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投資少女  作者: 雨後虹晴
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銀行破綻 米国発

「なんなの、これえ?」

 ひろこが騒いでいる。彼女の持ち株のひとつ、三井住友フィナンシャルグループが急落した。

 6,000円を超えてた株価が5,000円を一時割るほどの急落だった。


 きっかけは、アメリカのシリコンバレーバンク経営破綻。時を置かず、シグネチャーバンクも破綻した。

 これを受けて、アメリカの株式市場はもとより、世界中の株価が急落。特に銀行など金融機関の下げがきつかった。ヨーロッパではクレディ・スイス・グループの株価が暴落し、スイスの当局が支援するとコメントするなど、金融不安の火消しに躍起になってるという感じだった。


「長期金利も下がっちゃうんだ」

 物価が上がれば金利も上がる。アメリカの銀行破綻がために物価が下がったわけでもないのに、なんで?

「複雑ですよね」

 顧問は笑う。

「アメリカはもう物価が下がってるの?」

「て、話はまだ聞こえてきませんね」

「インフレを抑えたくて、パウエルさんは一生懸命に利上げしてるんですよね。国が利上げしてるのに、なんで金利が下がるの?」

「安全資産に資金が流れたからです」

 安全資産?

「銀行破綻で株価が下がったでしょう。株式から逃げた資金が国債に集まった。国債が買われれば、金利は下がります」

 なんだか複雑だなあ。

「これまで金利が上がることを前提にポジションを組んできたところは、損失回避のために反対売買をせざるを得なかったでしょうから、そうした動きも金利低下に寄与したってことになるんでしょうね」

「むずかしいですね」

 顧問は笑った。

「世の中、なにが起こるのか分かりませんからね。絶対というものはないんだと理解していればいいと思います」

 インフレ沈静化のためには、利上げを進めなければならない。のに、金融不安で株式市場が不安定になると、安全資産を求めて国債に資金が流れて、国債価格が上がる。国債価格が上がると、その利率が下がる。金利が下がれば、経済は緩和されるから、物価高騰の歯止めにはならない。

 でも、日本は黒田日銀総裁がずっと緩和緩和で来たから、長期金利がここで下がったとて、大きな影響が出るとも思えない。

「今から住宅ローンを組もうという人にとっては朗報でしょうけどね」


 3月17日現在、あたしのポートフォリオ

 ・1357 日経平均ダブルインバース 1,000株 2021年12月8日購入 買値388円、現在350円、評価額350,000円、含み益▲38,000円

 ・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,541円、評価額254,100円、含み益17,100円

 ・3695 GMOリサーチ 200株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在2,976円、評価額595,200円、含み益▲143,800円

 ・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,510円、評価額1,510,000円、含み益657,000円

 ・4971 メック 100株 2022年10月20日購入 買値2,315円、現在2,487円、評価額248,700円、含み益17,200円

 ・6777 santec 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,635円、評価額263,500円、含み益141,500円

 ・7808 シー・エス・ランバー 100株 2022年4月18日購入 買値3,470円、現在2,962円、評価額296,200円、含み益▲50,800円

 ・現金 79,469円

 ・評価額計 3,568,169円、含み益568,169円 含み益率18.9%


 金融不安に動揺した市場ではあったが、あたしの持ち株は、全体として変わりはなかった。前期決算を発表したMマートが好感されて値を飛ばしたことが大きな理由だった。

 Mマートは営業利益率が前同期の34%から43%に大幅に伸びた。EPSは48円で前々期から2倍になっている。会社計画では、今期57円にする。20%近い増益になる。PER27倍は少し高めだけど、株価はまだ上がりそうだ。


 意外な動きは、GMOリサーチ。

 このところ、ずっと下がり続けてる。とうとう3,000円を割った。

 けれど、増収増益基調に変わりはなく、4%近い利回り、25%以上の営業増益に対して13倍程度のPERはあまりに安く見える。


「せっかく大儲けできると思ったのに」

 ひろこが愛らしい頬を膨らませている。

「大儲け?」

「何倍にもなるって思ってたのに、こんなに下がったら、もうダメですね」

 ああ、銀行株、三井住友フィナンシャルグループのこと?

 美少女は期待はずれかもしれないけど、あたしは「気にすることないんじゃね」と口にしていた。

「どーしてですか?」

「どうして? 別に買値を下回ったわけじゃないんでしょう」

「そりゃそーですけど」

「配当金だって5%も出るんでしょう」

「そーなんです。だから売るに売れないし」

「だったら持ってれば」

「でも、もっと下がったりしません?」

「それ心配しても始まらないよ」


 株価は目先ではいろんな動きをしてくれる。先々の利上げを見込んで上がった銀行株が、アメリカの銀行破綻をきっかけに、金利も下がり、株価も下がった。けれど、長い目で見るとどうか。

 インフレが進めば、金利は上がる。金利が上がれば、銀行経営にはプラスだ。景気減速が利上げの時期を遅らせる可能性はあるにせよ、日本の場合、そもそもこれ以上ないほどに金利が下がっている。となれば、いつかはともかく、いずれ金利は上がるだろう。となれば、銀行株はどうなるか。というふうに考える自分がいる。

 ジタバタしてもはじまらない。プロだって、すべてを見通してるわけじゃない。見誤ることや見当違いが起こることは仕方ない。目先の動きに惑わされて、慌てて売ったり買ったりすることだけはするまい。そう肝を据えていることが一番大切なことじゃないかな。

 あたしは、なんとなく、そう感じていた。


 一年生の二人が緑色の四季報を買ってきた。

「コロナ脱し再成長の日本企業」

 と表紙に書かれてる。

 そうなるのか、はたまた世界不況に巻き込まれて、再成長が不発に終わるのか、それはわからない。

 でも、いくつかの事実はある。この春、大手企業は賃上げをする。脱コロナでインバウンド観光客は増えている。そして、季節は巡る。

 いつの間にか、淡いピンクが街を彩るようになった。寒い寒い冬が終わった。ワールドベースボールクラシックで盛り上がる中、甲子園ではセンバツが始まった。


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