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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第3章 ゲームというには生臭すぎる
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ゲームというには生臭すぎる 6


 ハイウェイオアシスの入口を示す看板がみえた。

 新函館北斗からの約五十五キロ。十五分は無理だったけど二十分ちょっとで走り抜けた計算である。


 量産型能力者(PA)としての動体視力がある俺たちは平気だけど、普通の人だったらちょっと怖かったかもしれない。

 大沼湖畔を抜ける曲がりくねった道を、時速百四十キロ近くで走り抜けるのは。


 ちなみに、軽自動車にはリミッターがあるので、百四十キロを超えると勝手に減速してしまう。

 そのためみなみは、リミッターが作動しないぎりぎりの速度を保ち続けた。


「いっきに突入しますわよ」

「あいよ!」


 減速することなくサービスエリアに侵入する。

 F1レーサー並のコーナリングで。


 目に映るのはバスを囲むゾンビども。

 百近くいるんじゃね? あれ。


「涌き続けてるのか!」

「厄介ですわね」


 バスの中から散発的に射撃がおこなわれ、ソンビを打ち倒しているものの、さしたる効果は得られていない。

 焼け石に水って言葉のとおりだ。


 仕方がない。

 自衛官は四人しかいないのである。どれほど絶倫の射撃技能があろうと百に迫ろう相手に戦いようもない。

 しかもゾンビたちって頭を潰さないと動き続けるしね。


「ここは引き受けますわ。拓真さんは建物を」

「合点承知の助!」


 スピンするように止まった軽自動車から、まずは俺が、続いてみなみが飛び出す。

 手にはすでに得物が握られている。


 二手に分かれるのは仕方がない。

 建物のなかには、国岡さんや田所ジジイもいるだろうし、たぶんステラもそっちだ。

 駐車場に姿がないからね。


 てことは、バスの側には量産型能力者(PA)がいないわけで、こっちを優先的に援護しないとどうもならない。

 そしたら、より強いみなみが向かうのは当然。


 俺は噴火湾パノラマパークの中に入り、そっちに残ってるメンバーを救出するのだ。

 高速で駈ける。


 正面立ちふさがるゾンビどもを、PKミツタダで斬り捨てながら。

 全部は相手にしない。


 出会ったばかりのころのみなみじゃないけど、いちいち相手にするのは足止めされているのとおなじだ。

 道だけ開けば問題ない。


 PKミツタダを両手持ちしたまま入口の自動ドアをくぐる。

 電気が普通に生きてるのも善し悪しだよね。


 よくあるゾンビ映画みたいに停電状態だったら、自動ドアが開くこともなく、そこからゾンビが入ってくることもなかったのに。

 あー でも、ガラスを破られる可能性はあるか。


「ステラ! どこだ!」


 そんなことを考えながら声を張り上げる。

 ゾンビの注意をこっちに引くってのと、生存者の確認の意味を込めて。


「拓真!?」


 返答があった。

 声を頼りに視線を巡らせる。


 いた。

 二階の奥。


 上へ上へと逃げるのは、人間の本能みたいなものだろう。

 ちらりと館内マップに視線を走らせ、階段の位置を確認する。


「ステラ! いまいく!!」


 パノラマ館と呼ばれるこの建物の中央部は子供たちが遊べるキッズスペースになっており、すでにそこは子供ではなくゾンビが溢れている。

 階段はそのキッズスペースの外側をまわった場所だ。


 駈ける。


 小部屋を背にしたステラが、PKランスを手に戦っている。


 スレンダーな肢体を包んだライダースーツは、ゾンビどもに引き裂かれたのかすでにボロボロだ。

 すげー戦いづらそうにしてるのは、彼女の真骨頂はバイクを使った機動戦だからだろう。

 足を止めての斬り合いは苦手なんじゃないかな。


「うらぁぁぁっ!」


 俺は群がっているゾンビどもに後ろから襲いかかり、次々に斬り捨てていく。

 卑怯とか言わないでね?

