銘柄を見直す
三年生になってひと月が経とうとしてる。早い。
クラスの中でも、部活に燃えてる子たちの目が真剣になってきた。最後の夏に向けて、密度の濃い練習に励んでいる。高校生でいられる時間は日々短くなってく。
そう思うと、なんだろう、気ばかり焦ってくる。
進路はどうする?
あたしは将来どうなりたいんだろ。
全然わかってない。
大谷翔平はじめ、ワールドベースボールクラシックで躍動した選手たち。
すごいすごいと大騒ぎした。
大騒ぎしながら、羨ましくもあった。
あふれる才能や能力に、ではない。自分の歩む道を見つけ、歩み続けていることに。
あたしには、歩む道が見えてない。なのに、時間ばかりが経ってゆく。
朝起きる。制服を着て家を出る。駅に行く。大勢の人たちが通勤に通学に電車に乗る。
おじさんがいる。おばさんがいる。歳とった人、中年の人、まだ若い人、男の人、女の人。それぞれ自分の道を歩んでるんだろうな。みんな、どうやって進路を決めたんだろ。
あたしみたいに、高3にもなって、どうしようどうしようなんてバカなことしてなかったんだろな。
この先、どうしたらいいんだろ。
カレンは何にも言わないけど、絶対に決めてる。
あたしは。
取り残されちゃうのかな。
ため息が出た。
「しあわせが逃げちゃうぞ」
鏡に映る冴えない顔を見ながら呟いた。
パンパン!
両手で頬を叩く。
今は、部活に集中しよう。あと5ヶ月。投資で今の残高を増やす。
そうだ、銘柄の見直しをしよう。
この間、カレンから「わからないのは買わない」と言われたサイバートラスト。
どうも気になる。
成長率に比べてPERが低い。財務も健全。事業の拡大に可能性を感じる。
先週末の株価は1,643円。手元現金は10万円もないから、何かを売らなければ、単位株も買えない。
何を売ろう。
含み益が大きいのはMマートだけど、この株はまだまだ上がると思ってる。あと半年足らずの間も。
ここで売ってしまって、この先、ぐんと上がれば後悔してしまう。
santecホールディングスは、去年、ガンガン上がって、一時は4,000円近くまであった。が、それからズルズル下がりはじめ、今は2,300円あたりをウロウロしてる。直近高値の四割以上も下がったけど、成長率に比べてPERは低いから、売る気になれない。
日経平均ダブルインバースは、このところの株高で大きく値を下げた。株価暴落時のヘッジとして保有してるけど、世界的に株価が下がっていても、日本株はようやくのコロナ明けで堅調だ。いっそ割り切って売っ払うか! 9月までに日経平均が暴落するとは考えにくいし! とも思ったが、どこかで何かが起こったときのため、と思い直した。
結局、メックを売ることにした。
本当は今ここで売る必要など全然ないんだけど、景気循環株なので、目先は世界的な景気減速の影響を受けやすい。9月までの期限付き運用なら、株価が大きく伸びる可能性が他より小さいのではと思ったのだ。
月曜日に顧問にその旨告げ、火曜日の始値2,550円で売れた。買値が2,315円だから23,500円の儲け。1月に良品計画で16万円もの損失を出しているから、税金はかからなかった。
Mマートの配当金が10,360円入ってきたのとあわせて、手元現金は353,526円になった。サイバートラスト株を200株買える。
あたしは顧問に火曜日の終値1,680円で200株を指値注文してもらった。
水曜日の始値は1,665円だったので、結局、指値より安く買うことができた。
ドラマはその日の取引終了後に起こった。
サイバートラストが2023年3月期の本決算と、2024年3月期の見込を発表したのだ。
2023年3月期決算は、営業利益や純利益がほぼ従来の見込どおりで、驚きはなかった。
が、2024年3月期の見込が従来予想より増収増益で、売上高は22%増の7,500百万円、営業利益が33%増の1,400百万円、純利益は31%増の950百万円の計画。これがサプライズになった。
2023年3月期のEPSは90円ほど。あたしの買値1,665円ならPERは18.5倍、益回りは5.4%になる。
けれど、EPSは2022年3月期に比べて37%増えた。
2024年3月期には、さらに31%増のEPS118円を見込む。PERは14.1倍、益回りは7%になる。
40%近い増益を実現し、なお30%以上の増益を見込む会社のPERが20倍を下回っている状況。
これは、市場の評価が低すぎるのではないか。
改めて四季報を見る。
上場は2021年4月。11,220円の高値からから株価は下がり続けた。高値当時のEPSでは、PERが100倍を超える。過熱した人気が正気を取り戻したため、株価もまっとうな評価水準まで下げたと言えるかもしれない。
とは言え、小型成長株であることに違いはなく、財務状況は盤石、EPSの増益率が30%なら、PER15倍以下はバーゲン価格と言えるのでは?
