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群青と灰色のサピエンティア  作者: Sy
槍の王 第2部
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第2章 尊敬の眼差し

入学して数ヶ月も過ぎた頃、エウロギウスとアキレスはすっかり打ち解け、互いに切磋琢磨し合う親しい友となっていた。


特にエウロギウスは、自分よりも優秀な男に今まで出会ったことが無かったため、アキレスとの時間は実に新鮮なものだった。体格はエウロギウスの方が大きくたくましかったが、髪や瞳の色など、容姿の特徴が似ていたため良く兄弟に間違われる様になった。


そうしているうちに、同級生達のアキレスに対しての差別意識も何処か薄れていった。実の兄弟達とは疎遠なエウロギウスにとって、アキレスの存在はとても心地の良いものだった。


だがその反面、エウロギウスは圧倒的なアキレスとの才能の差に打ちのめされてもいた。数学、物理、地理学、魔法学、召喚術等の座学だけではなく、魔法の実技もアキレスはエウロギウスよりも優れていた。つまりは誰よりも優れていたのだ。


エウロギウスがアキレスよりも秀でたところがあるとすれば、それは体格の違いからくる身体能力くらいなものだった。


それは平民という血統から生まれた者にとって非常に珍しいことでもあった。通常座学等で得られる後天的な知識は、日々の努力の積み重ねによって会得出来るもののため、どのような生まれであっても優秀な者は存在した。しかし魔力に関しては血統が大きな因子となるため、王族や貴族、もしくは稀少きしょうな民族の出身であったり、あるいは人間族以外の種族であることが前提とされるのが普通だった。


アキレスはそのどの常識も打ち破り、入学後からずっとトップの成績を全ての科目で収めていた。


はっきり言って、この事実は幼い頃から誰にも負けたことのないエウロギウスにとって自尊心を覆すには十分だった。人生で初めて味わった屈辱と言っても過言ではない。


だがエウロギウスはアキレスを妬むことをしなかった。「人を妬む」と言うことを今まで経験したことがないと言うこともあるが、それはエウロギウスがアキレスの努力を毎日近くで見てきたからである。実際、アキレスは日の出前から宿舎の部屋の机に向かって勉強を始め、休み時間も書物を開き、授業が終わると夜遅くまで座学と実技演習に励んでいた。


そもそもエウロギウスが人よりも努力している事と言えば、早朝の個別に雇っている講師からの特別トレーニングくらいであり、放課後は趣味の乗馬や社交界との付き合いに乗じ、週末はいつも王都にある繁華街へ繰り出していたので当然のことでもあるが、遊んでばかりのエウロギウスがそれでも学校内でアキレスに次いで優秀であることは、ほぼ血統を源とする才能と言う他ない。


程なくしてエウロギウスは、努力家であるアキレスの姿に、いつしか尊敬の念を抱き、この友に自身の夢を分かち合いたいと願う様になっていた。


そしてその時は、ふとした瞬間に突然訪れた。


それはアキレスが入学後、しばらく秘密にしていたサピエンティアのチャペルの上にある鐘楼しょうろうを見つけ、度々アキレスの読書の時間を邪魔していた時である。


エウロギウスが他愛もない話をしながら、半分その話を無視し読書を続けるアキレス。それが2人の昼食後の日課になりつつあった。


「珍しく君が物思いにふけっているなんて、どうかしたのかい?エウロ。」


そう尋ねながら、アキレスの視線は手に抱えた書物のページをらそうとしない。エウロギウスは少し躊躇ちゅうちょした。


「少し将来のことをな。」


「えっ、意外だな。君はてっきり家名を継ぐものだと思っていたけれど。」


アキレスはゆっくりと本を閉じ、エウロギウスへ顔を向けた。


「そもそも長子でもない。それに俺の目標はそんな小さなものでもない。」


「3大貴族の跡取りよりも大きいものなんて…」


とアキレスは謎解きを出されたかの様に手をあごに当て考え出した。アキレスのそんな姿を見ながらエウロギウスは何を迷うことがあるだろうと思い直した。もしこの夢を語り合える友がいるのだとしたら、それはアキレスに違いなかった。


「ふっ、教えてやろう。アキレス。俺の目標は教皇になることだ。」


するとアキレスは呆気に取られた様に口をあんぐり開けた。


「ふふ、驚いて声も出ないか。」


そして又してもアキレスはクスクスと笑いだすのだった。


「お前、また俺を愚弄ぐろうするつもりか!」


「ははは、ゴメンよ、エウロ。君はやっぱりすごい人だなと思ってさ。」


そう言って今度は真剣な眼差しでエウロギウスを見つめるアキレスの瞳には、明らかに尊敬の念が篭っていた。エウロギウスは、その眼差しを他の誰でもなく、目の前にいるこの男から欲していたことに気づいた。


いつか本当の意味で、この男から一目置かれることも悪くない。とエウロギウスは思うのだった。


「でも、どうして?」


とアキレスが尋ねた。将来を約束された裕福で権力のある貴族の子息が目指す様なものでは無いと示すか様に。


教皇とは本来、中央聖教会を束ねる最高位の聖職者であり、王に次ぐ権力を有していた。その立場上あらゆる正義と徳、信仰の象徴でなければならないはずが、持ち得る権力を乱用し、現状ははなはだしく理想から遠のいていた。


「貴族の退屈な暮らしが嫌いなのと、加えて金と権力に溺れた聖職者も嫌いなのさ。俺が全部(まと)めて一掃してやる。そのためにあらゆるものを利用してな。」


「あらゆるものって、金と権力?」


アキレスが悪戯っぽい顔をしながら冷やかす。


「そうだ。そして俺が教皇になった暁に、全てを変えてやればいいのさ。」


するとアキレスは感心した様に答えた。


「嫌いじゃ無いな。君のその考え方。」

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