 こっちの方がずっと数が少ないんだから。


「PKブレイド? 使えるようになったの?」

「PKミツタダだ。みなみのやつよりでかいだろ?」

「えー……なにそのださい名前……」

「ださくない! 格好いいだろ!」


 なんてこった。

 みなみに続いて、ステラの評判も良くなかった。

 こんなに格好いいのに。





 俺一人が援軍として現れたって、事態が劇的に変わるわけじゃない。

 それは当然のことだ。


 ゾンビと比較して、ものすごく強い俺たち量産型能力者(PA)だけど、永遠に戦いつづけられるわけじゃないし、そもそも避難者たちを守らなくてはいけないのだから、自由気ままに戦うってわけにもいかない。

 なんとかこの場を脱して、バスまで誘導しないと。


「拓真くん」

「国岡さん。無事でなによりです」


 合流した俺は、小部屋に避難している人々をざっと確認した。


 リーダー格の国岡さん。彼の護衛をしていたであろう森住二曹。あと、田所グループが十人くらい。

 うしろのこいつらは、ぶっちゃけ見捨てちゃっていいんじゃねって思うんだけど、そーゆーわけにもいかないらしい。


「迷惑をかけるね」

「国岡さんはまったく悪くないじゃないですか。迷惑だなんて思ってませんよ」


 悪いのは田所ジジイだよ。

 そもそもオメーらがバスを奪ったせいで、俺たちは『なないろ・ななえ』と新函館北斗のホテルに一泊ずつすることになったんだからな?


 ホテルに偵察にいった俺はゾンビに咬まれ、死ぬところだった。

 あ、ゾンビにはならないよ。殺してくれって頼んだしね。

 量産型能力者(PA)になったのは、まさに望外のことだけどさ。


 今までの生活は捨てなきゃいけない。

 公的には、もう死者なんだよ。俺。

 田所たちがバスを奪う、なんて真似をしなければ、俺たちは今頃東京に戻っていただろうさ。


 まあ、バスが壊れて一緒に立ち往生しちゃった可能性もあるけどね。

 そこはそれ、故障は田所ジジイの日頃のおこないに対する天罰ですよ。

 森住二曹が運転してたら、たぶん壊れなかったって。


 ともあれ、田所たちは因果応報さ。

 悪人には悪果があったってだけの話。

 国岡さんが謝るようなことじゃ、ぜんぜんないから。


「俺たちで血路を開きます。森住さんは彼らの誘導を」

「わかった」


 軽く二曹が頷く。

 外の戦況だってあんまり芳しくはないけど、二ヶ所を守るってのはしんどすぎる。

 そもそも避難者を全員バスに入れてしまわないことには、移動すらできないのだ。


「ほら。いくぞ」


 やたらと横柄な態度で、田所グループに指示したりして。


 うん。

 気持ちは判るよ。森住さん。


 のろのろと動き出す田所以下十名ほど。

 あきらかに憔悴しきってるのは、二日もこのパノラマ館に隠れていたから。食事も満足にできず、風呂にも入れず。

 自業自得だけどね!


「ステラ」

「まかせて、と、言いたいところだけど、あたしもけっこう疲れてるから。あんまり期待はしないで」

「了解」


 バイクを使った高機動戦法が彼女の本領なのに、こんなせまっくるしいところで防衛戦だもの。

 そりゃ疲れもしますよ。


「その分、俺ががんばるよ」


 ぶんとPKミツタダを振り、接近してきたゾンビの頭を割る。

 あと三十匹ってところか。


 誰も守らなくていいなら余裕なんだけどな。

 前方のゾンビを俺とステラが蹴散らし、できたスペースを避難者たちが進む。

 速度は遅い。


 おそるおそるって動きだから。

 走れよ。ジジイども。


 満足に飯も食ってなくて、ほとんど寝てもいないだろうから、無理もないんだけどさ。


 その中でも、田所だけは、なんか目をギラギラさせてる。

 生への執念ってやつかね。

 たいしたもんだよ。


 のろのろとした行軍で、なんとか外が見えてきた。

 よし。


 みなみが頑張ってくれたおかげで、バスへの道も啓開されてる。

 あとは涌くの(ポップ)と後背に気をつけて慎重に。


 と、俺が思ったそのときだった。


「助かったぞ!」


 外に出られたことに安心したのか、田所ジジイが走り出してしまった。


 馬鹿野郎!

 なんでこのタイミングで走るんだよ!

 一団で行動しないと守りきれないだろうが!


「やめなさい田所さん!」


 さすがに声を荒げて国岡さんがその腕を掴む。

 ここまできて勝手な行動をされたら、全部水の泡だ。


「うるさい! はなせ!」


 どん、と。

 なんと田所ジジイが、国岡さんを突き飛ばした。

 ゾンビが溢れてる後方へ。


 なんてことしやがる!

 ここで転んだりしたら最悪なことになるって、ガキでも判るだろうに!


「国岡さん!」


 咄嗟に飛び出した森住二曹が自らの身体で受け止める。

 英雄的な行動だが、突撃銃で牽制していた彼が攻撃をやめたらどうなるか。


「ぐ……っ」

「ぐあっ!」


 首を伸ばしたゾンビが、自衛官と紳士の足に咬みついた。



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