怪物の国、北海道 5
ほんっと意味わかんねえな!
あのバカ吸血鬼女!
なにしに出てきたんだよ!
ゾンビパンデミックの尻馬に乗って何かしようと企んだ、というよりも、単なる騒動好きか。
ハロウィンの渋谷交差点に現れるパリピみたいに。
迷惑度合いではどっちもどっち……いや、さすがにカーミラの方が迷惑か。
火事を起こした、という意味合いにおいて。
いくらパリピといえども、さすがに放火まではしないだろう。
「田所さんも吸血鬼化させましたし」
「そこは無罪でいいよ」
みなみの言葉に人の悪い笑みを向ける。
あいつに関しては、吸血されようがゾンビに咬まれようが、ぶっちゃけどうでも良い。
あと余罪は、みなみを誘拐してえっちいことをしようとしたくらいだ。
そこは万死に値するけどな。
「とはいえ、強敵が一人消えた。大事なのはそこだ」
「そうですわね」
なんのために出たきたのか、さっぱりわからないけど、消えたのなら問題ない。
検証に関しては俺たちの任ではなく、組織の分析班なり戦略立案部門なりの仕事だろう。
できることは報告くらいかな。
女吸血鬼カーミラが現れたって。
いまは目前の敵に集中しよう。
武器を構える俺とみなみ。
リッチと、数を減らしたとはいえゾンビ軍団が百三十くらい。
なかなか素敵な戦力差だ。
しかも建物は火災の真っ最中。
スプリンクラーとかが作動しているだろうから、極端に燃え広がったりはしないだろうけど、このまま放置ってのはさすがにまずい。
なんとか消し止める手段を講じないと。
リッチを倒してから、という話だけどね。
「いきますわよ!」
「あいよ!」
同時に斬り込む。
迎え撃つリッチ。魔法とかぎ爪で。
遠距離も近距離も自在ってのは、本気で厄介だよな。
こちとら近接戦闘しかできないっつーの。
次々飛んでくる魔法を回避しながら踏み込み、PKミツタダを振るう。
俺だけでなく、みなみも。
ガキンガキンと非音楽的な音が響く。
それにつられるようにゾンビも集まってきた。
もう!
きりがないのよ!
ゾンビはまだ百以上のこってるうえに、リッチは片手間で戦えるほど楽な相手じゃない。
どうしろってんだ。
そう思いつつ、横薙ぎに払ったPKミツタダ。
一匹を狙って二、三匹の頭を吹き飛ばす。
「あれ?」
威力が上がってる?
そんな馬鹿な。
休息をとっているとはいえ、朝から戦い続けているのだ。
マジックポイント、なんて便利な数字はないけど、疲労が蓄積しつつあるのは自覚してる。
ぶっちゃけ、ここから先は威力が下がることはあっても、上がることはないだろう。
「どういうことだ?」
「援軍ですわ」
喜色満面のみなみが応えてくれる。
本気で嬉しそうっていうか、なんか目が恋する少女の瞳だ。
なんなんだ?
俺が質問を発するよりはやく、虚空からバイクが出現する。
爆音とともに。
ナニソレナニソレ!
漆黒のホンダNM4。運転してるのは男でタンデムシートには女かな?
フルフェイスのヘルメットのせいで顔はみえない。
「御大将!」
駆け寄ろうとするみなみを、男が左手を挙げて制する。
え?
この人が組織のリーダーとか、そういう存在なの?
「ごめん。八雲町から火災発生の一報をうけて跳んできただけなんだ」
援軍を出す余裕はなくて、と、詫びてる。
若い声だ。
俺と同じか、せいぜいちょっと上くらいかな。
優しげな感じの声。
それから後部座席を振り返えれば、女が軽く頷き燃えてる建物を指さす。
たったそれだけ。
しゅん、て、音が聞こえそうな勢いで火が消えた。
意味わからん!
あまりの出来事に、俺だけでなくリッチまで呆然としちゃってるよ!
