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群青と灰色のサピエンティア  作者: Sy
槍の王 第2部
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第20章 招かれざる客

舞踏会場から悲鳴が聞こえた時、セレステとソフィアはまだ城の中庭にいた。音楽の演奏が止み、困惑する人々の声がする。


「何かしら…」


セレステはソフィアの体を強く抱きしめ、舞踏会場の方を見つめた。その頃エウロギウスとジェラルドは先程の気まづい会談を終えて会場に戻っていた。


「殿下、これは…」


「ここは私にお任せ下さい。エウロギウス様はセレステとソフィア嬢を。」


そう言ってジェラルドは騒動が起きている舞踏会場の入り口付近へ向かう。エウロギウスはセレステとソフィアを探し始めた。


ジェラルドが入り口付近に着くと、兵士の一人が小声でジェラルドに報告した。


「殿下、バートリー卿と名乗る不審な者が数名の配下を連れてお見えです。殿下と国王に謁見えっけんをと尋ねております。」


バートリーと言う名前を聞いて王子の顔が青くなったことに、兵士は気づかなかった様だ。すると入り口付近にたたずむそれらしき者が深々とお辞儀をして挨拶をした。


「皆様、ご静粛に。私、エリザベートと申します。以後、お見知り置きを。」


その姿は青白い顔に長い銀髪を後ろに垂らし、その瞳は緋く輝いている。その姿は魔族に違いなかった。名前は女であることを表している様だが、判別はし難い。


「さあ、音楽を奏でてくださいな。注目されるのは嫌いではないですが、楽しい時間に水をさすことは性分ではございませんの。」


とその魔族は口元を袖で覆い、ホホホと笑っている。


場内は、気を取り直し演奏隊が音楽を再び弾き始めると、舞踏会の参加者達もダンスの輪に戻っていく。


「あら、可愛らしい舞踏ダンスね。これだからたまに人の里に降りるのは止められないわ。」


するとジェラルドがエリザベートの前に進み出て、仮面を外し膝をつく。


「これはこれは、マイ・ロード。ようこそお越しくださいました。」


そう言ってジェラルドは顔を上げずにその魔族の前に平伏する。


「まあジェラルド、お久しぶり。でも貴方、私のことなんて覚えていないでしょう?最後に会ったのは、あなたがこんなに小さい頃でしたもの。」


エリザベートは左手を腰の高さで止め、子供の身長を測る様な格好をする。


「い、いえ。そんなことは…」


王子の頬からは汗が滴り落ちている。


「ホホ、そんなにかしこまらないで。ところで、あなたのパパに会わせてもらえないかしら?」


「こ、これは失礼致しました。」


ジェラルドはそのまま、エリザベートとお付きの者達を国王のいる舞踏会の奥へ案内した。その途中、ジェラルドはセレステとソフィアを見つけたエウロギウス達に気づいたが、すぐさま視線を逸らした。だが、エリザベートがセレステに気づいた。


「あらあ、あれが花嫁ね。なんて可愛らしい。」


エリザベートの緋くギラギラと輝く視線に、セレステは恐怖に顔を引きつらせる。エリザベートは舞踏会場の中でまだ距離があるにも関わらず、まるでセレステの横顔を舐める様に見つめている。


「ホホホ、つかの間の若さはやはり悠久ゆうきゅうの美に勝るのかしら。妬けちゃうわ。」


ジェラルドの後ろを歩きながら、エリザベートの視線がソフィア、エウロギウスへと映る。3人とも恐怖に顔が引きつっているのを、エリザベートは楽しんでいるかの様だった。


「ひっ。」


しかし、小さく悲鳴をあげたのは舞踏会場の中央を横切ろうとしたエリザベートだった。その額からは先程の余裕のある表情から打って変わり、汗が滲み、会場のある一点を見つめている。エウロギウスとジェラルドがそれに気づきその視線を追うと、そこにはアスラがいた。その形相は獣の様に歪み、エリザベートをにらみつけている。


「あの雌豚め。俺の前に現れるとはいい度胸だ。」


アスラの声は、音楽と会場の参加者の声で掻き消された。


そしてエウロギウス達の元に、ウォルグレイブ城の兵士が1人やって来て言った。


「ここは戦闘になる可能性が高い。今のうちにここから逃げましょう。」


「アキレス様?」


ソフィアが尋ねる。するとその兵士は変身魔法を解き、元のアキレスの姿に戻った。セレステが驚いた様にアキレスを見つめる。


「みんな、来てくれたのですね…」


セレステの目には涙が浮かんでいた。だが、アキレスは一刻を争う緊迫した状況をいち早く誰よりも感じ取っていた。


「中庭にハヅキがガーゴイルで待機しています。さあ、早く。」


そう言うと、エウロギウスがセレステに手を差し出した。


「さあ、行こう。セレステ。」


その声は懇願に近い。


「お姉様、帰りましょう。私たちと一緒に。」


ソフィアもエウロギウスの後ろから叫ぶ。するとセレステは優しく微笑み、首を横に振った。


「私はここに残ります。」


ソフィアがエウロギウスの差し出した手を掴むことは無かった。


「エウロ。僕は前にも言った通り、この公の舞台で君の正体を人々にさらさせるわけにはいかないよ。力づくでも連れていくっ!」とアキレスが叫ぶ。


咄嗟にアキレスが攻撃詠唱を始めるアスラを感知し、エウロギウスの肩を引っ張る。ソフィアはハヅキに持ち上げられて中庭にすでに向かい始めていた。


「ま、待ってくれ。アキレス!」


すると、セレステは突然エウロギウスに抱きつき、そして彼の唇にそっとキスをした。


「さあ、行って。エウロ…お願い。」


涙が頬を伝わり、それでもセレステは微笑みながら手を離した。


セレステを再びつかもうと伸ばしたエウロギウスのその手が、悲しく空を切る。


そしてエウロギウスは、この時に力尽くにでもセレステを連れ去らなかった自分を死ぬまで後悔するのだ。


ガーゴイルの背に乗ったエウロギウス、アキレス、ソフィア、ハヅキの4人は、セレステの奪還作戦が失敗した事を悟った。


泣き叫ぶソフィアの声がウォルグレイブの夜空に響いた。

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