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群青と灰色のサピエンティア  作者: Sy
槍の王 第2部
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第3章 大天使の眷属

『黙示録の12、太陽を羽織り、足の下に月を踏む女よ。我が名は『神の言葉』。12の星の冠を被り、緋い龍の翼を引き裂け。』


するとアキレスが胸の上で描いた十字から12本の緋い閃光が走り目標物を破壊する。その閃光は龍のように荒々しくありながら蛇のように目標物を正確に捉えていた。周りへの衝撃は最小限に抑えられており、術者により学校の敷地外へ影響が出ないように細心の注意がなされている様だ。


アキレスが魔法詠唱を終えると同級生達が騒ぎ出した。アキレスとエウロギウスがサピエンティアに入学してから1年程が過ぎた頃だった。


「おい、すげえぞあいつ。2桁の詠唱なんてあり得ねえ。」


「司祭であっても、十番代の詠唱なんてできないって聞いたぜ。」


「やべえな。さすが主席…」


アキレスは額の汗を拭いながら詠唱の再確認に余念がない。すると実技演習の講師がアキレスに話しかけた。


「眷属契約を入学前からすでに終えている生徒はあなたくらいでしたが、全く末恐ろしい…」


「はい、イアオン先生。ですが十番代となるとまだまだキツイです。黙示録の詠唱はやはりあなたから教わるのが一番です。」


「普通なら卒業までに1桁前半の詠唱の1つでもできればいい方です。それにしてもこの正確な魔力コントロール…、まさかそれぞれの後続詠唱まで完成させているのでは?黙示録の後続詠唱は召喚術と同等。同級生に追い討ちをかけてはもらいたくないものですね…。」


実技の講師であるイアオンが青い顔をして呟くが、その声色は穏やかだ。


「僕よりも優秀な子がそろそろサピエンティアに入学してくるはずですよ。それよりも先生、研究のため部屋を一つお借りできないでしょうか。」


とアキレスはゆるやかに微笑んだ。


アキレスは大天使ガブリエルとの眷属契約をすでに終え、その名、『神の言葉』を継承している。主に、天使達との眷属契約は術者により自主的に行われる。それによって認められれば、例えばガブリエルとの契約の場合、その系譜にもたらさせる『ヨハネの黙示録』の力を誰でも行使できる。だが、「誰でも」と言うのは語弊ごへいがあり、そもそも契約が拒絶される場合も多々あり、あるいは残念ながらどの天使にも認められない場合もある。


契約後、黙示録の力もそれなりの訓練を積まなければ使うことができないどころか、熾天使セラフィムの1人に数えられるガブリエルの眷属として、その力を自在に操ることのできる術者はまれであった。


伝統的に両親が将来を考え、希望する天使との契約のため、子供にその天使の名前を命名、または後に改名する場合もある。主にそうする事によって、契約の成功率を上げ、力の増大が見込めるとされていた。しかし、それにも関わらず契約が拒絶された場合のことを考え、現在ではあまり行われない。


天使の他にも、精霊や悪魔との眷属契約も可能ではあるが、サピエンティアは原則として天使との契約しか認めていない。他国では悪魔との契約を認める教育機関もあるが、聖都では異端として厳しく罰せられる。天使との眷属契約はサピエンティアを卒業するための必須項目の一つだった。


ちなみに複数の天使や精霊、もちろん悪魔との契約は事実上不可能であり、歴史上存在しない。


そのため、実技演習のクラスはアキレスを含めた少人数しか参加しておらず、サピエンティアの中でも優秀な生徒が属するクラスだった。その中でもアキレスの才能と魔力はやはり際立っていた。



——————



アキレスが魔法の実技演習を終える頃、エウロギウスはサピエンティアにあるチャペルの祭壇の前に腰掛けていた。


エウロギウスは、まだ天使との契約を終えていなかったのだ。それはおよそ半数の同級生達も同じであるが、エウロギウスの元々の血統と才があれば、アキレスの様に前もって眷属契約を済ませておくことは可能であった筈だ。


だがエウロギウスは躊躇ためらっていた。歴代の教皇達が通る試練。最強とうたわれた大天使の眷属への道。


そう、「神の化身けしん」とまで言われた熾天使セラフィムミカエルの眷属に。


その頃、サピエンティアにはミカエルの眷属は誰1人いなかった。それほどまでに希少価値の高い力なのだとエウロギウスは知っていた。


そして自分1人だけの力では恐らく契約に辿り着くことはできないであろうことも理解していた。エウロギウスはいつも自信に満ち溢れていたが、自分の力を正確に把握することにもけていたのだ。


(仕方ない。やはり、アキレスに頼むしかないか…)


だが、エウロギウスにはプライドもあった。誰かに頼ることは出来るだけ避けて来たつもりだった。だが、そう思うとエウロギウスは少しだけ笑えた。


「貴族の俺が…飛んだ傲慢な考えだな。」


エウロギウスは静かに祭壇の前に立ち上がり、チャペルを後にした。

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