするんすか?」

「あたし? ふつうにガッコ来るけど」

 家族で出かけることもないし、友だちとの約束のない日は、家にいても仕方ない。


 それにしても、2023年のゴールデンウィークは、どこもかしこも、人人人で、ごった返している。

 コロナで制限されていた自由を満喫したい人たちが、したいことをのびのびやっている。

 外人も明らかに増えた。

 人手は、絶対的に不足している。

「これ見てたら、景気が悪くなるなんて思う?」

 物価は上がってる。けれど、人手不足で給与も確実に上がっている。

 ニュースでは物価高に耐えられないとか、コストアップに収益が圧迫されるとか、マイナスの話も少なくないけれど、日本もようやくデフレから脱却して、次のステージに移るんじゃないかな。


 アメリカのFRBは0.25%の利上げを決めた。これで10会合連続、政策金利の指標であるフェデラルファンド金利は5〜5.25%になった。

 実に16年ぶりの水準で、リーマンショック前の利上げの到達点に並んだという。

 5月1日にアメリカの地銀、ファースト・リパブリック・バンクが破綻したばかりだったから、利上げ見送りを想定する向きもあった。

 けれど、高騰する物価対策を優先した格好だ。

 アメリカでは依然、人手不足が深刻だそう。

 そんな中では、給与を上げてゆかねば、人も集まらない。つまりは、インフレが続くってこと。


「日本のコロナ制限が解除される効果はこれからですよね。FRBは利上げのタイミングを見誤ったって言われてますけど、日銀もいつまでも緩和続けてたら、アメリカと同じことにならないですか?」

 漠然と感じた疑問を顧問にぶつけてみた。

「同じ? 同じとは?」

「あ、だから、インフレが止まらなくなって、物価がどんどん上がって」

「可能性は、なくはない、ですね。そうなってほしいと日銀は渇望してるのでしょうけど」

「そうなったら、やっぱり株価は下がるのでしょうか」

「下がる? なぜ?」

「金利が上がって、それで・・・」

「どうでしょうね、もちろん、先の話など誰もわからないですが、物価が上がること自体は企業にとって悪い話ではありません」

「製品価格を上げられるから、ですか?」

「そう、インフレ以上に経費を抑えて売値を増やすことができれば、利益を増やすことができる」

 そう言えば、ガス会社の中には、利益を大幅に伸ばしたところもあった。

「そんな儲かってるんなら、ガス代、上げないでいいじゃない」と、お母さんがテレビ見ながらブチブチ言ってたことを思い出した。


「結局ね」

 ・価格転嫁ができる企業にはインフレはプラス、できない企業にはインフレはマイナス

 ・政策金利がどうあれ、インフレ下では商品価格が上がるので、貨幣価値は下がる

 ・インフレに見合う賃上げをする企業は伸びるが、しない企業は伸びない

 と、顧問はまとめた。そして

「インフレになって株価が上がるかどうかではなくって、上がる可能性が高い企業もあれば、下がる可能性が高い企業もあるってことです」

 当たり前と言えば、当たり前のことですけどね、と笑った。


 政策金利がどうあれ、貨幣価値が下がるとは、面白いなと思った。

 物価が上がるってことは、手持ちのお金の実質価値が減るってこと。

「銀行に預けていたって利息がつかないから、もっと利回りのいい商品に投資すべきって言う人が少なくありませんでしたが、デフレの頃なら銀行預金も決してわるい選択肢ではなかったのですよ」

 だってデフレは貨幣価値が上がるわけですから、利息がなくっても、実質的に増えていたからと顧問は言った。

「でも、来年にもっとモノの値段が上がるとわかっていれば、どうですか? 後生大事に現金抱えていても、今日の1億円は年が明ければ9千何百万円に目減りしてしまいます。お金を借りる人にはいいですが、貸す人はそれでは困りますよね。貸したお金を後で返してもらっても、実質的に目減りしてるのなら」

「目減りするのに見合うだけ、余計にお金を増やしてほしい」

「そう、誰だってそう考えるはずです。金利がお金のレンタル料だと考えれば、レンタル料の中には、レンタル屋さんの儲けも、レンタル屋さんが別のどこかから仕入れてきたお金の仕入れ代も含まれています。インフレが続けば、将来の貨幣価値に見合った目減り分の補填が求められる。つまり」

「金利は上がらざるを得ない」

 顧問は、そういうことです、と言った。


「それでも金利を上げずにいたなら、どうなりますか?」

「仮にインフレが止まらなくなって、通貨価値が下がり続けたとすれば、例えば、ハンバーガーひとつに一万円とか十万円とかする時代になったとして、それでも金利がつかないとすれば・・・持っていれば持っているほど価値を失ってゆく、そして、その補償は何もないということと同義です。そんな通貨、あなたほしいですか?」

 いらない、かも。

「誰もほしいと思わないお金になれば、もはや通貨としての役割は果たせない。しかも、国民のほとんどが現金で資産を持っていますから、国民は多くの資産を失うことになるでしょうね」


 連休中の部室には、あたしの他に一年生の志帆子がいた。

「志帆子ちゃん、株式投資で世界征服するとかって言ってたけど」

「世界征服ではない。企業買収したいだけ」

「社会を作り変えるとかって言ってなかった?」

「言った」

「どんなふうに作り変えるの?」

「才能を持つものに、力を発揮できる社会に」

 ?

「資本のない者に最初の資本を与える。機会を与えないまま、消える才能を一人でも少なくする」

 あたしは、開いた口がふさがらなかった。なんのリアクションもできないまま、ショートカットの鬱な一年生をただただ見つめてしまった。

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