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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第4章 怪物の国、北海道
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怪物の国、北海道 2


 ひらひらのドレスを着せられたみなみが、ホールのすみに追いつめられている。

 追いつめてるのは、なんかボンテージっぽい格好をしたカーミラだ。

 なんだこのシチュエーション。


「みなみ!」

「拓真さん!」


 叫んだ俺に、みなみが声を上げる。


 あー。

 ドレスはあちこち破れて、素肌が覗いちゃってるよ。

 ひどいことしやがって。


「カーミラ! 変態プレイはそこまでだ!!」

小童(こわっぱ)。呼ばれもせぬのに現れて、妾を変態扱いかえ」


 振り返ったカーミラが唇を歪める。

 すげー美人なだけに、こういう顔をするとものすごく怖い。

 びびってる場合じゃないけどね。


「式場に躍り込むのは、主人公の特権だろ」

「は。『卒業』のダスティン・ホフマン気取りとは恐れ入るのう」


 冷笑するカーミラ。

 吸血鬼のくせに、アメリカンニューシネマに詳しいじゃないの。

 むしろ俺が恐れ入るわ。


 けど、俺はベンジャミン・ブラドックほど不実でもいい加減でもないぞ。


 ラストでヒロインのエレーンを教会に奪いにいくのが有名だけどね。あいつ、エレーンの母親と不倫してたんだぜ。

 母娘どんぶりじゃねーか。


「どっちかっていうと、ヒロインのピンチに現れるヒーローさ。変態吸血鬼」

「汝れも女同士は不毛だとか宣う。ジェンダー論者かえ?」

「いいや。むしろ百合は好物だけどな。俺が変態っていったのはそういうことじゃねえよ」


 じりじりと距離を詰める。


 捕らわれたとき、みなみはカーゴパンツにTシャツという姿だった。

 そして今はドレスをまとっている。


 ということは、カーミラはみなみの衣服を脱がしているということである。さすがに作業ズボンの上からドレスは着れないからね。

 で、わざわざ着せた服をボロボロにしているわけだ。


 これを変態プレイといわずして、なんというのかって話なのさ。


「どんなに上品にいっても、風俗のイメージプレイってところだろ」


 ふんと鼻を鳴らしてやる。


「小童……」

「拓真さん……」


 半眼を向けられました。

 カーミラはともかくとして、みなみからまで。

 解せぬ。


 あ、俺は風俗とかいったことないから。大学一年生なんで。

 耳学問耳学問。


 ごほんと咳払い。


「みなみを返してもらうぞ」


 PKミツタダを構える。


 カーミラは変態だけど、油断できる相手じゃない。

 みなみが一度敗北しているのだ。

 不意打ちだったのに。


「片腹痛いわ。量産型風情が」


 ぶん、と、カーミラの姿が消える。

 そして俺の背後の壁が砕けた。


 本来であれば、ああなっていたのは俺の身体だっただろう。

 消えた瞬間に横っ飛びしたのだ。


「よくかわしたものよ」


 パンチ一発で壁を砕いたカーミラが振り返る。


「あんたが速いってのは、もう知ってるんでね」


 唇の端を持ち上げてみせた。

 視認できる速度じゃない。量産型能力者(PA)の動体視力をもってしても。


 なら、安全マージンをとって行動するだけ。

 ぎりぎりで避けるのではなく、二歩分三歩分を余計に回避する。

 そんな覚悟で戦場にででくるなっていわれるような臆病さで、大きく。


 そうすると、カーミラが煽ってくるはずだ。


「臆病なことよ」


 ほらね。


 彼女は俺がどうやって今の攻撃を予見したのか判らない。

 だから探りを入れる。

 煽りのかたちでね。


「戦場では臆病なくらいでちょうど良いのさ」


 もちろん俺に、そんなもんに付き合う義理はない。

 適当にとぼけるだけだ。


 種を明かせば、難しい話でもなんでもないんだけどね。


 伝説的な吸血鬼であるカーミラは強く、なりたて量産型能力者(PA)の俺は弱い。

 謙遜でもなんでもなく、これは歴然たる事実である。


 だからカーミラが俺ごときに対してフェイントとかを交えた攻撃をするわけがない。

 直接的に、ストレートに力押しだ。

 むしろ俺程度を警戒して慎重に動くとしたら、そっちのほうがびっくりである。


 量産型能力者(PA)の目にも止まらない、ものすげー速度での打撃。

 当たればもちろん即死だ。


 けどそれはようするに、その場にいなければ当たらないってこと。


