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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第1章 北海道オブザデッド
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北海道オブザデッド 8


 函館空港に立て籠もっていたのは二百名ほど。

 このうち二十四名が本州からの旅行客だった。で、外国人観光客が百人ちょっといる。

 このあたりの比率に、いまの日本の観光事情が如実にあらわれているだろう。


 新函館北斗駅が全滅だったことを考えれば、奇跡的な生存率といって良いが、これには多少の理由がある。

 たいした理由ではなく、単なる人口密度の問題だ。


 新幹線の終点たる新函館北斗駅周辺には、ぶっちゃけなんにもないから、利用客の多くは足を止めずに、そのまま函館または札幌方面に向かってしまう。

 ゆえに、新幹線が到着した時刻か、発車直前くらいでないと、たいして人はいなかったりするのである。


 しかも北海道新幹線じたいの乗車率が低迷しているので、平日の新函館北斗駅など、もう閑散としたものだ。


 こういう事情もあって、ゾンビになっちゃった人は少なかったし、全滅といってもたいした数にはならなかった。

 といっても、百人以上は間違いなく犠牲になっているが。


 それをたいした数ではないっていってしまえるほどに、ひどいありさまなのだ。

 函館市内を中心に発生したゾンビ感染爆発(パンデミック)によって犠牲になった人は、おおよそ三万人と推測されているらしい。


 事件発生直後から迅速に自衛隊が動いたにもかかわらず、この数字だ。

 三時間。

 わずか三時間で、函館市は人口の一割を失った。


「しかも、まだ事態は終息してないっていうな」

「仕方ありませんわ。すべての局面に私たちが行けるわけではありませんもの」


 俺のぼやきに、運転席のみなみが苦笑する。


 超能力者だか量産型能力者だかは、あたりまえのように数が少ないらしい。

 函館市内全域をカバーするなど、物理的に不可能だ。


 自衛隊が頑張ってはくれているものの、なかなか完璧にとはいかない。

 戦場なのである。


 俺たちのような民間人、ましてやここに家があるわけでもない旅行者など、邪魔にしかならないので、まとめて東京に送り返す。

 この方針そのものはおかしくもなんともないだろう。


「けどよ。俺らと一緒のバスには乗りたくないってのは、どういう了見なんだかね」


 前方を走るバスに視線を投げ、俺はふんと鼻を鳴らした。


 空港で助けた連中と、函館駅で保護された人々。

 あわせて五十名ほどが二両のバスに分乗している。外国人については国に送り返す算段がつくまで函館の自衛隊駐屯地に軟禁されるらしい。


 で!

 それは良いんだよ!


