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投資少女  作者: 雨後虹晴
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最終学年になった

 ワールドベースボールクラシックの余韻が続く中、カレンとあたしは三年生になった。

「早くね? ついこの間、受験終わったばっかって思ってたのに」

 土曜日の部室で、くりんくりんの髪を揺らして、ひろこがメガネくんに話しかけてる。

「あと二年しかないんだよなあ」

「ぼやぼやしてたら、高校終わっちゃうね」

「ずっとぼやぼやしたいんだけどなあ」

 いいじゃん、あんたたちにはまだ二年も時間あるんだから。あたしたちはもう一年しかない。んでもって、もうぼやぼやもしてられない。

 ・・・してるかも、だけど。


 東証がPBR1倍を下回る企業に、株価水準を引き上げるための具体策を開示・実行するよう要請した。

 この話、前にも出てたけど、そのときは「方針」で、今度は「実行」ということだ。

「トヨタ自動車でさえPBR1倍ないんだ」

 ひろこがふーんと言いながらスマホを見ている。

 トヨタに限らない。

 三菱UFJフィナンシャルグループ、ソフトバンクグループ、三菱商事、キヤノン、JR東海、日本製鉄、パナソニックホールディングス・・・

 日本を代表する企業でもPBR1倍をクリアしていない企業は少なくない。

 銀行株などクリアしている企業を探す方が難しいほどだ。


「おさらいすると」

 PBRを分解すれば、PER × ROEになる。

 PERは企業の人気を示す指標だから、企業がコントロールできるものではない。

 となれば、ROE(自己資本利益率)を増やすことが企業の目指す具体策の骨子になる。

 ROEは、当期純利益 ÷ 自己資本だから、純利益を増やすか、自己資本を減らすことで増やすことができる。


 純利益を増やすには?

 単純に業績を伸ばせばいいわけだけど、それが市場から評価を受けるほど伸ばせるのなら苦労はない。

 比較的簡単な方法は、資産の売却だ。

「家の中を考えてみればわかりやすいかもね」とカレン。

 使わなくなった服やバッグなど、タンスの中にしまい込まれたものを持っていても仕方ないけど、売ればなにがしかのお金になる。中にはびっくりするようなプレミアの付くものもあるかもしれない。それで整理できれば、家の中もずいぶんスッキリするだろう。余計なものを置いていたスペースも空く。

 会社に置き換えてみれば。

「なあにも使ってない空き地とか、錆びついた線路とか、あったりするけど、例えばああいうもの?」

「そういうものもあるかもしれませんけど、例えば都心の一等地にある本社などもそうかもしれませんね」

「一等地にある本社?」

「ええ、別に一等地になくても構わないのなら、もっと地価の安いところに移れば、売却益を生み出すことができますね」


 自己資本を減らすには?

 だぶついた資産があるなら、それを株主に還元すること。具体的には、配当金を増やす、自社株を購入する、が考えられる。

「自社株買いがどうして株主還元になるの?」

 ひろこが素直な質問。

「発行株数が減るからです」

「?」

「EPSは一株当たりの純利益のこと。仮に1億円の純利益があったとして、発行株数が100万株なら、EPSは100円ですが、自社株を半分買って50万株にすればEPSはいくらになります?」

「えーと、100,000,000 ÷ 500,000 = 200円?」

「そう、業績を伸ばして純利益を増やすのと同じことになるので、自社株買いは株主還元になると考えられます」


「理屈はわかるんだけど、じゃあ、投資対象としてどれ選ぶ? ってなると、むずかしいわね、PBR1倍未満の会社って」

 カレンがため息をついた。

「トヨタ自動車が対策打ちましたって言っても、景気循環株だから、そのときの景気次第で株価は上下するし、資源高とか、EVへの移行とか、為替とか、株価の変動要因なんていくらでもあるじゃない? 仮に選ぶにしても、そこだけ焦点当てられるような株って、そうそうあるのかなって気がする」

「春の四季報でいいとこあった?」

「PBR1倍未満で?」

「そこにこだわらなくてもいいけど」

「セラはどうなの?」

「あたしは・・・」


 ・2480 システム・ロケーション

 自動車金融・販売の支援システムの会社。増収増益基調だし、営業利益率が2022年3月期で42%ある。現金同等物1,977百万円は年間売上高を超えている。有利子負債はなく、M&Aに意欲的とのことだから、今後の成長が期待できる。株価はここしばらく特に動きはない。

「まだ数字をさらっただけなんだけどね」


「他は?」

 ・2883 大冷

 業務用冷凍食品の卸販売会社。外食・学校給食向けが想定超える伸びとかで、コロナで落ち込んだ売上・営業利益とも改善している。株価はここしばらく特に動きはない。

「冷凍食品はSDGsの観点からも、人手不足の観点からも、まだまだ伸びると思う」


 ・6777 santec

 あたしの持ち株。光通信用部品と光測定器の二本柱。

 増収増益が加速している。しかも営業利益率が伸びている。株価は去年3,960円まで上がった後、調整し、今は2,520円。直近高値から3割以上下がっている。PERは10倍ほどに過ぎない。

「3年前に比べてEPSは3.5倍になるのに、株価はせいぜい2倍程度だから、まだ上がる余地はあると思う」


「カレンは?」

 ・3661 エムアップホールディングス

 ファンサイトや電子チケットの会社。

「santecと一緒よ。直近高値から4割ほど下がってるけど、調整が過ぎてるかなって思って」

 コロナ収束でコンサートが復活すると、この会社の出番は増えるはず。


 3月31日現在、あたしのポートフォリオ

 ・1357 日経平均ダブルインバース 1,000株 2021年12月8日購入 買値388円、現在325円、評価額325,000円、含み益▲63,000円

 ・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,500円、評価額250,000円、含み益13,000円

 ・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在3,105円、評価額621,000円、含み益▲118,000円

 ・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,280円、評価額1,280,000円、含み益427,000円

 ・4971 メック 100株 2022年10月20日購入 買値2,315円、現在2,561円、評価額256,100円、含み益24,600円

 ・6777 santec 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,520円、評価額252,000円、含み益130,000円

 ・7808 シー・エス・ランバー 100株 2022年4月18日購入 買値3,470円、現在2,968円、評価額296,800円、含み益▲50,200円

 ・現金 88,166円

 ・評価額計 3,369,066円、含み益369,066円 含み益率12.3%


 新年度、あたしの部活もあと半年。ダブルインバは下がりっぱなし。下がったときのヘッジ目的だったけど、なかなかね、思うようにゆかないわ。

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