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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第4章 怪物の国、北海道
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怪物の国、北海道 6


 サイコキネシスの剣を振り回しながら遮二無二(しゃにむに)突進する。

 狙いはリッチではなくゾンビ。


 五匹十匹と血祭りにあげながら、急速に方向転換して坂を駆け上る。

 突撃に見せかけた撤退だけど、これ一回使っちゃってるからね。


「追いかけてきた追いかけてきた!」

「そりゃそうですわ」


 後方から、どっかんどっかん魔法が飛んでくる。

 リッチさんも、とくに惑わされずに追いかけてきているようだ。


 みなみが差し出した手を握る。

 や。

 思わず普通に繋いじゃったけど、これなんの意味あるんだ?


「映画の『卒業』みたいになりましたわ」

「そんなばかな」


 逃げてるってのとウェディングドレスしかあってない。

 すくなくとも、あのラストシーンは後ろから撃たれてないし、花嫁のドレスはこんなにボロボロじゃないって。


 どんな卒業だよ。

 この支配からの卒業か?


 ほんの数秒の疾走で、パノラマ館が見えてくる。

 高く低く響く銃声。


「まだ逃げてないのか!?」


 ダメだって。

 待たないで逃げろっていったじゃん。


「拓真! みなみ!!」


 俺たちに気付いたのか、ステラが手を振る。

 バスを取り囲むゾンビは、残り二十ってところだ。

 もうすぐ全滅させられるな。


「ステラ。待っていてくれたのか」


 合流する俺とみなみ。


「避難者たちがね。二人が戻るまでテコでも動かないって頑張るから」


 肩をすくめる大陸的な美女。

 自衛隊員たちも苦笑だ。


 死地をくぐり抜けた仲間だから、ということなんだろう。

 ありがたいんだけどさ。


「戦況が良かったってのもあるけどね。でも、あと二十分待って戻らなかったら出発するつもりだったわよ」


 ゾンビは順調に倒せていたし、そもそも奴らを全滅させること自体は、悪いことでもなんでもない。

 状況が許すなら、一掃したほうが良いに決まっている。


「で、そっちはどうなの?」

「カーミラは逃げた。かわりにリッチがきた」

「新函館北斗にきたやつ?」

「たぶんそうだ」

「しつこすぎじゃね?」


 慌ただしく情報を交換し、ステラが嫌な顔をした。

 うん。

 俺だって辟易してるよ。


「さすがにずっと追いかけられるのも鬱陶しいな。ここで倒すか」


 森住二曹が提案し、富士松三尉を見る。

 国岡さんが亡くなった今、彼が実質的なリーダーだ。


「拓真くん。残りのゾンビはどのくらいだ?」


 その指揮官が、質問をする。

 たぶん百は切ってると思う、という俺の応えに大きく頷いた。


「よろしい。では戦おう」


 力強い言葉だ。

 彼もまた、延々と続く逃亡に嫌気が差しているのだろう。

 ものすげーストレスだからね。


 戦力の揃っている今なら、あるいは勝算が立つかもしれない。

 量産型能力者(PA)が四人。自衛官が三人。

 これか俺たちの最大戦力だ。


 もちろん疲労はあるし、弾薬の残量だって十全とはいえないだろうが、それがこれから改善する見込みはまず少ない。

 むしろ条件は悪くなってゆく一方だろう。


 なら、ここで決着をつけようって判断は、おかしくないと俺も思う。


 ギャンブルに出るなら余力のあるうちに。

 本気で追いつめられてから勝負に出たとしても、それで失敗したら後がなくなるだけだ。

 リッチと、ゾンビが百匹弱。


「よし。やるか」


 ぱん、と、俺は右拳を左掌に打ちつける。


「みなみは着替えてきなさいね。バスの中に野戦服の予備があるはずだから」

「そうですわね。全裸ドレスではさすがに裾が気になりますわ」

「うん。その情報はいらない」


 しっしっと手を振り、ステラが愛車のCRFへと向かう。


 すごくどうでも良いんだけど、こいつらの組織ってホンダ車ばっかりだね。

 軽自動車はN-WGNだし、御大将が乗ってたのはNM4だったし。

 もしかしたらバックに本田技研がいるとか?