「ほんとごめん。すぐ戻らないと」
その場でターンを決めて、函館方面へと走り去るNM4。
タンデムシートの女がぶんぶんと腕を振る。
進路上にいたゾンビの頭がとぶ。
すぽぽぽーん、て勢いで。
「えー? なにそれー?」
「インビジブルエアカッター。奥方さまの技ですわ。相変わらず常識を蹴り飛ばしてますわね」
みなみさんの解説です。
あの女の手の先からは見えない真空の刃が出ていて、射程も太さも自由自在なんだそうだ。
わけわかめですよ。
そうこうしているうちにバイクが消えた。
現れたときと同様に、唐突に。
OK。
ちょっと落ち着こう。
俺もたいがい非常識な存在になったとは思うんだけど、いまのはなんなん?
マンガなん?
「有視界テレポート。御大将の能力ですわ」
「もうなんでもいいっす……」
「火事を消したのは奥方さまですわね。たぶん風を操ったのではないかと」
「…………」
ぼくね。
ちょうのうりょくしゃになったんだ。
すごいつよいんだっておもってた。
でも、ぜんぜんそんなことなかったんだ。
うえにはうえがいるんだね。
思わず思考が平坦になっちゃったよ。
量産型能力者は、いわゆる超能力者のなかでは最低ランクだってのはきいてた。
下僕吸血鬼より弱いって。
けど、いまのは桁が違いすぎて、現実感すらなくしてしまうね。
「呆けている暇はありませんわ。拓真さん」
ふんすとみなみが鼻息を荒くする。
俄然やる気になってる。
御大将の登場で。
つーか、ちょっと妬けるね。
好感度の差っていうか、その心酔っぷりに。
苦笑とともに、PKミツタダを構える。
ふむ。
やっぱりパワーが強くなってる。
あと、疲労感も軽減された気がする。
これはなんなんだろう?
「能力増幅。これも御大将の能力ですわ。眷属の力を何十倍にも高めてくれますの」
みなみのPKブレイドの輝きも増している。
すげーな。
つーか、俺たち量産型能力者って、あの人の眷属なんだ。
やばいな。北海道。
モンスターランドかよ。
駈ける。
迫りくる魔法を回避しながら。
やっぱり疲れが取れてる。感覚的には、『アップル温泉』での戦いくらいまで。
しかもPKミツタダまでパワーアップしてるし。
「いける!」
回避から一転。
ぐんと加速して接近。
矢継ぎ早に斬撃を繰り出す。
が、すべてかぎ爪で弾かれた。
やっぱリッチ強い。
この速度で斬り込んでもだめか。
攻め続ける不利を悟り、一度おおきく跳んで距離とる。
そこに狙いすましたような攻撃魔法。
ていうか狙ってやがったか!
空中ではかわせない。
直撃しそうなヤツだけを叩き落とそうとPKミツタダを前に出す。
と、そのとき、走り込んだみなみが正面に立ちふさがり、左右のPKブレイドをふるって守ってくれる。
「かかりすぎですわ。拓真さん」
「わり!」
「パワーアップしたとはいえ、私たちの方が全然弱いのですから」
「そうみたいだな」
なんて哀しい現実だ。
とはいえ、守るばっかりでは勝てない。
ゾンビの数だって減らない。
そもそも場所が悪いのだ。
だだっ広い駐車場なんかで戦ったら、そりゃ数の多い方が有利に決まってる。
しかも相手は損害を意に介さないんだから、なおさらだ。
「ここは撤退ですわね」
「くっそう。たたみかけたかったなあ」
だから、みなみの提案は非常に理に適っている。
火事も消えたし、ここでの戦いにこだわる必要なんかない。
せめて、俺たちの機動力である軽自動車のところまで移動するのが上策だろう。
判っているのに、やっぱり悔しい。
御大将とやらの登場で、俺たちの能力は引きあげられた。
このチャンスを活かさない手はないって思っちゃうんだよなあ。
「一時的なものですわ。それにあの方が現れたのは、あくまでも消火が目的ですもの」
変な欲は出さないに限る、と、みなみが肩をすくめる。
判ってはいるんだけどね。
能力の底上げがされているといっても、御大将がこの場を離れた今となっては、じきに元に戻ってしまうだろう。
みなみが言うように、一時的なものなのだ。
つまり、パワーアップしている状態を標準設定と考えてはいけない、ということ。
俺は好機を見たけど、みなみは危機を見た。
それは戦士と素人の違いだろうか。
「クレバーだな。ホントに」
「いっかい押し出して、逃げますわよ」
「あいあいさ」