 問題は、助けられたくせに、みなみやステラをバケモノ扱いする連中だ。

 言うに事欠いて、ゾンビの仲間なんじゃねーのかまでいうやつがいたんだぜ。

 だったら助けねえっていうの。


 こっちは命がけで救出したのに。

 自分のために他人が命を張ってくれるのは当たり前だとでも思ってのんかね。あいつらは。


「仕方ありませんわ。それが人間ですもの」


 ハンドルを握るみなみは淡々としている。

 諦観というより、最初から期待していない、という雰囲気だ。


「お前らがいるから敵が攻めてくるんだ、などという主張は、ザン○ット3以降の伝統ですからね」

「古すぎる!」


 みなみはもちろん、俺だって生まれてないくらい大昔のアニメ作品だ。

 親の世代とか、そういう感じである。

 俺は見たことはないけど、ものすごく有名なのでさすがにストーリーラインくらいは知っている。


 もっのすごいハードな内容で、たしか主人公以外の仲間は全員死んでしまうはずだ。

 作中では、お前たちがいるから敵が攻めてくるっていって、地球人たちが主人公を迫害するシーンが何度も描かれているらしい。

 ホントに子供向けなのかよって話だよね。


「その時代から、というよりもっと昔から日本人のもっている特性ですわね。個人レベルでは善良な方も多いのですが、集団になると凶暴性を増しますので」

「達観してるなぁ。悔しくないのかよ」


 ぶっちゃけ俺は悔しい。

 たいした戦力にはなってないけど、頑張ったんだ。

 ゾンビの両足をもってぶん投げるっていう気色の悪い仕事を、かなり頑張ったんだよ。

 吐きそうになりながらもね。


 感謝して五体投地しろとまではいわないけど、バケモノ扱いはひどすぎると思うぜ。さすがにな。


「私たちのリーダーが言っていました。我々は強者で人間は弱者だと。きちんと理解していれば鷹揚になれると」


 歌うように告げるみなみ。

 心酔しきっているのがはっきり判る。


 ちょっと嫉妬。なにもんだよ。そのリーダーって。


 ただまあ、人間が束になったってみなみやステラには勝てない。

 というより指一本も触れられないんじゃないかな。拳銃とか持ってたとしても勝てるかどうかあやしいほどだ。


 超能力者からしたら、いくら人間がきゃんきゃん吠えたところで痛痒なんか感じないだろう。

 ハナホジ案件ってやつである。


 むしろ、そんな超能力者たちに感謝するのではなく、恐怖からくるいらだちをぶつけるとか、卑小さと愚かさの極致だ。


「人間なんてらららららららーだな」

「なんですの? それは」

「さあ?」

「出典の判らない言葉を使うのは、あまり感心できませんわよ」





 車列は函館新道から国道五号線に入った。

 つい二時間ほど前に俺たちが立ち寄った道の駅を右手に、札幌方面を目指す。


 先頭を自衛隊の装甲車が走り、その後ろにステラのCRF。

 バスが二両続いて、最後尾が俺たちの軽自動車だ。


 なかなかの陣容に見えるけど、じつは戦闘員って六人しかいない。

 装甲車に乗っている自衛官が二人と、バスを運転している二人。みなみとステラ。

 あ、俺は非戦闘員だからね。念のため。


『ポーク12。応答して』


 ざざ、という音のあと、女性の声が車内に流れた。

 ステラだ。

 右手を伸ばしたみなみが、インカムを装着する。


「どうしました? ポーク15」


 どーでも良いんだけど、そのコードネームはどうにかならんのじゃろうか。

 ものすごく緊張感が削がれるんだけど。


『一号車の挙動がおかしいわ。あたしは二号車を停車させるから先行して様子を見て』

「了解しましたわ」


 言葉とほぼ同時に、速度を落としたCRFが二両目のバスに手信号を送る。


 減速し、路肩に足を止めるバスを横目に軽自動車が加速した。

 みるみるうちに一両目に迫る。

 クラクションを鳴らしながら。


「たしかにおかしいですわね」


 減速することなく突き進むバスが左右に揺れる。

 あきらかに異常事態だ。


「どうなってるんだ?」

「たぶん、最も面白くない事態が起きてますわね」


 問いに応えるみなみの顔には緊張が走っている。

 もちろん俺にも予感があった。


 発生したのだ。

 バスの中で。

 ゾンビが。


 先頭を走る装甲車が減速し、自らの車体をもってバスを停めようと試みる。

 なかなかの勇気だ。

 背後から巨大なバスが迫っているのに減速するなんて、生半可なことではない。

 がつんがつんと非音楽的な衝突音が響く。


 軽自動車がバスに並んだ。

 その瞬間、見てしまった。

 車内で繰り広げられる地獄絵図を。


 おそらくゾンビは数匹。

 それが前へ前へと進んでいる。


 押し止めようと奮闘する人もいれば、恐慌を起こして逃げまどう人もいる。

 運転している自衛官の武器を奪ってゾンビを殺そうとする人まで。

 最悪である。

 自衛官は運転どころではなく、これでは停車させることもできない。


「拓真さん。運転かわっていただけますか」

「どうする気だ?」


「乗り移って何とかするしかありませんわ」

「また無茶なことを……」


「生きてる方もいますから、見捨てるというのもない話ですもの」

「ったく……お人好しめ」


 運転席側のドアを開けるみなみ。


「いくぞ。いちにの」

『さん!!』


 タイミングをはかり、俺が運転席へ、みなみが屋根へと移動した。

 軽自動車特有のベンチシートは、こういうとき非常に便利である。


 すかさずアクセルに足を伸ばしてバスとの相対速度を合わせる。

 無免許運転だが、いまさらそんなことを気にしても意味がない。

 窓を開放する。


「では、いってきますわ」

「きをつけてな」


 コルセットスカートをひるがえし、ひらりとみなみが跳躍する。

 時速七十キロ以上で併走する軽自動車からバスへと。


 盛大な破砕音。

 窓を蹴り破り、少女の姿がバスの中へと消えた。


「まったく。ダイハードな旅になってきやがったぜ」


 俺はにやりと唇を歪めた。


 はい。

 ごめんなさい。

 ニヒルなことを言ってみたかっただけなんです。


 けっこう一杯一杯です。

 さーせん。



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