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ーーーーーーーコンコンコン
静かな病室にこだまする入室確認音。
振り返れば少し驚いた顔の菜々子さんが、花を抱えて立っていた。
「久しぶり、健くん。来てくれてありがとう。」
20数年後の君を思わせる綺麗な顔で微笑まれた僕は、いたたまれなくなった顔に気付かれぬ様、ペコリと無言で頭を下げた。
菜々子さんはベッドを挟んだ僕と反対側に周り、「おはよう」と彼女の頭を撫でると、慣れた手付きでキャビネットの花瓶を持ち、
花の生け替えを始める。
「お仕事忙しいのに、わざわざ時間作ってくれてるんでしょう?本当テレビを見るたび健くんだらけだもの。」
「いえ、そんな大袈裟です。」
「ふふっ。本当に健くんは昔から謙遜ばかりね。この間の連ドラもCMも、私が読んでる雑誌の表紙まで健くんだったわ!私もどこか複雑なのよ?健くんはうちの子同然だもの、嬉しいやら寂しいやら‥」
「ふふふっ、僕こそ菜々子さんにそう言っていただけて光栄です。」
「あら!もう、この笑顔に世の女達は射ぬかれるのね~怖いわ~ふふふっ。そう!それより!相変わらず不規則な生活なんでしょうけど、ちゃんと眠れているの?」
「今は一応、はい。まだ薬無しでは難しいですけど。」
「‥‥‥そう。お仕事もたくさんで嬉しい悲鳴なんでしょうけど体が資本なんだから、倒れたらもともこもないんだからね?」
「‥‥はい。わかってはいるつもりなんですけど。なんていうか‥‥日々忙しくしていないと、ずっと舞香のことばかり考えてしまって‥‥。そんな姿見せたら目覚めた瞬間、怒涛の勢いで絞められそうですけど。」
そう言って僕が笑い返すと、菜々子さんの花をパチンパチンと切る音が止まった。
不思議に思った僕は小首を傾げ、顔を覗きこむ。
「菜々子さん?」
菜々子さんは唇を噛み締め、言葉では何とも言い表わせない表情で僕を見つめている。
少しの奇妙な沈黙が部屋を包んだ。




