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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第2章 ホラー VS SF
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ホラー VS SF 1


 軽自動車を路肩に停める。

 なんつーか、ブレーキを踏んで、停まったらシフトレバーをPに入れるだけなんだから、ものすごい簡単だよな。


 高齢ドライバーの事故が後を絶たないのは、どうしてなんだべ?

 マニュアル車ならともかく、オートマチック車に複雑な操作なんてひとつもないのに。


 まあいまは俺たちの車両しか道を走ってないから、自爆事故いがい起きようもない。

 くだらないことを考えながらドアを開ければ、ステラのCRFが近づいてきた。


「拓真。みなみは?」


 バイザーを開けての問いかけ。


「バスに乗り移った。ゾンビを一掃して停めるつもりなんだと思う」

「了解。あたしも行ってくる」


 言うが早いかスロットルを解放し、ステラがバスを追った。

 残される軽自動車と二号車。


 ん?

 これ、やばいんじゃないの?


 戦闘要員が、二号車の運転手しかいないじゃん。

 この状況で襲われたら、ひとたまりもない。


 いや、でも、さすがにそれはないか。

 周囲に民家もないし、そもそも人っ子一人いない。先に見えるのは大沼隧道(おおぬまトンネル)だけ。

 これを越えると、新日本百景のひとつ、大沼公園が見えてくるらしい。


 みなみが教えてくれたとおり、街と街との距離がかなり離れているのだ。

 イメージとしてはアメリカの荒野が近いだろうか。なんにもない場所に、ただ道が走っている。

 北海道の場合は、荒野ではなくて森林だけど。


 ゆっくりと接近してきた二号車が、軽自動車の後ろに停まる。

 そして運転していた自衛官がおりてきた。


 たしか森住(もりずみ)二等陸曹だったかな。筋骨隆々としたさわやかなお兄さんって感じの人だ。


「拓真くん。待っていてくれたのか」

「はい。動くのはあぶないかな、と思いまして」


 俺の運転で長時間の走行が危ない、という以外にも、状況が確定していないのに動き回るのは危険なのだ。

 一号車の状況がはっきりするまで、ここは待機が定石だろう。


「良い判断だ」


 森住二曹が褒めてくれる。

 その顔には、必要以上の緊張は浮かんでいない。


 みなみがバスに乗り移ってるし、ステラも追いかけてくれたからね。

 超能力者が二名ですよ。

 これで解決しないとしたら、そもそも解決の目なんてないってことだ。


 しかも装甲車の自衛隊の装甲車だっている。

 俺たちにできることは、自らの安全を確保しつつ吉報を待つことだろう。


 と、停車中の二号車がなにやら騒がしくなった。

 まさかこっちでもゾンビが発生したのかと俺と森住二曹が身構える。


 まあ、森住さんはともかくとして、俺が警戒したところでなんにもできないんだけどね。


 もう嫌だとか、たくさんだとか、そんな怒鳴り声がバスから聞こえてきた。

 そして幾人かの乗客が転がり出てくる。


 でも、ゾンビに追いかけられてって雰囲気じゃないな。

 もっとずっと余裕がありそうだ。


 思わず顔を見合わせた俺たちが、バスに近づいた。

 すると、乗降口に中年男性が仁王立ちになる。


「くるな! バケモノの仲間め!」


 叫んでるし。

 なんなんだよ。このおっさん。


「何やってるんですか。田所(たどころ)さん。そこをどいてください」


 眉をひそめる森住二曹。

 思い出した。このおっさんは、俺やみなみがバスに同乗することをものすごい嫌がった野郎だった。

 助けてもらったくせに。


 なんでも、どっかの大企業のお偉いさんで、国とか役所にも顔が利くんだってさ。

 たいしたもんだよ。

 その顔とやらで、ぜひゾンビどもをやっつけてほしいね。


「我々は被害者だぞ! なんでこんなところで足止めされなくてはいけないんだ!」


 田所ががなる。

 なんでって、一号車の状況がわかんないからに決まってるだろうが。

 バカなのか? こいつ。


「状況は説明した通りです。現在、一号車との通信が途絶しており……」

「そんなことは判っている!」


 うわあ。

 自分で説明を求めたくせに遮っちゃったよ。

 聴く気がないのに説明させるとか、こいつの会社の社員、可哀想だな。


「我々だけで新千歳へ向かえば良いだろう!」


