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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第4章 怪物の国、北海道
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怪物の国、北海道 4


 俺たちも大変だけど、カーミラもなかなか苦戦を強いられてる。

 あいつにとってゾンビなんか、敵でもなんでもないんだろうけど、とにかく数が問題だ。


 倒しても倒しても押し寄せてくるし、三日目の死体はけっこーやばい臭いを放っている。

 そんなのが周囲に折り重なっていくんだから、そりゃもうひどいもんですよ。


「煉獄の炎よ……」


 で、ついにぶち切れたのか、なにやら唱えはじめた。

 なにやらっていうか、あきらかに呪文の詠唱っぽいね。


 次の瞬間。


 カーミラの周囲に、巨大な火柱が立ちあがった。

 そしてそれが、不規則な機動で動き始める。


 うわぁ。

 なんか、リッチが使ってるような飛んでくるヤツじゃないっぽい。


 もしかして一気にゾンビを焼き払おうって魂胆か?

 ていうかこっちにも向かってきてるし!


「やばい! みなみ!!」

「わかりましたわ!」


 呼吸を合わせて、大きく跳びさがる。

 計算もなにもなく、単なる逃亡だ。

 とにかく距離を取る。巻き込まれるのはまずい。


「みなみ。スカートをくれ」


 全力ジャンプだから、けっこうな高さまで飛びながら頼み込む。


「この変態! なんてこというんですの!!」


 空中でスカートを押さえるみなみ。

 器用である。


 べつに脱げといってるわけじゃないから!

 そもそもそれセパレートタイプじゃないだろ!


「煙に巻かれるぞ!」

「なるほど! 言い方が変態だっただけですわね!」


 異議あり。

 俺はおかしなことはいっていない。スカートの裾を切って簡易マスクを作ろうとしただけだ。


 魔法の火柱から大きく距離を取って、ふうわりと着地する。

 スカートの裾がめくれあがらないよう、みなみはサイコキネシスで押さえながら。

 超能力の無駄遣いだが、下がノーパンなのでやむなしだ。


 すぐにPKブレイドで布地を切り裂く。

 ぐるっと一周。すごいな。一メートル以上あるんじゃね?

 感心しつつ口と鼻を覆うようにぐるぐる巻きにする二人。


 すでにかなりヤバめな臭いが漂っている。

 中心部にいるカーミラはかなり苦しそうだ。


 おバカ吸血鬼め。


 人間だったゾンビを燃やしたら、どうなるかって話である。

 そもそもそんなんで解決するなら、ゾンビ映画の究極兵器は火焔放射器になってしまう。


 ひどい臭いと煙なのだ。

 焼肉店みたいな美味そうな匂いがすると思ったら大間違いである。

 なにしろ、髪も臓物もそのままだからね。

 あと服とかも。


 きちんと下処理した肉とは、まったく違うわけですよ。

 疑うなら、自分の髪の毛を一本抜いて、それにライターで火をつけてみると良い。

 後悔すること請け合いだ。


「距離を取ろう」

「賛成ですわ」


 もう戦域にこだわってる場合ではない。

 とにかくこの煙と臭いから逃げなくては、戦うどころではないのである。


「くっ! みなみ!!」


 後退をはじめた俺たちに迫る闇の矢。

 みなみを狙ったそれを、間一髪PKミツタダで両断する。


 のそりと、ローブ姿のガイコツが近づいてきた。

 部下が燃やされてるのは、とくに気にならないらしい。

 さすが不死の王(ノーライフキング)。冷徹なことである。


 あと、嗅覚とかなさそうだね。

 悪臭も煙も、まったく気にしてない感じだ。


 カーミラが馬鹿な攻撃をやっちゃったせいで、リッチが前線に出てきてしまった。

 しかも俺たちの方に。


 まったく。

 吸血鬼ってのはろくなことしないな!





