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群青と灰色のサピエンティア  作者: Sy
槍の王 第2部
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第14章 ツインテールの旋風

夏の暑さを和らげるために常緑樹の森林に囲まれた閑静な邸宅に、1人の少女が荷馬車から降り立った。


「さあ、夏休みよ!」


プラチナブロンドの髪をツインテールにまとめて、大きな蒼色の瞳を見開き少女は仁王立ちしている。可憐な赤のドレスが、髪を纏めるリボンの色とマッチしている。その後ろで使用人達が少女の山の様な荷物を邸宅に運び出し始めていた。


その少女は既に姉がいない事を承知しているかの様に、まるで自分の屋敷に入る様子が無い。


「あら、ソフィー、お帰りなさい。」


邸宅のバルコニーから、母親が少女を呼び止めた。だが、少女は家には入らずそのまま森の中へ走り出した。


「そ、ソフィー!?何処かへお出かけなさるの?」


「直ぐに戻りますわ!お母様!」


そう言ってソフィアは森の中へ走り去った。



———————



「エウロ!出て来なさい!あなたが帰っていることはわかっていてよっ」


とソフィアはエウロギウスの邸宅の入り口の門を勢い良く開けた。こじ開けたと言っても良い。


「なんだ、騒々しい。」


エウロギウスはまだ寝起きのローブを着たまま気怠けだるそうに言った。片手には珈琲コーヒーを入れたカップを持っている。ローブから胸元が思ったよりも肌蹴はだけている様だ。それを見てソフィアが赤面しながら再びわめく。エウロギウスの顔には毎晩酒に溺れているかの様に目にくまができ、加えて顔が少し浮腫むくんでいる。顎には無精髭ぶしょうひげを軽く蓄えていた。


「なっ、なんてはしたない格好なの!?不潔よ!」


「お前は人の家に来て一体何をほざいているんだ。」


「お姉様の為とはいえ、この体たらくっ…情けないわっ!」


五月蝿うるさい!」


と呆れ顔でエウロギウスが軽蔑の表情を隠さない小さな少女を見下ろしている。


「朝から随分騒がしいね。」


するとソフィアは見慣れない青年が突然現れたのを見て驚いた。


「あ、あらっ。これは失礼致しました。私としたことが…」


そう言い、ソフィアは軽く膝を降りお辞儀をする。


「ふふ、気にしないで。この可愛らしいお嬢さんは?エウロ。」


その紳士的な姿に思わず見とれてしまうソフィア。


「セレステの妹のソフィーだ。見ての通り少し馬鹿なんだ。」


「なっ、なんですってえ!?」とソフィアが怒りをあらわにする。


「コラコラ、エウロ。女性にそんな言葉を使ってはいけないよ。」


と言いながらその麗しげな青年がソフィアに微笑む。思わず頰を紅潮させるソフィアがうつむきならがら小声で尋ねた。


「あ、あなたのお名前は?」


「僕はアキレス。よろしくね、ソフィー。」


そう言ってアキレスはソフィーの頭を撫でた。途端にソフィアの頭から湯気の様な煙が上がったかの様に見える。


「すまんな。アキレス。こう見えて人見知りなのだ。内弁慶うちべんけいって奴だな。」


エウロギウスの口元が悪戯っぽく緩んでいる。


「きっ、今日は!お客様に免じて帰ってあげるわっ。またくるわよっ!お姉さまの事で…話さなければならない事もあるし…。いいわね、エウロっ!」


ソフィアは赤面した顔を隠すかの様にそのまま外に飛び出して行った。


「こんなに早くお姉様が行ってしまうなんてっ!何で止めないのよ、エウロのオタンコナスーーー!」


段々とソフィアの大声が遠のいていった。


「ふふ、元気な子だね。それにしても、本気かい、エウロ。あのウォルグレイブに入国するには確か特別な許可証が必要なはずだけれど。」


2人の会話は既に他の事に移っている様だ。


「これは潜入調査だ。誰の許可もいらんっ。」


とエウロギウスが言い切るが、アキレスは呆れ顔をしながら続ける。


「いや、そう言う訳にも行かないと思うんだけど…」


「ウォルグレイブでセレステの婚約者を見てくるだけだっ。俺の目で奴の正体を暴いてやる。」


「で、あわよくば花嫁を連れ去ると…下手したら国際的に指名手配だね。ざっくり言うと誘拐だしね。」


「いちいちお前はうるさいっ!」と子供の様にエウロギウスがゴネる。


「もしやとは思うけど、君1人で行くんだよね?僕はここでお留守番かな…」


いつになく冷静なアキレスは、朝の紅茶をすすりながらエウロギウスから視線をそらす。


「と、当然だっ。これは男と男の勝負だからな。一対一だ。」


そう言うエウロギウスはチラチラとアキレスを期待を込めた目で見つめる。アキレスは深くため息をつきながら言った。


「その決闘が決して起こらない様に誰かが見張ってないとね。それに君のその派手な容姿と力は隠密に全く向いていないだろうし…」


エウロギウスの瞳がさらに期待でキラキラと光る。目の下の(くま)が取れたかの様な少年の様な純粋な瞳の輝きに、アキレスは色々な意味でたじろいだ。


「でもこれは忠告だよ、エウロ。僕たちはまだ学生だけれども、下手を打てばこれは立派な他国への政治干渉に成りかねない。なにせ、ウォルグレイブの王族の婚姻に関係する事だからね。もしこれが公になれば君の将来の教皇選挙において必ず汚点になる。僕は君を教皇にさせると誓った手前、もし雲行きが怪しくなれば全力で君を止めようと思うのだけど異論は?」


「ないっ!」


それからアキレスは紅茶を飲み干し、改めて深くため息をついた後、ようやく答えた。


「本当に君には呆れるよ。」


と、アキレスは苦笑いをした。その返答をエウロギウスは前向きに捉えた。


「よしっ、決まりだな!」


こうして隣国ウォルグレイブへの潜入作戦が開始されるのだった。


「君といると、本当に飽きないよ。」


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