 後ろから、そうだそうだって同意する叫びがあがっている。


 うーん。

 バカなのかって疑問系にするようなことじゃなかったわ。

 こいつらバカだ。ふつーに。


 超能力者も自衛隊もいないんだぞ。

 襲われたら一発アウトじゃねーか。

 その程度のことすらわかんねーのかよ。


「ちょっと田所さん。いい加減に……」

「うるさい!」


 たしなめようとしたのは、さっきバスから転がり出てきた乗客たちの一人で、初老の紳士である。

 空港では、たしか最前線でゾンビを押し戻していた人だ。


 彼を中心として、空港職員たちが絶望的な防衛戦を繰り広げていたのである。

 立派だと思うよ。

 うるさいの一言で撃退されちゃったけど。


 つーか、そもそもこの田所ジジイ、他人の話を一切きこうとしないのな。

 バスから降りたというか追い出されたのは十人ほど。

 ということは、中にも同じくらいの数がいて、それが田所派ということなのだろう。


「田所さん。被害者だろうとなんだろうと、我々の指示に従ってくれなくては困ります」


 辛抱強く森住二曹が説得しようとする。


「うるさい! 下士官ごときに従えるか! もう五つばかり出世してから名刺もってこい!!」


 なにいってんだ?

 階級で指示出ししてるわけじゃねえだろうが。

 非常事態だぞ。


「お前ごときの首、いつでも切れるんだからな!」

「あのですね……小官を免職して状況が良くなるならいくらでもどうぞ。しかし、そうではないですよね」


 よーし。森住さん。いっちゃれいっちゃれ。


「この若造が! 口はばったい!!」

「たしかに小官は若造ですが、こういう事態に備えての訓練をうけておりますよ」

「うるさい! とにかく我々は好きに行動させてもらうぞ! おい!!」


 最後の言葉は、俺たちにじゃなくて後ろの仲間にかけたものなのだろう。

 ドアが閉まり、バスが動き出してしまった。


 こうなったらもうどうにもならない。

 まさか前に立ちはだかって止める、なんてことできないしね。


 森住二曹が、肩にかけた自動小銃をはずそうとしたが、ため息とともに手を下ろした。

 いくらバカでも民間人を撃つわけにはいかない、というところだろうか。

 札幌方面へとバスが走り去ってゆく。


「まいったな……」

「まいりましたねえ」


 若い自衛官のため息に、おもわず同意してしまう俺だった。





 とにかく先行している部隊に連絡しないといけない。

 まだ戦闘中なのか決着しているのか判らないが、こっちの状況を教えないってわけにはいかないだろう。

 バス奪われちゃったし。


 気が重そうに俺から離れ、野戦服に装着されている無線機を操作する森住二曹。

 その間に、紳士な人が俺に話しかけてきた。


「申し訳ない。彼の暴走を止めることができなかった」


 いや、俺に謝られても。


「仕方ないですよ。まったく人の話を聴かないですもん」


 肩をすくめてみせる。

 あれを落ち着かせることができるのは、お釈迦様とかそういう次元の人じゃないと無理なんじゃないかな。


「あらためて、国岡(くにおか)といいます」

「西山拓真です」

「空港では命を救われました。ありがとうございます。拓真くん」

「その功績はみなみとステラのもので、俺は手伝っただけですけどね」


 差し出された右手を握りかえした。

 ちょっと照れくさいでござる。

 面と向かってお礼を言われるのは。


「それでもたいしたものだよ。声ばかり大きい人に比べたらね」


 ふうとため息を吐いて、札幌方面に視線を投げる国岡さん。

 誰のことを言っているのか、問うまでもないよね。


「これからどうしたものか……」

「ですよね……」


 俺だってため息しか出ないよ。


 機動力であるバスを失っちゃったんだもの。

 なーんにもない道の真ん中で。

 にっちもさっちもいかないとは、まさにこのことだ。


「あ」

「どうしたのかね?」


 俺が発した変な声に、国岡さんが反応する。


「いっそ戻りませんか? さっき通った道の駅まで」


『なないろ・ななえ』のことだ。

 座るところもあるし、トイレだってある。

 通過したばっかりだから、歩きでも行ける距離だろう。

 軽自動車でピストン輸送しても良いし。


 新千歳は遠ざかるけど、こんなところでぼーっとしているよりマシじゃないかと思う。


「なるほど。君は傑物だね」


 国岡さんが笑う。

 いやいや。

 おだてたって、何にも出ませんから。


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