 さて、どうしたものか。

 さしあたり、俺たちのほうに向かってきてるのはリッチだけ。


 考えようによっては、カーミラが大量のゾンビを引きつけてくれているわけだけど、残念ながら感謝の念は湧いてこない。

 むしろ、俺たちがゾンビの相手をするから、あんたはリッチと戦ってくれって感じだ。


 で、相打ちになってくれたら最高。


 しかし現実は、カーミラのバカが盛大に火焔魔法なんぞを使ったせいで、ゾンビは燃えてるわ、そのへんの建物にも火が広がってるわ。

 大変なことになっているのだ。


 ほんっと勘弁してください。

 いま消防車とかこないんだからさ。


「どうします? 拓真さん」


 やや不安そうなみなみ。

 気持ちは判る。


 最大の技をぶつけたのに、再起しちゃったからね。このリッチ。

 同じ手は使えない。


 朝の段階に比べれば、俺もパワーアップしてはいるけど、このバケモノを倒すほどではないだろう。

 けど、絶望するにははやいよ。みなみさんや。


「何体か倒されてるんだろ。こいつらは」

「ええ。そうですわね」

「だったら、俺たちには倒せないって話にはならないさ」


 に、と、笑ってみせる。


 同時に突進。

 大上段から斬りつける。


 さすがにPKミツタダの攻撃を受けるつもりはないのか、リッチが右に跳ぶ。


 うん。

 避けるってことはさ。その攻撃が有効だって証明なんだよ。


「そうですわね!」


 着地点に走り込んだみなみが、縦横にPKブレイドを振るった。

 美しい顔に、もう怯懦はない。


 この連携は予測していなかったのか、リッチの対応が一瞬だけ遅れる。

 回避が間に合わず、斬り飛ばされる右腕。


 チャンス!

 俺はPKミツタダを水平に構えて鋭く突き込む。


 が、それは音高く弾かれた。

 なんと、斬り飛ばされたリッチの右腕が復元して、PKミツタダを防いだのだ。

 いや、この表現は正しくないな。


 腕は復元してない。

 なんか、ショーテルみたいな形の、いかにも義手って感じになってる。


「フック船長かよ」


『ピーター・パン』に登場する、主人公の宿敵だ。

 たしかピーター・パンに腕を切り落とされて、復讐を誓ったんじゃなかったかな。


「あれは左腕ですわよ。こいつは右腕がかぎ爪で、しかもガイコツなのですから、クリスタル・ボー」

「おっとみなみさんそこまでだ」


 危ない発言をしようとするみなみを遮る。

 なんでそんなもん知ってんだよ。

 生まれてないだろう。お前さん。もちろん俺だってね。


 遊んでる場合ではないのである。


 俺とみなみ、そしてリッチが正三角形の頂点に立つようなポジションをとる。等距離を維持することで、狙いを絞らせないという計算だ。

 小細工の域を出ないけどね。


 両手持ちしたPKミツタダを青眼に構える。

 といっても俺に剣道の心得はない。

 完全に得手勝手流だ。


 一方、みなみの構えはかなり堂に入ってる。右手のPKブレイドは順手に、左手のそれは逆手に。

 たぶん、というか間違いなく戦闘訓練を受けてるだろうしね。


 純白のウェディングドレスは、あちこち破れてる上に膝丈でばっさり切り落とされている。

 で、切り落とした布で口と鼻を覆ってるんだから、そうとう変な格好だ。


 まあ、俺もだけど。

 くろいTシャツとカーキのカーゴパンツ。手には作業手袋で口にはドレスの布。

 通報もんだよね。


「いくぞっ!」


 俺が斬り込む。

 危なげなく捌くリッチ。同時に闇の矢が飛ぶ。


 これが俺を目標に撃たれたなら可愛げがあるってもんたけど、狙いはみなみだ。

 突進の出鼻を挫かれ、その場に留まっての迎撃と回避に追われる。


 くっそ。

 そうなると、俺一人だけ突出しても意味がない。


 後ろにジャンプして距離を取る。

 魔法が追撃してくるが、これはPKミツタダで切りはらった。


 リッチも深追いはしない。

 闇の矢を消滅させたみなみが、突撃体勢を整えたから。


 うーん。

 千日手だな。


 俺たちとしては同時に仕掛けないと、まず勝算は少ない。

 逆にリッチは各個撃破したい。

 攻防は長時間にみえて、ほんの一分ほどだ。


 と、そのときである。


「つまらぬつまらぬ。妾はもう飽きたゆえ、退散しようかの」


 カーミラの声が響いた。


 ちょっ! おまっ!

 飽きたじゃねーよ!

 あきらかに事態が収拾できなくなったから逃げを打つつもりだよな!


 どうすんだよ。この惨状。


 周囲には悪臭と煙が立ちこめ、ゾンビの半分ちょっとくらいが、いまも絶賛延焼中だ。

 あげく燃えてるゾンビが動き回るもんだから、あちこちで火事までおきちゃってる。


「ではさらばだ」


 ぽむっと霧に変わって、女吸血鬼が空気に溶けてしまう。


 ホントに逃げやがった……。

 全部放置で。



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