怪物の国、北海道 7
俺とみなみの二人ではリッチに勝てない。
これはもう動かしがたい事実だ。
何度も戦ってるからね。いやってほど思い知らされてる。
だからそこに森住二曹が加わった。
二対一で勝てないなら、三対一ならどうだって話だ。
わかりやすいだろ?
ステラと自衛官三人はゾンビ担当。
だからこそ、序盤でできるかぎりゾンビを削ったんだよね。百近く残ってたら、四人ではしんどくなってしまうから。
ゾンビの残数は三十くらい。
そっちは頼んだぞ。ステラ。富士松三尉。
みなみの右回し蹴りがリッチの頭に決まる。
死体に衝突されてバランスを崩したところへの一撃だったから、避けようがなかったみたいだ。
二度三度と地面にバウンドしながら吹き飛ぶ。
量産型能力者のパワーで、しかもPKブレイドつきの蹴りだもの。
普通だったら、すっぽんと頭がもげても、まったくおかしくない。
吹き飛ばされただけで済んだ上に、空中で体勢を入れ替えて足からちゃんと着地するとか、たいがいバケモノ過ぎるよね。
さらの同時に魔法まで放っちゃうとか。
攻撃直後で防御態勢のとれないみなみの前に立ちふさがり、飛んできた闇色の矢をPKミツタダで叩き落とす。
「今ので倒せないとか。嫌になってしまいますわね」
「ぼやくなぼやくな。強敵なのは最初から判っている」
辟易したようなみなみの横をすりぬけ、森住二曹がリッチに肉薄した。
ジャブ、ジャブ、フック、ショートアッパー、ストレート。
矢継ぎ早に繰り出されるパンチ。
猛ラッシュに防戦一方となったリッチが距離を取ろうとする。
これだけの連続攻撃をさばいたら、とても反撃どころではないのだろう。
俺やみなみのような、刀剣による攻撃ではない。
とにかく手数が多いのだ。
相手が一歩退けば二歩踏み込む勢いで、攻撃を続ける森住二曹。
俺とみなみも左右から回り込み、ざすざすと手を出してゆく。
魔法なんぞ使わせないぞ。
かなり深入りしてるから、俺もみなみも、正面に立ってる森住さんも傷だらけだ。
ぶっちゃけ、斬ったのと同じくらいの回数、殴られたりかぎ爪で刺されたりしてる。
三対一でもこのありさまだ。
だからこそ退くわけにはいかない。これで魔法までフリーハンドで使われたら、とても勝算の立てようなんかないから。
振り下ろされたかぎ爪が、二曹の左肩を割る。
鎖骨が砕ける音が響く。
かまわず彼は、右手でリッチの腕を鷲掴みした。
「いまだ!」
動きを封じた。
森住さんの叫びが終わるより前に、右からみなみが左から俺が斬り込む。
ここが正念場だ。
一気に倒しきる。
リッチの再生能力をこえる速度で。
「おおおぉぉぉぉっ!!」
雄叫びとともに繰り出すPKミツタダ。
もっと速く!
もっと鋭く!!
もっと強く!!!
酷使に耐えかねたように両腕から血がしぶく。
血管や筋肉が裂けているのだろう。
かまうもんか!
「ぅらぁぁぁぁっ!!」
縦横に斬りつける。
みなみもまた似たような状態だ。
三人に共通した思いである。
ここで決着をつけるのだ。
絶対に!
