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【6:正真正銘の現役女子高生?】

***


 すみれが『あつまれみんなの森』というゲームをするのを、俺は彼女の後ろでただ黙々と眺めていた。


 時折レアなアイテムをゲットして「よっしゃ」とつぶやくすみれ。

 逆になにか失敗して「あ~あ」と肩を落とすすみれ。


 ゲームの進捗と共に彼女のリアクションを見ていたら、意外と飽きずにいれた。


 気がついたらもう十時ちょい前だ。


「なあすみれ。そろそろ終われよ」

「ん……もうちょっと」


 振り向きもせずに、一心不乱にコントローラーを操作してやがる。それこそ、なかなかゲームをやめない子供みたいだ。


「もうちょっとっていつだよ」

「だからもうちょっと」


 ──はぁっ。


 ため息が出た。

 だけどもう怒りは通り過ぎて、声を荒げる気にもならない。


「なあすみれ。もうすぐ十時だぞ。お前高校生なんだろ? だったらこんな時間まで出歩くなよ。まあホントに高校生なのか怪しいけどな」

「正真正銘の現役女子高生だし」


 すみれは背中で答える。


「口だけなら俺でも言える。俺は現役女子高生です!」


 まあ、俺が女子高生だと言ったところで、当然誰も信用しやしないが。


「じゃあ今度、制服着て来るよ」

「それだって昔のを着て来るって方法が……って言うか、お前また来るつもりかぁ!?」


 すみれは俺の質問には答えずに、肩をすくめて「はぁっ」とため息をついた。


「ホントにもうすぐ帰るから。十時過ぎてちょっとしたら帰る」

「ん……そうか。わかった。約束は守れよ。そしてもう来るな」


 やっと帰る気になってくれたか。

 何時間もゲームをしてるんだ。いい加減コイツも疲れたのかもしれない。


 でも俺も疲れた。簡単に済んだとは言え、今日は引っ越しもしたんだ。

 ボーっとゲームを眺めてて、眠くもなってきた。このまますみれのゲームを眺めてたら、寝落ちしてしまいそうだ。


 コイツが終わるのを待ってられない。さっさとシャワーでも浴びるか。


「なあすみれ。俺はシャワー浴びてくるぞ」

「うんいいよ。ごゆっくり」


 はあ?

 なんか今、コイツに許可をもらった感じ?

 コイツが家主で、俺が居候かよ?

 やっぱちょっとムカつく。

 からかってやろう。


「すみれも一緒に入るか?」


 彼女はゲームの手を止めて、ゆっくりと振り返った。

 うわ、何これ。すっごいジト目。


「一緒に入ってほしいの? エロおやじ、キモっ! まあ別にいいけど」

「嘘に決まってんだろ、バカ」


 キモいのにいいのかよ!

 いったいどっちなんだ?

 どっちにしても、こんなガキの裸なんて1ミリも見たいと思わないけどな。


 ──あ、いや。


 見たいって気持ちも5ミリくらいはあるかな。胸デカいし。


 いやいやいや!

 待て待て、落ち着けよ俺。


 そんなことが頭をよぎったから、ついすみれの胸に目が行ってしまった。白いティーシャツを押し上げる豊かなふくらみ。


 ヤバ。

 俺は目をそらして立ち上がる。


 すみれは俺の視線に気づかなかったのか、何も言わずにまたゲームをやり始めた。

 俺は立ち上がり、クローゼットを開けて、段ボール箱からタオル類を取り出す。


 ──あ。


 着替えも持って行かなきゃな。

 いつもなら風呂上がりは、裸で部屋まで出てくる。だけどすみれが居るから、脱衣所でちゃんと服を着て出てこなきゃならない。


 ああ、メンドくせっ。

 なんで一人暮らしなのに、こんな気を使わなきゃいけないんだよ。くそガキめ。腹立つ。


 そうは思うものの、もう少しの辛抱だ。

 俺は自分にそう言い聞かせて、風呂場に向かった。



***


 シャワーを浴びて、ちゃんと部屋着を着て、洋室に戻った。


「あれ?」


 そこにはすみれの姿はなかった。テレビとゲーム機の電源も落としてある。ゲーム機は置いたままだけど、ソフトは抜き取ってあった。


 ふと見ると、丸テーブルの上に小さなメモと部屋の鍵が置いてある。


『ありがと。ごちそうさまでした』


 可愛い女の子の字だ。

 鍵は俺の部屋のモノ。

 案外律儀なヤツだな。


 そっか。やっと帰ったか。

 ホント、嵐が去ったようだ。

 はあ、やれやれ。ホッとしたよ。


 鍵も返してもらったし、もう勝手に部屋に入ることはできない。きっとアイツも、もう二度と来る気はないんだろう。


 あの変なヤツと顔を合わすことももうあるまい。


 ──良かった。ホントに良かったよ。


 部屋の中は急にシンと静まり返っている。


 すみれが座っていた場所に目を向けた。

 まるでまだそこに体温が残ってるんじゃないかって気がするくらい、彼女の後ろ姿が鮮明に俺の脳裏に焼き付いていた。

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