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群青と灰色のサピエンティア  作者: Sy
槍の王 第2部
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第19章 二人の貴公子とすれ違う姉妹達

アスラと別れた後、再び独りでいるエウロギウスを狙い、周りにたくさんの女達が集まってくる。その時、城内を偵察中のハヅキから通信テレパシーが入った。


《飛行移動型のガーゴイルを見つけました。もしもの時の退避のため1匹確保しておきます。》


とだけ言ってハヅキからの通信が切れた。


「あ、あの…一曲私と踊って頂けませんでしょうか?」


エウロギウスはついに取り巻きの女性の一人にダンスに誘われた。だがその貴婦人が手を差し出すと、銀髪の紳士がその手を取り、彼女の手の甲に軽くキスをして言った。


「申し訳ありません、マダム。彼には先約がございます。」


そう言って彼はエウロギウスに向かい合った。ダンスの申し出を間接的かつ柔らかく断られてしまったその貴婦人は、それでもウットリと二人の貴公子を見つめている。


「まあ、でもこれはこれで…」などと言いながら火照ほてる頬に手を当てた。


「ジェラルド王子、まだ私に何か?」とエウロギウスは尋ねた。


一対一は望むところだ、とエウロギウスが意気込む。まさかこの様な直接対決になろうとは思いもしなかった。


「ふふ、少し席を外しませんか?」


エウロギウスはジェラルドに誘われ、吹き抜けになっている舞踏会場の2階のバルコニーに連れて行かれた。


「今宵はようこそいらっしゃいました。エウロギウス様。」


どうやらジェラルドはあっさりとエウロギウスの正体を見破っていた様である。エウロギウスが返答に詰まっているとそのままジェラルドは続ける。


「セレステとソフィア嬢のお友達で、あなたの様な背格好をしていれば誰でもわかりますよ。」


とエウロギウスの思考を読んでるかの様にジェラルドは話す。エウロギウスはふうっとため息を着くと、仮面を外しながら答えた。


「お初にお目にかかる、殿下。」


ジェラルドも仮面を取るとニッコリと笑った。その顔は月下に照らされているためか、益々銀色の輝きを放ち、異国の王子の美しさを際立たせている。その物腰は、一国の王子とは思えない程柔らかい。


「今宵の舞踏会は、楽しまれておいでですか。」


悪い奴では無い様だ、とエウロギウスは思った。その人柄からは胡散臭うさんくささを嗅ぎとることはできない。


「悪いが性分でな。本題に入ろう。」とエウロギウスは強気だ。


「セレステのことですね。確か想い人がいたのだと聞いております。まさか貴方だったとは。これは申し訳ないことをしました。」


と言う王子は、本当に申し訳無さそうに見える。一体どう言う人物なのかとエウロギウスは当惑を隠し切れなかった。すると、ジェラルドは唐突に言った。


「連れて帰って頂いても構いませんよ、セレステが望むのであれば。」


「なっ…」


言葉を失うエウロギウスに、ジェラルドがどこか寂しそうに微笑む。


「殿下、貴方は何を言っているのか理解しておいでか。」


エウロギウスは探り合いをやめる事にした。


「誤解をしないでもらいたい。私は彼女の幸せしか望んでいないのです。もしセレステが貴方と故郷に帰ることを望むなら、私はそれを良しとしましょう。」


とジェラルドが続ける。エウロギウスは拍子抜けした様に口を開けた。


「そうできるのであれば、どんなに良いでしょう。」


ジェラルドはバルコニーから外を見つめながら囁いた。その言葉をエウロギウスが聞き取れたどうかは分からない。



—————



その頃ソフィアとセレステは、舞踏会場の1階から外へ繋がる、美しい庭園の中にいた。姉のセレステは妹のソフィアを複雑な表情で見つめている。その憂いを帯びた顔もいつもの様に美しかった。セレステの長いシルバーブロンドの髪が月夜に良く似合う。


「お父様達と一緒では無いと聞いたから、心配していたのよ。ソフィー。」


とセレステは優しく言った。


「お姉様!本当にこれでいいの?私にもちゃんと説明して。お願い、お姉様に後悔なんてして欲しく無いわ。」


ソフィアの表情は姉を慕う切実さを物語っていた。


「ごめんなさいね、ソフィー。でもこの縁談は私が承知したことなの。」


「分かっているわっ!でもそれはお姉様の本当の気持ちなの?こんな訳も分からない国に連れてこられて、お姉様は平気?」


妹は姉への心配で胸が詰まりそうだ。ようやく迎えに来れたと信じて疑わない。


「政略結婚は私たち貴族の娘にとって当たり前のことよ、ソフィー。」


姉の声色や表情からはその本音が見えてこない。ソフィアはそれがもどかしかった。


「で、でもお姉様。」


するとセレステは優しくソフィアの手を両手で掴んだ。


「ソフィー、ここに座って。」


そう言うとセレステは城の庭にあったベンチに腰掛け、自分の膝を叩いた。するとソフィアは顔を赤くして言う。


「もうお姉様!私は子供ではありません。」


と言いながらソフィアは素直にセレステの膝にちょこんと座った。もうこう出来るのも残り少ないのかもしれないと思いながら。セレステは優しくソフィアの頭を撫でた。


「本当に綺麗になったわ、ソフィー。」


ソフィアは優しい姉の手の温もりを感じると、目頭が熱くなるのを感じた。姉はもう心を決めているのかもしれない。連れ戻せないのかもしれない、と言う思いがソフィアを捉えていく。


(早く来て、エウロの馬鹿、アホんだら。このままここからお姉様を連れ去って。)


ソフィアの思いは祈りに近かったのかもしれない。


《みんなここを直ぐに離れた方がいい。何か様子がおかしい。》


突然アキレスからの通信テレパシーが入ったのはその時だった。

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