「世迷い言を」


 ふたたびの突進。

 やはりそれは虚空を貫き、背後の壁を破壊するにとどまる。


「ばかな……なぜ当たらぬ」

「あんたの攻撃には魂がない。だから回避することなんか容易なんだよ」


 はい。

 うっそでーす。

 俺、回避なんてできてませーん。


 カーミラがモーションに入った瞬間に全力で逃げてるだけ。

 あたりまえだけど、反撃する余裕なんかない。

 ぶっちゃけ、事態の解決には一ミリグラムも役立ってないのさ。


 俺だけだったらね。


「ぐああっ!?」


 みたび消えたカーミラが壁を破壊した瞬間、その腹部が胴薙ぎにされる。

 みなみの仕業だ。


「よくも変態プレイに付き合わせてくれましたわね」


 左右の手にPKブレイドを出現させて。


「小娘っ!?」


 驚きの表情のまま、カーミラがバックステップで距離をとった。


 忘れてただろ?

 みなみも戦闘力を持ってるんだって。

 あるいは、量産型能力者(PA)のチカラなんて、そもそも眼中になかったかな?


 俺がカーミラの攻撃から逃げ回っている間に、彼女は理解してくれた。

 どういう意図で俺が動いているかを。


 さすが相棒にして師匠ですよ。


 俺は逃げるのに専念してカーミラの気を引く。攻撃が終わった瞬間を狙って、みなみが斬りつける。

 作戦ってほどのもんじゃない。


 ようするに、二対一っていう数的な有利さを使ってるだけ。

 いくらカーミラが強いっていっても、前後を同時に攻撃できるわけじゃない。左右を同時に守れるわけでもない。

 そういうことだ。


 普通の人間が相手なら、圧倒的な能力差でねじ伏せることができるだろうけどね。

 けど、俺たち量産型能力者(PA)だって、超人のハシクレなのさ。

 上手く立ち回れば、倒せないまでもダメージを与える程度のことはできる。


「いくぞ。みなみ!」

「承知いたしましたわ!」


 声を合わせて踏み切る。

 警戒し、身構えるカーミラ。


 ざーんねん。

 いまのもフェイクだよ。


 勇ましいかけ声と裏腹に、俺たちが刻んだステップはカーミラとは反対方向。吸血鬼が壊した壁の向こう側だ。

 つまり、逃走ですよ。逃走。


 こんなバケモノとまともに戦ってられるかってんだ。


「貴様ら!」


 嘲弄されたと思ったのか、カーミラが激昂して追いかけてくる。

 が、簡単には追いつけない。


 建物の中だからね。

 カーミラが全力疾走とかしたら、壁にぶつかりまくりだよ。


 もちろん壁を壊すことに躊躇いも遠慮もないだろうけど、それだけ時間をロスするんだ。

 建物を破壊しない程度の速度しか出せないのさ。

 お互いにね。


 そしてそういう力をセーブした行動は、俺たち量産型能力者(PA)のほうがずっと得意なのである。


「走りにくくないか? みなみ」

「ひらひらした服は好きですから問題ありませんわ。飛んだり跳ねたりはちょっとまずいですけど」

「なんで?」

ドレス(これ)のした、全裸ですの。めくりあがったらお尻が丸見えですわ」


 ぐはっ!

 変態変態! カーミラ変態すぎる!!


 全裸ドレスとか意味わかんないから。


「拓真さんがきてくれなければ、とても放送できないようなことをされていましたわ」

「間に合って良かったよ」


 ホント、心からそう思うぜ。

 みなみに最初にえっちいことをするのは、できれば俺でありたいもんだ。


「間に合ってなどおらぬわ。小童が」

「がっ!?」


 突如として横からの衝撃。

 弾き飛ばされた俺は、なんと壁を破って外の駐車場に転がり出てしまった。


 いってえ……。


 とっさに防御姿勢をとってなかったら、全身がばらばらになったんじゃないか?


「よくもこけにしてくれたものよ。量産型が」


 みなみの首を鷲掴みにして吊り上げながら、カーミラも出てきた。


「ぁ……ぐ……」


 息ができないのだろう、相棒の抵抗は微弱である。

 このままでは死んでしまう。

 いくら超能力者だって、呼吸できなきゃ死んじゃうのだ。


「らくに死ねるとは思わぬがよい」

「みなみを……はなせ……」


 よろよろと俺は立ちあがった。

 助けないと。

 もう小細工は通用しないだろうけど。


 と、そのときである。

 周囲に火の玉が降り注ぎ、爆発を巻き起こす。

 突然の攻撃に驚き、みなみの身体を投げ捨てる女吸血鬼。


 おいおい。

 こんどはなんだよ!


 駆け寄った俺が、スライディングしながら少女の身体を抱きとめた。

 


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