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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第1章 北海道オブザデッド
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北海道オブザデッド 5


 普段であれば非常に混み合っていて、時間読みができない通りなのだという。


「元々はあちこちで渋滞してしまう函館の道路事情を改善するために、産業道路が敷設されたのですが、混むから使わないとなってしまったのは皮肉な結末ですわ」


 たいして興味もなさそうに、みなみが解説してくれる。

 軽自動車は、函館空港を目指してひた走っていた。


「閑散とした街ってのは、なんか不気味だよな」

「そうですか?」

「ゴーストタウンみたいでさ」


 片側二車線で中央分離帯のある広い道に、車の一台もいない。歩道には人影もない。

 夏の太陽だけが照らす人気のない街。

 なんとも表現しようのない恐怖のようなものを感じる。


「拓真さんが東京からきたからですわ」


 ふ、と笑うみなみ。

 なんですか、その「これだから都会育ちのお坊ちゃんは」みたいな視線は。


「これだから都会育ちのお坊ちゃんは」

「ホントに言いやがった!」

「期待されているのかと思いまして」


 うん。

 ぶっちゃけ期待していた。

 しっかり合わせてくれる相棒って、とってもありがたいと思う。


「北海道では、こんな光景は珍しくもありませんわ。ここは街の中ですから多少は違いますが」

「そうなのか」

「街と街がかなり離れていますもの」


 ちょっと隣町へ、というのは普通に三十キロ先とからしい。

 函館はまだ都会の方だが、もっと田舎だと、一時間くらい人も車も見ないなんてザラにあるそうだ。

 おそるべし北海道。


「そもそも三十キロはちょっとじゃないよな」

「私どもは、車で片道一時間ならちょっとですわ」

「二時間なら?」

「ちょっと遠いから早めに出ようか。くらいですわね」


 OK。

 ちょっとという言葉に、新たな意味が加わりそうだよ。


「ちなみに、ここを右折すると湯の川温泉ですわ」


 人も車もいない緊急事態なのに、律儀に信号で停車したみなみが説明してくれる。


「湯の川温泉、いいなぁ」

「私たちは左折しますけどね」


 信号がかわり、無情にも道南有数の温泉街が遠ざかってゆく。


 ていうか、行かないならわざわざガイドしてくれなくて良いよ!

 知らない方が幸せなこともあるんだよ!