はたして、翌木曜日の取引は始値からストップ高となり、金曜日にもさらに上がって2,407円で引けた。
結局、わずか2日で649円も上がり、あたしの買値1665円からは742円も上がった。購入後わずか2日で44%もの値上がりするなど、あたし史上初のこと。
するする上がった株価をスマホで見ながら、とても不思議な気がした。それでも今期末の見込EPSではPER20倍ほど、成長率30%超と比べて割高感はない。
会社計画ではあと2年は30%もの増益を続けるそうだから、それが実現するなら、EPSは200円だ。
30%成長に見合うPERが30倍だとすれば、目先の株価はEPS200円 × PER30倍 = 6,000円を目指すことになるんだろう。
週末、日銀の植田新総裁が金融政策決定会合で、大規模緩和の維持を発表した。
これを好感して、日経平均株価は年初来高値を更新。一方で、金利の先高感が薄れたことで、銀行株は下げた。
「こーゆー動き見てると、なんかなあって思いません?」と、パソコンの前で頬杖ついたひろこが、くりんくりんの髪を揺らしながら言った。
「数パーセントの値動き追いかける人たちからすれば、見逃せないネタなんでしょ」と、カレン。
「数パーセント儲けてどうするんだろ」
「数パーセントでも、年利に換算すりゃとんでもないから」
「そう考えると、短期トレードには短期トレードなりの意味があるんですよね。そっちのほうがさっさと儲けられるのかな」
「儲けられるかもだけど、ずっと市場の動き見てなきゃいけないから、けっこう大変だと思う」
「何年か短期トレードで、しこたま儲けて、まとまったお金ができたら、長期で安定的に稼ぐってどうですか?」
「短期トレードが確実なものならねえ、それもありかもだけど」
「そんな簡単なもんじゃないよね、それで簡単に儲けられるなら、みんなやってますよね」
4月28日現在、あたしのポートフォリオ
・1357 日経平均ダブルインバース 1,000株 2021年12月8日購入 買値388円、現在306円、評価額306,000円、含み益▲82,000円、含み益率▲21.1%
・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,419円、評価額241,900円、含み益4,900円、含み益率2.1%
・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在3,075円、評価額615,000円、含み益▲124,000円、含み益率▲16.8%
・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,349円、評価額1,349,000円、含み益496,000円、含み益率58.1%
・4498 サイバートラスト 200株 2023年4月26日購入 買値1,665円、現在2,407円、評価額481,400円、含み益148,400円、含み益率44.6%
・6777 santecHD 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,314円、評価額231,400円、含み益109,400円、含み益率89.7%
・7808 シー・エス・ランバー 100株 2022年4月18日購入 買値3,470円、現在3,200円、評価額320,000円、含み益▲27,000円、含み益率▲7.8%
・現金 20,526円
・評価額計 3,565,226円、含み益565,226円 含み益率18.8%
銘柄の見直しがうまくいった。嬉しい。