Sinse2021-9
賑わう構内。
帽子を目深に被り、だて眼鏡で俯く。
たったこれだけで、根っから陰気な僕は完全に背景の一部だ。
誰も僕を認識しない。
胸を張れる唯一の特技でもある。
前の二人は、後ろをチラチラと確認しながら階段を下りて行く。
何も言わないが、僕に合わせてくれているのだろう。
僕の歩く速度は、成人男性の半分以下だ。
よく“鉛のように重い”なんて言うが、比喩ではなく、本当に見えない重りでもぶら下がっているんじゃないかという程、歩が進まないのだ。
そんな足を眺めながら一段、また一段と階段を下る。
最後の一段になり、ふと顔を上げると、駅構内とは思えない荘厳なステンドグラスが一面に広がった。
野上さんが僕に振り返る。
「こんなに大きなステンドグラス、珍しいでしょう?」
「そう…ですね。」
「この街のシンボルでしてね、若い子達は皆この前で待ち合わせするんですよ。」
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「ねぇ、吉沢くん。ほら、早くこれ持って。そこ赤だよ赤ね?」
「いいよ、何色でも。」
「良くない良くない。」
「ん?ここが赤?」
「あっ!ちょ、待ってそこ緑!!」
「どんまい。入れちゃったよ。」
「あー…。もう嫌この人。ほんと人の言うこと聞かないんだから!」
「そんな怒んないでよ。怒ると可愛くないよ?」
「可愛くなくて結構。ほら、次は青。ここ!ここだからね!ここ!ここ!!」
「ふふふふふ。はいはい。」
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ふと懐かしい情景が胸をよぎった。
「僕も昔、卒業制作で作った事があって。」
「卒業制作でステンドグラスは珍しいな。」
寳井さんも僕を振り返る。