「さあ。そろそろお出ましだぞ」


 俺のくだらない思考を遮るように、森住二曹が警告した。

 こっちにいたゾンビの、最後の一匹を打ち倒しながら。


 ぞろぞろと坂を上ってくる不死の軍団。

 これはこれで不気味である。


 が、これまでほどの迫力はない。

 数が少ないってのも、もちろんあるだろう。


 百以下って数字がかなり少なく感じてしまうのは、俺もだいぶ病んでいるだろうけど。


 まずは富士松三尉をはじめとした自衛官三名が前に出て突撃銃を構える。

 遠距離攻撃だ。


 接近されるまで、できるかぎり数を減らす。

 たたたた、と、連続する発射音。

 次々とゾンビどもが倒れてゆく。


 初撃の戦果は、十五から二十ってとこかな。上々だ。


 いきなり一割以上がやられたら、普通は戸惑うものだろうけど、もちろんゾンビにそんな可愛げはない。

 倒れた仲間を踏み越えて、とくに速度を落とすこともなく進んでくる。

 陣形もなにもなく。


「何度見ても、ぞっとする光景ですわね」


 着替えを終えたみなみが横に立つ。

 自衛隊の野戦服が、びしっと決まっていた。


「まあ、ノーパンノーブラの事実は動いてないのですけれど」

「うん。その情報いらない」


 黙ってれば判らないよ。

 なんでわざわざ申告するんだよ。

 思わず胸元をみちゃったじゃない。


「拓真さんえっちですわね」

「いまの俺が悪いの!? そんなに俺が悪いの!?」


 漫才の間に、自衛官たちが後列に下がる。

 まだ充分に距離があるが、ぎりぎりまで引きつけるというわけにはいかないのだ。

 このあとに近接戦闘組が控えているのだから。


 爆音を轟かせてステラのCRFが飛び出す。左手にはPKランスの眩い輝き。

 鋭いナイフで布地を切り裂くように、ゾンビどもの間をぶっちぎってゆく。

 入れ違いざまに、五匹十匹とゾンビの頭を吹き飛ばしながら。


「やるねえ」


 下手な口笛を吹くのは森住さんだ。

 ステラのCRFが敵陣を突き抜けたら、いよいよ俺たちの出番である。


 横列で突っ込む。

 中央が俺、左翼が森住さんで右翼がみなみだ。

 なんで俺が真ん中なのかっていうと、一番弱いから。

 哀しいことに。


 外側に回り込まれないようにって配慮しながら戦うとか、まだまだ俺の力量じゃ難しい。

 ひたすら前進して攻撃っていう、簡単なポジションをつとめるのは、むしろ当然だろう。


「うおおおっ!!」


 PKミツタダを両手持ちにして、先頭のゾンビに斬りかかる。

 一閃で一匹。二閃で二匹。

 確実に、だが手早く。

 反撃の余地を与えることなく。


 そうこうするうちに、敵陣の後方でジャックナイフターンを決めたステラが、再突入を開始する。

 挟撃だ。


 まあ、そういうので動揺するような感性を、ゾンビはとっくに失っているだろうけど。

 ごりごりと敵の戦力を削ってゆく。


「遠距離支援。きますわよ」


 みなみの警告。

 次の瞬間、後方から自衛隊の射撃がはじまった。


 たった三人しかいないので密度はそれほど高くないが、そのぶん精密にゾンビどもを倒してくれる。

 時間にして十五秒ほど。


 その間、俺たちは飛んだり跳ねたりせず、正面の敵にのみ集中だ。

 射線に入ってしまうと邪魔になるからね。


 一斉射撃がやむと同時に、ステラが敵陣を突破して合流する。


「何匹やっつけた! ステラ」

「二十五から三十ってとこよ! 森住さん!」


 ごく短く戦果を報告し、ふたたび唸りをあげるCRF。

 今度は敵陣を反時計回りにまわりこんで、横からの突撃だ。


 もちろん俺たちもぼーっと見ているわけじゃない。

 それぞれの得物を振るって、着実にゾンビの数を減らしてゆく。


 たった七人の戦闘部隊。

 十倍以上の敵を圧倒する。


「よう。さっきぶりだな。リッチ野郎」


 俺は唇を歪めた。

 ついに分厚い防御陣が崩れ、大将たるリッチの姿が露出した。

 右腕のかぎ爪は、忘れようったって、忘れられるもんじゃない。


 ガイコツの虚ろな眼窩に赤い光が灯っている。

 ぐっと踏み込んでPKミツタダを一閃。

 かぎ爪と斬り結んだ。


 周囲に降り注ぐ攻撃魔法。

 これまでなら、ここで飛び離れるしかなかった。

 が、いまはひと味違う。


「破っ!」


 裂帛の気合いとともに繰り出された森住二曹の拳がゾンビを吹き飛ばし、哀れな死体がリッチに衝突する。

 横合いから。


 おもわぬ方向からの、事故のような攻撃に蹈鞴(たたら)を踏むガイコツ。


 そこにみなみが突撃(チャージ)を仕掛ける。

 振り抜かれる右足。

 爪先に、PKブレイドの青い光を灯して。


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