永遠とも思える数瞬。
無限の攻防の果てに、どさりとリッチが倒れた。
まだ油断はできない。
新函館北斗駅の戦いでは、その状態から復活したのだから。
慎重に、俺はリッチの頭部にPKミツタダを突き刺す。
みなみは胸骨を砕き、森住さんが腰骨を粉砕した。
そこまでして、ようやくリッチの身体が灰化をはじめる。
「やっとかよ……」
攻撃の手を止める俺。両腕の修復がスタートする。
「とんでもない相手でしたわね」
やり遂げた表情のみなみが左右のPKブレイドを消した。
三人ともけっこう満身創痍である。
森住さんは左肩を割られてるし、みなみは野戦服がざっくり裂けてお腹が見えてる。ちなみにさっきまで腸が顔を出してました。ぐろいっすね。
俺も、あちこち殴られたり刺されたりして、身体中穴だらけだな。
量産型能力者じゃなかったら、五、六回は死んでる感じ。
「きつかったぁ……」
どっかりと地面に座り込む。
終盤、魔法を使わせないでこの有り様だよ。
函館方面で、もうリッチが何体か倒されたらしいけど。倒した連中もバケモンだね。こいつは。
あれかね。御大将以下の本隊ってことかな。みなみの組織の。
おっかねぇ。
「ステラたちも終わったみたいですわね」
みなみが指さす方に視線を送れば、CRFの前輪が最後のゾンビの頭を踏みつぶすところだった。
たぶんもうPKランスを維持できなくなってるんだな。
疲れすぎて。
最初からこの場所で戦い続けてるんだから当然だ。
「これで、無事に脱出できるな」
ふうと息を吐いた俺に、みなみが半眼を向けた。
「そういうセリフはフラグですわよ」
「おいおい。やめてくれよ。これ以上……」
「めんどくさいのを倒してくれたようだな。礼を言うぞ。小童よ」
俺の言葉を遮り声が響く。
ぎょっとして視線を巡らせると、パノラマ館の屋根に人の姿。
カーミラだ。
「ほらやっぱり」
みなみが肩をすくめる。
疲れ切った顔で。
そんな目で見ないで。
まるで俺が悪いみたいじゃん。
つーか、逃げ去ってなかったのかよ。女吸血鬼。
「ラスボスは、変身するもんだからな」
的はずれなことを言って、森住さんが構えをとる。
変身したわけじゃないでしょ。あれは。
別口のラスボスですよ。
俺も地面から立ちあがり、PKミツタダを出現させた。
ありゃま。可愛らしい大きさだこと。
本来は打刀のはずなのに、どうみても小刀サイズである。
横に立ったみなみのPKブレイドも、PKベティナイフって感じだし。
さすがにやばいかな。
こいつは。
ステラは得物を出せないほど疲れ切ってるし、森住さんの骨折は回復までまだ時間がかかるだろう。
つまり超能力者としての武器は、もうほとんどないってこと。
もちろん俺たちには常人に数倍する身体能力があるけど、それだってこんなに疲れてたら十全には発揮できない。
「強がりはやめておくことじゃ。どうみても戦える状態ではあるまいに」
右手を口に当てて女吸血鬼が笑う。
知ってるよ。
だけど、はいそうですかって降伏なんかできないでしょ。
「うっせ。男には、負けると判っていても戦わなくちゃいけないときがあるんだよ」
にらみつける。
「陳腐よのう」
ふわりと着地する女吸血鬼。
くるか。
身構える俺に右掌を向けた。
「礼を言う、というたであろう。小童よ」
「ぬ?」
「亡者どもの相手に辟易しておった。倒しきってくれたことに対する礼よ」
「ああ……」
辟易っていうかさ、だいぶ自爆だよね。
くさりかかってる死体を無造作に燃やしちゃったりしたら、そりゃあすごい臭いになるさ。
しかもあいつら、そんな状態でも動き回るから、火事だって起きちゃうさ。
うん。
おおむねカーミラが悪い。
考えなしに火焔魔法なんか使っちゃいけないんですよ。
「なんぞ言いたそうじゃの?」
「べつに? 尻ぬぐい大変だった。謝意は形のあるものでよこせ。なんて思ってないさ」
「ふん。言いおるわ」
カーミラが鼻を鳴らす。
べつに会話を楽しんでるわけじゃないよ。
ちょっとでも時間を稼いで回復しようって腹なんだ。
だから、みなみも森住さんも、ステラだって口を挟まずに体力の回復に専念している。
「まあ良い。妾にはもう戦う気はないのだからな」
「……なぜだ?」
俺だって戦いたいわけじゃない。
けど、ここで戦わないって選択をしようとするカーミラの思惑は知っておきたい。
ぶっちゃけ、不気味すぎるよね。
いまさらそんなことを言うなら、なんで田所ジジイを吸血したりみなみを誘拐したんだって話だ。
「興が削がれた。汝れたちは、つまらん」
吐き捨てるように言った。
その瞬間、カーミラの姿が霧に変わり大気に溶けてゆく。
えー?
なにそれー?
そんなことを言うために、わざわざ現れたのかよ。
警戒を解かず、周囲の気配を探る俺の肩を、ぽんとみなみが叩いた。
「本当に去ったみたいですわ」
「……なんなんだよ。あれは……」




