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群青と灰色のサピエンティア  作者: Sy
槍の王 第2部
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第17章 マスカレードの夜

「今回のテーマは仮面舞踏会マスカレード。まだ御婚約の段階である王子とお姉様に気を使っての事ですわ。」


とソフィアはウォルグレイブ城を馬車の窓から見つめながら、エウロギウスとハヅキに言った。アキレスは御者として馬車を引いている。既にソフィアとエウロギウスは舞踏会用の衣装に身を包み、金銀の石で敷き詰められた目元だけを覆う豪華な仮面を着けている。それに見合う様にソフィアのドレスとエウロギウスのタキシードも洗練されていた。流石に貴族の出身だけあって、その姿は華麗である。場慣れもしている2人が簡単にボロを出す事も無いだろう。


ただやはり事前に許可のない密入国のため、エウロギウスの正体を明かす訳にはいかない。


特にエウロギウスの顔は一般にも知れ渡っているため、仮面舞踏会マスカレードとなったのは幸運としか言いようが無い。


ふとソフィアを見るといつものツインテールを崩し、横で豊かなプラチナブロンドの髪をまとめている。仮面を付けたその姿は、やはり姉のセレステと似ていた。


「ソフィー、綺麗。」とハヅキが小声で囁いた。エウロギウスが襟元を直しながら期待を込めてハヅキを見つめると、ふいっとハヅキは目を逸らした。


一同を乗せた馬車はやがて、ウォルグレイブ城に到着した。



——————



馬車を城壁内に停めると、ハヅキはいち早く給仕の衣装に着替えた。連絡は通信用の簡単な魔法が使われる。精神感応テレパシーを使った情報交換が一定時間出来る様、4人にアキレスが魔法をかける。そして変身のために覚えた魔法で城内の兵士に完璧に変装をした。その姿は顔や姿形、声色すら変えていた。ハヅキが憧れの表情でアキレスを見つめる。


「す、スゴイ…」と小声でハヅキが呟く。


「まあ何でも覚えていると役に立つ日が来るものだね。」


と言いながらハヅキとアキレスはそのまま城内へ消えた。


残されたソフィアは、もう一度エウロギウスが着けた仮面の位置を整えると軽くエウロギウスの両頬を叩いて言った。その意思の強い眼差しが真っ直ぐにエウロギウスを見つめている。


「しっかりなさい、エウロギウス。お姉様を手に入れたいのなら、あなたのその手で掴みなさい。」


小さな少女は、まるで母親の様にエウロギウスを諭すのだった。エウロギウスはハッとした顔でソフィアを見つめると真剣な顔で答えた。


「ああ、ありがとうソフィア。俺に任せろ。」


そう言うと、ソフィアは少しだけ頬を赤らめ呟いた。


「ふ、ふんっ。お姉様のためなんだから。」


「では参りましょう。お姫様 (プリンセス)。」


エウロギウスはソフィアへ向けてそっと右手を差し出し、軽く頭を下げた。するとソフィアは姿勢を正し、優雅にその手を取る。2人の顔は仮面の下であるが、既にいつもの社交界での余裕の表情に戻っていた。豪華な仮面とドレスを着込んだ2人は仮面を付けているにも関わらず人目を引く。城内の舞踏会場に入ると、そこは絢爛なドレスと仮面を身につけたたくさんの紳士淑女で溢れていた。


「まあ、なんて可憐かれんなドレス。」


通りすがりの婦人たちが次々にソフィアに話しかける。ソフィアは微笑を浮かべ、お礼を言いながら舞踏会に溶け込んでいく。


「あの貴公子は一体どなたかしら。」


そして仮面では隠しきれない長身と、短いがウェーブの掛かったブロンドの髪、翡翠色の目をしたエウロギウスに聴衆、特に女性達の視線が注がれて行った。


「やはり目立つな、俺たちは。」


と言うエウロギウスは決して傲慢なのではなく、少々人目を引き過ぎていることを憂慮しているのだ。


「ええ、急ぎましょう。お姉様はこの先にいる筈だわ。」


エウロギウスとソフィアはそのままセレステが待つであろう舞踏会場の奥へ向かう。そこにはウォルグレイブの王族達がいる。王子の婚約者であるセレステもきっと一緒にいる筈だ。すると突然2人の前に王族用の燕尾服タキシードを着た男が現れた。その男は宝石で散りばめられた銀色の仮面を付け、その瞳はほのかに緋みを帯びている様に見える。だが、それは照明や周辺にいる赤いドレスを着た女性達のせいかもしれない。


肩まで伸びた銀髪と青白い素肌は幻想的な程に美しく、照明に照らされたその姿がキラキラと輝いている。


「これは、ジェラルド王子。御機嫌よう。」


とソフィアが膝を折りながら肩を下げる。咄嗟にエウロギウスも王都流の会釈をした。


「これはこれは、妹君。ようこそ。セレステが寂しがっているのでね、いち早く君を連れて行かねば怒られてしまう。こちらの御方は?」


そう聞かれてエウロギウスは一瞬冷や汗を背中に感じるが、ソフィアが直ぐに答える。


「ふふ、ジェラルド様。仮面舞踏会マスカレードで正体を尋ねるなんて、夢から醒めてしまいますわ。」


「それもそうだ。ソフィア嬢。それでは参りましょう。」


そう言ってジェラルドはソフィアに手を差し出した。ソフィアは横目でエウロギウスにウインクをすると、そのままジェラルドの手を取った。


「心配なさらずとも、直ぐにお返し致しますので。」


ジェラルドはエウロギウスに親しげな笑みを浮かべながら去って行った。


周りの女性達が、2人の貴公子達とたわむれるソフィアに羨望と嫉妬の視線を注いでいることに当人達は知る由もない。

次の章には意外な人物が登場します。

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