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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第3章 ゲームというには生臭すぎる
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ゲームというには生臭すぎる 5


 ばたんと軽快な音を立ててドアがしまり、同時に軽自動車が発進する。

 タイヤを鳴らして。


「どっちに逃げる!」

「五号線に戻るのは無理ですわ!」


 俺の声に、ハンドルを握ったみなみが怒鳴り返した。

 国道五号線の方向からゾンビどもがやってきているのだ。

 そこを突っ切るというのは、なんぼなんでも無茶すぎる。


 なので、反対方向へと走るしかない。

 裏道を使って新函館北斗駅を目指すルートだ。


「振り出しに戻るって感じだな」

「どのみち、道南から出るわけにはいきませんわ」


 苦笑するみなみ。

 ゾンビどもは、はるか後方に見えなくなっている。


 やつらは基本的に徒歩なので、高速走行する自動車には追いつけない。

 まあ、完全に振り切ってしまうのもまずいわけだが。


 みなみが言うように、モンスターどもを道南地方から出すわけにはいかないのだ。

 他の地域に情報は知らされていないし、住民の避難もおこなわれていないから。

 そんな場所にゾンビを引っ張っていくことはできない。


「つまり、このへんをぐるぐるとまわりつつ、ゾンビを減らしていく?」

「芸がなさすぎますが、私たちにできるのはそのくらいですわね」


 しかも、肝心のガイコツを倒す方法は判らないというね。

 わりと詰んじゃってる状況だ。

 俺たちだけなら。


 事件発生から三日目にして、函館市内の状況は沈静化に向かっているらしい。

 車載されている無線からの情報では、もうすでにあのガイコツ(コード名は、やっぱりリッチだった)も、何体か倒されたという。


 市内の駆除が完了すれば、すