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投資少女  作者: 雨後虹晴
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先輩の卒業式

 俄かに野球が盛り上がってきた。

 ワールド・ベースボール・クラシック。

 今回で5回目になる。

 去年はサッカーのワールドカップで大盛り上がりだった。今年は野球。

 今度の大会は、メジャーリーグのトップ選手が集結する。ダルビッシュ有、大谷翔平。

 特に大谷は二刀流で世界の注目を集め、今、間違いなく世界最高の野球選手と言っていい。どころか、過去に遡っても、これほどまでの選手はいなかった。それが日本代表の一員として参加するため、日本に帰ってきた。

 あたしの高校二年最後の月は、WBC一色になるはずだ。


「良品計画を売ったお金をどうしますか」

 顧問からの質問。

 どうしよう。

「売ったのは、他の投資先に乗り換えるため、でしたよね」

 そうなんだけど。

「もう半年ほどしかないから、早く決めたほうがいいです」

 ですよね。

 あと、半年、か。

「高校に入ったばかりって思ってたのに、もう二年経つんだね」

「ねえ」とカレンも言った。


 3月1日にはマリノさんとエリナさんの卒業式があった。

「制服着るのも、今日で最後なのね」

 エリナさんはしんみりした顔をした。なんてことないありふれた制服だけど、もう着ることもないと思えば、あたしもいとおしく感じるのかな。

「でも、よかったですよね、入試」

「うん、もー、あたしが一番驚いてる」

 エリナさんはけっこう名の知れた私立大学に合格していた。

「試しに受けたら、受かっちゃった」

 うちの高校からその大学に合格するなんて、なかなかレアだから、合格通知があったとき、顧問も「え? ホントに?」と目を丸くしていた。

「今年は枠が広くなったみたいだ」

 とは、担任から耳にした。去年までなら、とても受からない成績でも合格者が明らかに増えているらしい。どうあれ、入ってしまえば、こっちのものだからな、大学を目指してみないか。頑張れば、そこそこいい大学も夢じゃないぞとも言われた。

「国立の発表はいつ?」

 エリナさんがマリノさんに聞く。

「7日」

 国立に合格すれば、うちの学校では何年ぶりかの話になる。

「どうせなら、北海道とか沖縄にしてくれたらよかったのに」とあたしが言うと

「セラが行けばいいじゃない」とマリノさん。

「えー、そんなアタマあるわけないじゃないですかあ」

 なあんて話をしていたけれど、あと一年経てば、進路も決まってるわけで。でも、自分ではまだ何も決まってなくて。ていうか、どうするのか、どうしたいのかさえ、わかっていなくって。時間ばかりがどんどん過ぎてゆく。あたし、まだしばらくは今のままでいいんだけどな。


 株はどうする?

 なんだか変なプレッシャーを勝手に感じて、あたしは「GMOリサーチ、買い増します」と口走っていた。

「押し目買い?」

「そうです」

 顧問は「わかった」とだけ言って、買い注文を入れた。

 あれ? なんでとか、理由聞かないの?


 ・3695 GMOリサーチは増収増益を続けていて、配当も増やしている。これからの見通しは明るいと思って買った。去年の夏のことだ。

 ところが。

 4,330円で買った株は下がり続け、今や3,000円そこそこといったところ。4分の1以上下がったことになる。今期のEPSは230円ほどの予想で、PERは13倍程度になる。営業利益は28%増を見込んでいるから、PER13倍は安いと思う。

 将来的な懸念があるなら、AIが進化して、コンサルまでやってくれるようになること。この会社を頼らずとも、AIがやってくれる時代になれば、役割がなくなってしまう。でも、普通に考えれば、この会社がAIを使ってサービスを充実させることになると思われる。

 結局、3月2日に3,060円で100株追加購入した。


 この会社、配当金をEPSの半分も出してくれる。高配当は株主にとって嬉しいことではあるものの、これから大きく成長を期待されるこの会社の場合、利益を還元するより業容拡大への投資に振り向けてほしいと思わなくもない。そのあたり、株価が伸び悩む理由のひとつではないかと思ったりする。

 同じ話はあたしの持ち株、プレミアムウォーターホールディングスにも言える。昨年度から配当金を出すようになった。配当を出せる会社になったことは喜ばしい一方で、販管費をまだまだ多く使って成長する段階の会社が、還元に回すのはどうなんだろう。あたしとしては、もっと成長への投資に資金を振り向けてくれた方が嬉しいように感じる。

 とは言え、一度出した配当金をなくしたり減らしたりするのは難しい。配当による還元を求める株主だって多くいるだろう。GMOリサーチも、プレミアムウォーターホールディングスも、株式の過半を握る親会社がある。その意向もあるだろう。投資するとき、誰が大株主なのか? ということをしっかり見ておくことも必要なんだろうな。ぼんやりとながら、そんなことも感じた。


「投信積立 ペース倍増」

 ひなまつりの日、日経新聞の一面はこれだった。

 ネット証券5社で投信を積立購入する額が、この一年半で倍増したという。投資する若年層が増えているのだとか。積立対象は海外株投信が主で、アメリカS&P500種株価指数連動型や世界株指数連動型が多いらしい。

 日本の個別株を対象にやってるあたしたちとは方向性は異なるけど、これからは投資することがありふれた時代になるのかもと思う。

 てことからすれば、あたしたちは最先端を行ってる?

「しっかり利益が出てればねえ」とカレンは笑った。

 それなー。


 アメリカS&P500種株価指数は、アメリカの大型株の指数だ。日本で言えば、日経平均みたいなもの。安定的な成長が期待できるから、長期積立で投資するにはもってこいと考えられる。

 世界株指数になると、新興国含めて世界全ての市場に投資することになるから、インドや東南アジアなど急成長する市場も取り込むことができる。とは言え、その多くはアメリカだから、アメリカ市場の動向に左右されることに違いないけれど。


「積立投資は堅実だから、社会人になれば、貯金感覚で毎月一定額を積み立てるべきだと思います」

 顧問もそう言う。

 何より、毎月決まった額を投資すれば済むので、銘柄選定に時間を使わなくていい。

 簡単と言えば簡単、

 退屈と言えば退屈

 な投資法だけれど、株価指数に基づく投信なら、市場平均は確実に取れる。

 しかも、数あるアクティブ型投信のほとんどは、中長期的に見て市場平均を上回ることはないことから、最も確実な投資法であるとも言える。


 退屈な投資法をもう少し面白くするには、毎月一定額を積み立てるのではなく、下がったときには追加で買い増すといい。

 資本主義は経済成長を前提に動いているから、中長期的には上がってゆく。けれど、短期的には下がることもある。そこで余分に買っておけば、いずれ元に戻り、さらに上がるのだから、買値の平均値を下げることができる。


 もっと面白くしたいなら、市場が過熱してきたと思えば、一部を売って利益を確定する。上がりすぎたものは下がらざるを得ない。そこで売っておけば、下がったところで買い増す軍資金を増やすことにもなる。

 じゃあ、市場の動向を何で判断するの?

 それはやっぱり株価を作る方程式に頼る他ないだろう。


 PER × EPS


 個別株同様に、市場全体を一つの会社と考えたとき、想定されるEPSはいくらになると思われるのか、それに対してPERはどの程度なのかを見れば、成長率との比較でPERが高いのか低いのかが見えてくる。

 ・・・と、顧問は言った。

「でも、そこまで手を入れるのなら、個別株を見る方がもっと面白いでしょうけど」


 3月3日現在、あたしのポートフォリオ

 ・1357 日経平均ダブルインバース 1,000株 2021年12月8日購入 買値388円、現在337円、評価額337,000円、含み益▲51,000円

 ・2588 プレミアムウォーターホールディングス 100株 2022年5月2日購入 買値2,370円、現在2,503円、評価額250,300円、含み益13,600円

 ・3695 GMOリサーチ 100株 2022年8月3日等購入 買値3,695円、現在3,100円、評価額620,000円、含み益▲119,000円

 ・4380 Mマート 1,000株 2022年4月18日等購入 買値853円、現在1,498円、評価額1,498,000円、含み益645,000円

 ・4971 メック 100株 2022年10月20日購入 買値2,315円、現在2,367円、評価額236,700円、含み益5,200円

 ・6777 santec 100株 2022年5月2日購入 買値1,220円、現在2,575円、評価額257,500円、含み益135,500円

 ・7808 シー・エス・ランバー 100株 2022年4月18日購入 買値3,470円、現在2,900円、評価額290,000円、含み益▲57,000円

 ・現金 77,476円

 ・評価額計 3,567,276円、含み益567,276円 含み益率18.9%


 Mマートが上がった。

 先月初めは1,200円辺りをウロウロしていたのが、先月半ば頃から上がりはじめ、今月になってグンと伸びた。

 下がったところを徐々に買い増したから、あたしの中では最大の投資額の会社になる。それがこんなに上がってくれると、含み益も株価にあわせて激増だ。PERは30倍を超えた。そろそろ決算発表されるけど、目先の数字よりも、その先だ。


 この会社、そもそもは個別銘柄の議論を始めたときに、カレンが出してきた銘柄だ。

「Mマートがすごいことになってきたよね」と話を振ると

「これからでしょう」とカレン。

「時価総額がまだ100億円にもなってない。これからインバウンド観光客が戻ってくれば、流通も増えて、ここの売上も増えると思う」

「でも、インフレで不況になったら?」

「在庫抱えてる会社は処分したいだろうから、却ってこの会社のサービス使おうとするんじゃないかしら」

 なるほど。

「もうすぐ決算が発表されるから、なに書いてるか、よく見なきゃいけないけどね」



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