【21:私を襲うつもり!?──って疑われた】
***
しばらくすみれの寝顔を眺めていたら、また寝返りを打った。
さっき掛けてあげた毛布がはだける。
仕方ない。また毛布を掛け直してやるか。
子供みたいだな。
そう思ってすみれに近づき、両手で毛布を持ち上げた。
なんだかふんわりといい香りがする。
香水でもつけてるのかな。
その時すみれが、突然ぱちりと目を開いた。
──うわ。
仰向けに寝転んだままのすみれと、それを覗き込むような態勢の俺。
至近距離で目が合って、ドキッとした。
すみれも目をぱちくりしてる。
そしてガバっと上半身を起こした。
俺は慌てて身体を引く。
「は、春馬さん! 私を襲うつもり!?」
ヤバい。眠っていたすみれに覆いかぶさるようにしてたから、確かに襲いかかろうとしてるように見える。
「いや、待て。そんなことはない!」
なぜかすみれは、スカートの上から腰のあたりを両手で確かめるように触った。
そして淡々とつぶやく。
「よかった。穿いてる」
──いや、そこかよ!
「こらこら! 勝手にパンツを脱がすわけなかろう!」
「襲うつもりだったんでしょ?」
「そんなつもりはない!誤解だっ! 俺は毛布をかけようとしただけだ!」
「だって春馬さん『襲ってやる』って言ってた気がする」
なにを勝手な作り話をしとるんだよコイツ。
「言ってない! 断じて言ってない! ほら、こうやって毛布を握ってるだろ?」
毛布を持った両手を、すみれの目の前に出した。
そして毛布をひらひらと揺らして無実をアピールする。
闘牛士かよ俺は?
で、すみれは牛か?
いや、そんなことはどうでもいいんだけど。
すみれはまだ、疑わしげなジト目を向けてる。
「ふーん……まあそういうことにしとこ」
「俺、どんだけ信用ないんだよっ!」
「ううん、ちゃんと春馬さんを信用してるよ。きっとエロいことする人なんだって」
こら待て。
それは信用してるとは言わん。
「いや、いつ俺がエロいことをしたよ? 俺はそう勘違いされないようにめちゃくちゃ気をつけてるし、すみれには身の危険を感じさせないようにって、いつも細心の注意をだな……」
必死な俺を見て、すみれはプッと吹き出した。
「冗談だよ春馬さん。なに熱弁してんの?」
「え?」
しまった。つい激マジなリアクションしてしまった。
「ふぅーん、そうなんだ」
「そうなんだって、何がだよ」
すみれのヤツ、ニヤニヤしてる。
「そんなにあたしを気遣ってくれてたんだ」
「いや、あの、えっと……」
ああっ、くそっ。
つい口を滑らせてしまった。
「そ、そうだよ。女子高生を一人暮らしの部屋に入れるんだから、それくらい当然の心遣いだ」
「ふぅーん……」
なんだよ、じっと見やがって。
まだ疑ってるのか?
──って思ってたら。
突然すみれは目を細めた。
「春馬さん。ありがと」
「あっ……いや……」
すみれはすっごく穏やかな顔でそう言った。
どうした?
素直すぎてちょっと怖い。
また俺、からかわれてるのか?
「ど、どういたしまして」
「ふふっ……春馬さん……」
「なんだよ? まだなにかあるのか?」
「春馬さんがそう思ってくれてるの、前からわかってるよ。だからあたしも安心して、ここに来てるんだし」
──あ。
そっか。それはすみれも感じてくれてたんだ。
だから一人暮らしの男の部屋に平気で来てるのか。
「春馬さんって優しいね。毛布もかけてくれたし」
「は? 大人として当たり前のことだ」
「そっか。そんな春馬さん……好きだよ」
「え?」
ふざけたような顔ではなく。
いつものような拗ねたような感じでもなく。
すみれは、ただただ素直にそう言った──ような気がした。
「あっ、いや……す、すみれっ! お、お、お、大人をからかうな!」
「あはは、春馬さんどうしたの? 顏真っ赤」
「ばっ、バカ! お前がそんなからかうようなことを言うからだ!」
「からかってなんかないよ。春馬さん優しいから、人として好きだよって思ってる」
「は? ひ……人として?」
「うん、そうだよ。なにか勘違いしたのかな? 春馬さんはエロおやじだから」
──くっ……やられた。
「勘違いなんかしてないし。なに言ってんだよ、くそガキなくせに」
「ふぅ~ん。くそガキね……」
「ああ、そうだよ。くそガキだ。それ以上でも以下でもない」
「あっそ。そんなくそガキに告られたって勘違いして真っ赤に…………まあいっか。なんでもない。ふふふ」
「ふふふってなんだよ。すみれこそ勘違いしてるぞ」
「ふふふは、ふふふだよ。それ以上でも以下でもない」
すみれはニヤと笑って、さらに意地悪な顔をした。
「そうだよ。あたしは勘違いしてるぞ。春馬さんは実は……うふふ」
くそっ、なんだよ、その楽しそうな顏は。
「勘違いすんな。俺はくそガキ相手に照れてなんかない。そんなことはどうでもいいから、ほら、コーヒー飲めよ」
「え?」
「あ、ちょっと冷めたか?」
すみれはテーブルの上のコーヒーカップを手にして「ん、大丈夫」と言った。
そして両手で包み込むようにカップを持って、ズズっとすする。
「ん……おいし」
手が半分隠れるような長袖Tシャツのすみれのそんな姿は──可愛いかった。
「ほら春馬さん。見とれないの」
「バカ。誰も見とれてねぇっつうの」
「はいはい。そういうことにしとこ」
っていうか、俺ヤバくないか?
今日は何度も、すみれが可愛く見えてしまってる。
まあでも──
すみれがここに来始めた時は、いつも拗ねたような、無気力な顔をしてた。
心から楽しそうに笑うなんて全然なかった。
それを考えたら、こういう笑顔を見せるっていうことは──まあ俺も、ちょっとはコイツの役に立ってるって考えていいのかな。
そう思うと、少し心が安らぐ気がした。
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