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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第3章 ゲームというには生臭すぎる
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ゲームというには生臭すぎる 7


「くそっ!」


 群がるゾンビどもを斬り捨て、なんとか安全地帯を確保する。


 田所は無視だ。

 好きにしろ。


 そんなことより、


「ステラ! 薬を!!」


 叫ぶ。

 量産型能力者(PA)だけがもっている特別な薬を要求して。


 あれによって、ゾンビに咬まれた俺は命長らえることができた。

 そして、量産型能力者(PA)となった。


「でも!」


 ウェストポーチに手をかけたまま、ステラがためらう。


 けちっているのではない。

 薬は一人分しかないのだ。


 国岡さんか森住二曹。どちらか一方しか助けることはできない。

 ステラは選ばなくてはならないのである。


 どちらを救うのか。あるいはどちらも見捨てるのか。

 どっちも助けるってのだけは、絶対にできないから。


「薬を、薬をよこしなさい!」


 焦った声で右手を伸ばすのは国岡さんだ。

 端然たる紳士が髪を振り乱し、生への渇望に目を血走らせて。


「そんな……でも……」


 ステラは、はいそうですかと従うわけにはいかない。

 彼女にも判っているからだ。


 初老の国岡さんと、若い自衛官の森住二曹。量産型能力者(PA)となったときに、どちらが戦力として役に立つか。

 この苦境を一緒に乗り切る相棒として、どちらが適しているか。


 それはステラでなくても判ることだろう。

 量産型能力者(PA)になった俺だけど、まともに戦えるようになるまでは、やっぱり少し時間がかかったからね。


「はやく!」

「…………」


 じりじりと迫る国岡さん。これほどの人でも死にたくないって思うんだろうね。

 森住二曹に、ステラが視線を送る。


 渡して良いのか? あなたは欲しがらないのか?

 という趣旨の、無言の問いかけだろうか。


 にかっと、若い自衛官が笑った。


「俺たち自衛隊は、民間人を守るために存在してるから」


 迷いのない言葉。

 腰につり下げた手榴弾を外す。


「最後は、二匹でも三匹でも道連れにしてやるさ」


 なんという覚悟か。

 生き汚くなってしまった国岡さんより、ずっと立派に見える。


 けど、森住さんを助けるべきなんじゃね、と、俺が口を挟むことはできない。

 みなみが俺に対して責任を持つように、ステラは自分が助けた相手に対して責任を持たなくてはいけないのだ。


 そこに俺の判断が入り込む余地はないし、惑わすようなことを言うべきでもないだろう。


 ゾンビを次々と斬り捨てつつ、じっと静観するのみである。


 一度だけ目を閉じ、小さく息を吐いたステラ。

 ポーチから取り出した小瓶を、国岡さんへと差し出した。


「……飲んでください」

「これが薬かっ!」


 ひったくるように手に取る。

 キャップを切り、そして、ずぼっと口に入れた。


「なっ!?」


 森住二曹の口に。


 特攻の準備をしていた彼は、回避することができなかった。


「飲みたまえ」


 優しげな国岡さんの声。

 自衛官が目を白黒させているのは、驚きと味の悪さかな。


 そんなことはともかく、演技だったのかよ。


 命汚く振る舞ってみせて、譲り合いになるのを避けた。

 責任感の強い自衛官は、こうでもしないと飲まないだろうと判断した。

 そういうことなんですか? 国岡さん。


「そのかわり、私はこれをもらおうか」


 森住二曹の手から手榴弾をもぎとった。


「拓真くん。ステラくん。二曹。短い間だったが、楽しかったよ」


 血に汚れた顔で笑う。

 ピンを抜き、大切そうに手榴弾を抱えて駆け出す。


「では、さようならだ」

「国岡さん……っ!」


 声を詰まらせるステラと、敬礼で見送る森住二曹。


 老紳士の姿がゾンビの波の中へと消える。

 爆音が轟いた。





「うおおおお!!!」


 突進した森住二曹が、ゾンビの顔面に拳を叩き込む。

 彼の怒りをあらわすように。

 ものすごい音を立てて弾け飛ぶゾンビの頭。血とか脳漿(のうしょう)とか、なんか撒き散らしながら。


「これ以上、もう誰も死なせないぞ!!」

「だからってグーパンはないと思うんですけど」


 PKミツタダを構えた俺が横に並ぶ。

 二人で殿軍(しんがり)を務めるような格好だ。

 ステラは先頭に立って避難者たちをバスへと誘導する。


 田所?

