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群青と灰色のサピエンティア  作者: Sy
槍の王 第2部
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第1章 エウロギウスとアキレス

青の枢機卿となったエウロギウス12世は多忙だった。神学校を卒業後、権力と金を惜しみなく使い、あらゆる策略を尽くし、若くして枢機卿にまで登り詰めたエウロギウスは自身の目的を果たすことに貪欲どんよくだった。


その野望は留まることを知らず、迅速に他の枢機卿や教団からその存在を知らしめる地位を確立していった。


そしてエウロギウスの最終目標は中央聖教会の教皇の座だった。


彼が教皇になりたい理由は、あらゆる権力を欲しいままにすることではない。それならば3大貴族の家名を受け継ぎ、そのまま王都に残ればよかったのだ。王家の娘たちの誰かを選び、政略結婚をし、王族へ加わることも可能だったはず


しかしエウロギウスはそんなことにまるで興味がなかった。


それよりも権力と金に溺れた父や王族、貴族、そして聖職者たちを許せなかった。そのためには彼らと同じ武器を使う事も良しとした。この世界からうみを出し切るならば、自分さえ巻き込まれても構わない。そうエウロギウスは決意していたのだ。


彼がそう志すに至った経緯に、特筆する様な事件や出来事は無い。まるでこの使命が彼の魂に元来刻まれていた様に、エウロギウスは徳と義の人であった。


ただ例外として、学生時代は悪友と夜遊びに興じる事もあった。本人(いわ)くそれは将来の政治力を培い、人脈を広げるためだったのだが。


このエウロギウスとアキレスの物語は、彼らが聖都にあるサピエンティア神学校に入学するところまで遡る。



————



「ここ、僕の部屋なんだけど、どいてくれないかな?」


アキレスは出来るだけ下手したてに寮の部屋のドアを遮る2人の同級生に頼んだ。後頭部をきながら、申し訳なさそうに微笑んでみる。


「帰れ。ここは貴様の様な身分の者が入れる場所じゃない。」


(う、うわあ。教科書通りの当て馬君…)


と内心アキレスは呆れながら、今度は毅然きぜんと2人を見返してみる。すると、その姿に2人は一瞬(ひる)むが続けて絡む。


「そ、そうだ!平民如きがっ。」


中途半端な上流貴族が、下流のものを見下した際によく使う鉄板の文句を吐き捨てる。


「お前、首席だからって調子に乗っているだろう?」


「本当に、君達みたいなことする人っているんだ。」


とアキレスはついつい考えていた事を声に出してしまう。「しまった。」と口をふさぐには遅かった。胸倉むなぐらつかまれ勢いよく廊下の壁に体を打ち付けられる。だが、アキレスの痛みに対する耐性は常人よりも強く、この程度の事では顔色一つ崩さなかった。それが同級生達の機嫌をさらに損ねる事を知らずに。


そして、数発殴られてこの場を納めておくかと思うアキレスの前に、ある男が現れた。長身によく鍛え上げられた身体が、その華麗な容姿をさらに際立たさせている。そのブロンドの髪と瞳の色が自分に良く似ている事にアキレスは気付いた。


「ここは俺の部屋なんだが、何か用か?」


「え、エウロギウス様!?」


「申し訳ありません!まさか貴方様のお部屋だとは知らず…」


と2人が咄嗟とっさに頭を低くして逃げ出した。その姿すらありきたり過ぎて、アキレスはすでに気にも留めない。エウロギウスと呼ばれた男もすでに、彼らを目で追うことを止めている。そして男はアキレスへ向き直し、右手を差し出して言った。


「エウロギウスだ。誰かと部屋を共有するなんて、俺には初めてのことだが、まあよろしく頼む。」


そう言ってエウロギウスは右手を差し出した。


「こちらこそ。僕はアキレス。よろしく。あの、それとありがとう。まさか寮の中でまで絡まれるとは思わなくて…」


「気にするな。小者は自分よりも優秀な者をうらやむものだ。」


サピエンティア神学校は全寮制であり、入学後、学生は全て宿舎へと割り当てられる。聖職者を目指すものの登竜門として世界に名を馳せる神学校だ。この学校の特徴は身分が入学の出願に影響しないことだった。もちろん寄付金や学校を経営する中央聖教会と権力者との癒着等、出願後の合否には身分の差は間違いなく影響していたが、身分の差が出願自体に差し支えない学校は世界でも珍しかった。


だからこそ完全とは言えないまでも実力主義の学校でもあった。多くの平民やその他の階級の子息子女達が在籍しているのである。しかし、サピエンティアを首席入学したアキレスはすでに羨望せんぼうと妬みの的になり、彼が平民出身であることが、それに拍車をかけていたのだ。そしてもう1人、アキレスよりも有名な存在が王都の3大貴族の子息、エウロギウス12世だった。その存在は社交界でもすでに周知の為、入学以前から噂になっていた。


「あのアキレスか。同室とは驚いた。お前はどこの出身なんだ?」


そうエウロギウスが尋ねると、答えにきゅうしているアキレスを見て、自分の言葉の浅はかさに後悔した。この学校には貴族で無い者も入学できると知っていたのに。


「まあなんだ、俺は権力や血統で人を見ることはしない男だ。気にするな。」


だがエウロギウスは、平民の生まれであれど見目麗しいアキレスに少し違和感を感じた。するとアキレスは苦笑しながら答えた。


「それは良かった。それにしてもエウロギウスって少し呼びずらいよね。僕は君のことをなんと呼べばいいかな?」


「そうだな、エウロでいいぞ。」


エウロギウスは普段から家族や友人に呼ばれている名前をアキレスに教えた。


「明日からの授業なのだけど、確か座学は一緒だったよね。」


「うむ、そうだな。俺は早朝に自主的なトレーニングを入れている。朝食で合流しよう。」


「わかったよ。ふふ。」


アキレスはエウロギウスに答えながらクスクスと笑いだした。


「どうした?」


「だって、エウロ。 『うむ』 とか言ってるんだもの。そんなうなずき方する人、本当にいるんだって思って。」


「 お前、馬鹿にしているだろう。」


とニヤリと笑って、エウロギウスはアキレスの首根っこを片腕で掴んだ。


この男、嫌いではない。とエウロギウスは思った。そして、アキレスは度々エウロギウスの口調を真似ておどけるのだった。

第2部の開始に思ったよりも時間がかかりました。色々なんだか足りない!って思いながら書き直したり。第1部からのとても好きなキャラクターを描くのは楽しかったです。投稿は2、3章づつでゆっくりなのですがお付き合いいただければ幸いです。どうぞ宜しくお願い致します。

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