表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第4章 怪物の国、北海道
31/33

怪物の国、北海道 7


 俺とみなみの二人ではリッチに勝てない。

 これはもう動かしがたい事実だ。


 何度も戦ってるからね。いやってほど思い知らされてる。

 だからそこに森住二曹が加わった。

 二対一で勝てないなら、三対一ならどうだって話だ。

 わかりやすいだろ?


 ステラと自衛官三人はゾンビ担当。

 だからこそ、序盤でできるかぎりゾンビを削ったんだよね。百近く残ってたら、四人ではしんどくなってしまうから。


 ゾンビの残数は三十くらい。

 そっちは頼んだぞ。ステラ。富士松三尉。


 みなみの右回し蹴りがリッチの頭に決まる。

 死体に衝突されてバランスを崩したところへの一撃だったから、避けようがなかったみたいだ。


 二度三度と地面にバウンドしながら吹き飛ぶ。

 量産型能力者(PA)のパワーで、しかもPKブレイドつきの蹴りだもの。

 普通だったら、すっぽんと頭がもげても、まったくおかしくない。


 吹き飛ばされただけで済んだ上に、空中で体勢を入れ替えて足からちゃんと着地するとか、たいがいバケモノ過ぎるよね。

 さらの同時に魔法まで放っちゃうとか。


 攻撃直後で防御態勢のとれないみなみの前に立ちふさがり、飛んできた闇色の矢をPKミツタダで叩き落とす。


「今ので倒せないとか。嫌になってしまいますわね」

「ぼやくなぼやくな。強敵なのは最初から判っている」


 辟易したようなみなみの横をすりぬけ、森住二曹がリッチに肉薄した。


 ジャブ、ジャブ、フック、ショートアッパー、ストレート。

 矢継ぎ早に繰り出されるパンチ。


 猛ラッシュに防戦一方となったリッチが距離を取ろうとする。

 これだけの連続攻撃をさばいたら、とても反撃どころではないのだろう。


 俺やみなみのような、刀剣による攻撃ではない。

 とにかく手数が多いのだ。


 相手が一歩退けば二歩踏み込む勢いで、攻撃を続ける森住二曹。

 俺とみなみも左右から回り込み、ざすざすと手を出してゆく。

 魔法なんぞ使わせないぞ。


 かなり深入りしてるから、俺もみなみも、正面に立ってる森住さんも傷だらけだ。

 ぶっちゃけ、斬ったのと同じくらいの回数、殴られたりかぎ爪で刺されたりしてる。


 三対一でもこのありさまだ。

 だからこそ退くわけにはいかない。これで魔法までフリーハンドで使われたら、とても勝算の立てようなんかないから。


 振り下ろされたかぎ爪が、二曹の左肩を割る。

 鎖骨が砕ける音が響く。

 かまわず彼は、右手でリッチの腕を鷲掴みした。


「いまだ!」


 動きを封じた。

 森住さんの叫びが終わるより前に、右からみなみが左から俺が斬り込む。


 ここが正念場だ。

 一気に倒しきる。

 リッチの再生能力をこえる速度で。


「おおおぉぉぉぉっ!!」


 雄叫びとともに繰り出すPKミツタダ。


 もっと速く!

 もっと鋭く!!

 もっと強く!!!


 酷使に耐えかねたように両腕から血がしぶく。

 血管や筋肉が裂けているのだろう。

 かまうもんか!


「ぅらぁぁぁぁっ!!」


 縦横に斬りつける。

 みなみもまた似たような状態だ。


 三人に共通した思いである。

 ここで決着をつけるのだ。


 絶対に!