 知らん?

 勝手にどっかでゾンビに食われてろ。


「これは俺の怒りの拳だ」


 右手を掲げて見せた。

 あ。なんか青白く光ってる。


 もうPK(サイコキネシス)で武器を作れるんだ。すごいな。

 本人がいうように怒りのパワーとか、そういうやつかもしれないけどね。

 超能力は心のチカラだから。


 俺もPKミツタダを使うようになって、やっと判ったんだ。

 こうありたい、という強い気持ちが、ブレイドやランスになるんだよね。


 森住二曹の場合は、拳だった。

 国岡さんをみすみす死なせてしまったこと。彼の思いを託されたこと。いろんな思いのつまった炎の拳である。


「名前を付けるなら、PKバーニングナックル。いや、青い炎だからPKブルーファイアナックルかな」

「PKナックルでええのんちゃうんか?」


 せっかくナイスな名前をつけようと思ったのに、森住さんから半眼を向けられてしまった。

 解せぬ。


 ともあれ、二曹は俺との会話で幾分か冷静さを取り戻したらしく、力任せではなく効率的にゾンビを倒し、うまいこと時間を稼いでいる。


 具体的には倒したゾンビが、群れの方に吹き飛んでいくようなやっつけかたをしたりね。

 ステラのPKランスみたいに刺突ではなく、俺やみなみみたいな斬撃でもなく、衝撃(インパクト)系の技だから、相手を吹き飛ばすって使い方ができるんだ。


 頭を吹き飛ばしたあと、ボディに一発。

 ゾンビの死体そのものを砲弾がわりに使って足止め。

 これはこれで便利だなあ。


「まっこと、人間は戦い方を工夫するものよのう」


 突如として声が響き、避難者たちののろのろとした行軍が止まった。


 視線を転じれば、俺たちとバスの中間地点に女が立っていた。

 黒っぽいドレスをまとった、背の高い外国人の女性だ。


 ものすごい美人なんだけど、雰囲気の禍々しさといったらハンパない。

 ステラが声すら出せないくらいの威圧感だもの。


 あきらかに人間じゃないよな。こいつ。

 なにものだ?


「うあ……たすけ……たすけて……」


 そして、その女に襟首を掴まれ、引きずられるような格好の田所。

 まだ生きてるっぽいけど、どうでも良い。


 むしろ、国岡さんが亡くなったのに、なんでおめーが生きてんだよ。

 はやく死ねよ。

 ……口には出せないけどさ。


「他人を犠牲にしてまで生きようとしたこいつ。他人を助けるために魔物の群れに突っ込む男。その思いを受け継ぎ戦う若者」


 歌うように女が告げる。

 なんか怖い。


「妾としては、こいつが一番人間くさいように思うのう」


 ぐいっと田所を持ち上げる。

 左手一本で。


 やっべ。

 てっぷり脂肪のついたオッサンを、片手で軽々つりあげちゃってる。


「ゆえに、()れを下僕にしてやろう」

「ひいっ!?」


 言うが早いか、田所の首筋に牙を立てる。

 うわー 俺だったらあんなおっさんの噛み付くとか、ぜってーいやだ。

 田所の表情は怯えから驚愕へ、驚愕から恍惚へと変わってゆく。


 べつに見たくもないけど、目をそらすわけにもいかない。

 女の正体はあれだ。ヴァンパイアだ。


 ゾンビ、リッチときて、ついに吸血鬼まで登場しちゃったよ。

 どうなってんだ北海道。


 ファンタジーのアンデッドモンスターそろい踏みじゃないか。

 次はレイスかスケルトンでも出てくるのか?


「ばかな……バンパイアロードは滅びたはずだ」


 森住さんの驚きは、俺とは異なっていた。

 吸血鬼が実在するのがおかしいって感じではなく、もう吸血鬼は滅んだぞって。


 ようするにこの人は、バンパイアロード……つまりドラキュラかな? それが存在したことも滅んだことも知ってるってことだ。


「あの坊やだけが闇の眷属の系譜ではないでのう」


 くすくすと笑う。


「それなら、バンパイアロードと同様に滅ぼすだけですわ!」


 いつの間にか女の背後に現れたみなみ。

 PKプレイドをかざして斬りかかった。


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