「くっそくっそ」

「騒動が片づいたら、あらためていらしてくださいまし。そのときはまたご案内いたしますわ」


 くすりとみなみが笑う。

 ものすげーチャーミングだ。


「美少女の案内で北海道観光。それはたぎるな」

「夜のお世話まではしませんので、あしからずですわ」


「くっ ちょっとは期待したっていいじゃない」

「にんげんですものね。みなを」


 くだらない話で盛り上がりながら、軽自動車は函館空港を目指してひた走る。





 そして到着した空港ターミナルは、ちょっとした地獄だった。


 一階部分は、ほぼゾンビどもに占拠されており、生き残った人々は階段にバリケードを作って、なんとか侵入を防いでいる。

 昇ってきたゾンビを棒でつついて落とす、というかなり涙ぐましい方法だが、けっこう状況は笑えない。


 ときおり、悲鳴とともに生きている人間が上の階から投げ落とされるのは、おそらく咬まれてしまった人だろう。

 一定時間が経過すると、ゾンビ化してしまうのだ。


 残酷なようだが、咬まれた時点で見捨てるしかない。


「あー これはダメですわね。飛行機は飛びそうもありませんわ」

「ああ、うん。そりゃ飛ばないだろうけど」


 問題はそこではないだろう。

 この状況をどうするかって話だ。


「どう、とは?」


 きょとんとするみなみ。


「助けないと」


 生き残っている人がいるのだ。

 放置するわけにはいかないだろう。


「それはそうなのですが、ちょっと難しい注文ですわね……」


 形の良い下顎にみなみが右の指先を当てる。


 場所はターミナルビルの入口。

 ゾンビどもは二階の人々に夢中で俺たちには気付いていない。


 いま立ち去るなら、かなり安全に立ち去れる。

 しかし、客たちを助けるとしたら話は別だ。


 ざっと見積もっただけでも、ゾンビの数は百や二百ではない。みなみがたった一人で斬り込んで、なんとかなるような戦力差ではないだろう。

 いくら超能力者といっても。

 俺だって、そんな無茶な要求をするつもりはない。


「車で引っかき回すってのはどうかな」


 提案してみる。

 大きな音を立ててゾンビを誘導し、みなみの軽自動車でひき殺しまくる、という手だ。


「なんとなくのイメージなのですが、二匹か三匹くらいはねたら、車がダメになってしまいそうですわね」

「ああ……たしかに」


 むーんと唸るみなみに、俺は自説をひっこめた。


 いわれてみれば、軽って弱そうなのだ。

 テレビのニュースなんかで映される画像で、ぺしゃんこになってるやつをけっこう見かける。

 ゾンビをはね飛ばしたくらいで、さすがにそこまで大破はしないだろうけど、あの軽自動車を失うのは、俺たちが機動力を失うのと同義なのだ。


 まあ、駐車場に停まってる高級車とかを頂戴するって手もあるんだろうけど、さすがに直結とかやれるようなテクニックを俺は持っていない。


「暗がりに一匹ずつ引きずり込んで仕留めていくってのが理想なのですが」

「うん。暗がりである必要はないよね」


 相手は視覚がないだろうゾンビである。

 明るかろうが暗かろうが関係ない。


「言葉のあやですわ。ですが、狭いところで戦いたいのは事実ですわね」


 囲まれないようにするためだという。

 ただ、倒したゾンビ折り重なっていくと、戦う場所自体が狭くなってしまう。


 理想としては、正面だけ向いて戦えて、かつ死体がすっと消えてくれること、という感じだ。

 さすがに無理すぎる条件である。


「サイブレードで、ゾンビごと消し去れればいいのにな」

「PKブレイドですわ。中二くさい名前をつけないでくださいまし」


 ものすごい不本意そうな顔をするみなみ。

 ぶっちゃけどっちもどっちだと思うのだが、俺は反論しなかった。

 自分でも、ψ(サイ)ブレードはないなー、と、思わなくもないからだ。


「あそこのキャッシュコーナーあたりが使えないかな」


 具体的な提案をしてみる。

 現金自動預け払い機(ATM)が並んでいるスペース。

 出入口は一ヶ所しかなく、しかもけっこうな広さはあるので立ち回りに不都合はなさそうだ。


「なかなか良さそうですが、入口にゾンビの死体がたまってしまいますわ」


 ゾンビの死体ってのも変な言い方である。

 すでに死んでるからね。やつらは。


「そこは俺に任せておいて」

「なにかアイデアが?」


 いやいや。

 アイデアってほどのもんでもない。みなみが倒したゾンビは俺が退かすというだけの話だ。

 床はきれいに磨き上げられているので、死体を引きずるのに苦労はないだろう。


「そうとうに気色の悪い作業になりますわよ?」


 小首をかしげるみなみ。

 うん。

 ぶっちゃけ俺だってゾンビなんぞに触りたくない。


 触りたくないけど、そうもいっていられないのが現実だったりする。このままぼーっとしていたら生き残りの人たちが食われてしまう。

 そしてそうなったらゾンビどもの標的は、普通に俺たちにシフトする。


 もちろん、見捨てて逃げるってのはない話だ。

 べつに俺は英雄的な行動に憧れているわけではないが、助けられる範囲にいる人を助けないってほどのロクデナシはない。


「まあ、そういうのを英雄的な行動っていうんだと思いますけどね」

「うっせうっせ」

「とはいえ、嫌いではありませんわ。私たちのリーダーも似たようなタイプですので」


 くすくすとみなみが笑う。


 うーむ。

 それはどうなんだろう。超能力者たちのリーダーがお人好しってのは、ちょっと危ういような気もする。


「ただ、さすがに素手で触れるのは避けた方がよろしいかと」

「そこは考えてるぜ」


 にやりと笑った俺が指さすのは、空港の一階にでかでかと店を構えたドラッグストアだ。


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