 永遠とも思える数瞬。

 無限の攻防の果てに、どさりとリッチが倒れた。


 まだ油断はできない。

 新函館北斗駅の戦いでは、その状態から復活したのだから。


 慎重に、俺はリッチの頭部にPKミツタダを突き刺す。

 みなみは胸骨を砕き、森住さんが腰骨を粉砕した。

 そこまでして、ようやくリッチの身体が灰化をはじめる。


「やっとかよ……」


 攻撃の手を止める俺。両腕の修復がスタートする。


「とんでもない相手でしたわね」


 やり遂げた表情のみなみが左右のPKブレイドを消した。


 三人ともけっこう満身創痍である。

 森住さんは左肩を割られてるし、みなみは野戦服がざっくり裂けてお腹が見えてる。ちなみにさっきまで腸が顔を出してました。ぐろいっすね。


 俺も、あちこち殴られたり刺されたりして、身体中穴だらけだな。

 量産型能力者(PA)じゃなかったら、五、六回は死んでる感じ。


「きつかったぁ……」


 どっかりと地面に座り込む。

 終盤、魔法を使わせないでこの有り様だよ。


 函館方面で、もうリッチが何体か倒されたらしいけど。倒した連中もバケモンだね。こいつは。

 あれかね。御大将以下の本隊ってことかな。みなみの組織の。

 おっかねぇ。


「ステラたちも終わったみたいですわね」


 みなみが指さす方に視線を送れば、CRFの前輪が最後のゾンビの頭を踏みつぶすところだった。

 たぶんもうPKランスを維持できなくなってるんだな。

 疲れすぎて。


 最初からこの場所で戦い続けてるんだから当然だ。


「これで、無事に脱出できるな」


 ふうと息を吐いた俺に、みなみが半眼を向けた。


「そういうセリフはフラグですわよ」

「おいおい。やめてくれよ。これ以上……」

「めんどくさいのを倒してくれたようだな。礼を言うぞ。小童よ」


 俺の言葉を遮り声が響く。

 ぎょっとして視線を巡らせると、パノラマ館の屋根に人の姿。

 カーミラだ。


「ほらやっぱり」


 みなみが肩をすくめる。

 疲れ切った顔で。


 そんな目で見ないで。

 まるで俺が悪いみたいじゃん。

 つーか、逃げ去ってなかったのかよ。女吸血鬼。





「ラスボスは、変身するもんだからな」


 的はずれなことを言って、森住さんが構えをとる。

 変身したわけじゃないでしょ。あれは。


 別口のラスボスですよ。

 俺も地面から立ちあがり、PKミツタダを出現させた。


 ありゃま。可愛らしい大きさだこと。


 本来は打刀のはずなのに、どうみても小刀サイズである。

 横に立ったみなみのPKブレイドも、PKベティナイフって感じだし。


 さすがにやばいかな。

 こいつは。


 ステラは得物を出せないほど疲れ切ってるし、森住さんの骨折は回復までまだ時間がかかるだろう。

 つまり超能力者としての武器(・・)は、もうほとんどないってこと。


 もちろん俺たちには常人に数倍する身体能力があるけど、それだってこんなに疲れてたら十全には発揮できない。


「強がりはやめておくことじゃ。どうみても戦える状態ではあるまいに」


 右手を口に当てて女吸血鬼が笑う。

 知ってるよ。

 だけど、はいそうですかって降伏なんかできないでしょ。


「うっせ。男には、負けると判っていても戦わなくちゃいけないときがあるんだよ」


 にらみつける。


「陳腐よのう」


 ふわりと着地する女吸血鬼。

 くるか。

 身構える俺に右掌を向けた。


「礼を言う、というたであろう。小童よ」

「ぬ?」

「亡者どもの相手に辟易しておった。倒しきってくれたことに対する礼よ」

「ああ……」


 辟易っていうかさ、だいぶ自爆だよね。

 くさりかかってる死体を無造作に燃やしちゃったりしたら、そりゃあすごい臭いになるさ。

 しかもあいつら、そんな状態でも動き回るから、火事だって起きちゃうさ。


 うん。

 おおむねカーミラが悪い。

 考えなしに火焔魔法なんか使っちゃいけないんですよ。


「なんぞ言いたそうじゃの?」

「べつに? 尻ぬぐい大変だった。謝意は形のあるものでよこせ。なんて思ってないさ」

「ふん。言いおるわ」


 カーミラが鼻を鳴らす。

 べつに会話を楽しんでるわけじゃないよ。


 ちょっとでも時間を稼いで回復しようって腹なんだ。

 だから、みなみも森住さんも、ステラだって口を挟まずに体力の回復に専念している。


「まあ良い。妾にはもう戦う気はないのだからな」

「……なぜだ?」


 俺だって戦いたいわけじゃない。

 けど、ここで戦わないって選択をしようとするカーミラの思惑は知っておきたい。

 ぶっちゃけ、不気味すぎるよね。


 いまさらそんなことを言うなら、なんで田所ジジイを吸血したりみなみを誘拐したんだって話だ。


「興が削がれた。()れたちは、つまらん」


 吐き捨てるように言った。

 その瞬間、カーミラの姿が霧に変わり大気に溶けてゆく。


 えー?

 なにそれー?


 そんなことを言うために、わざわざ現れたのかよ。

 警戒を解かず、周囲の気配を探る俺の肩を、ぽんとみなみが叩いた。


「本当に去ったみたいですわ」

「……なんなんだよ。あれは……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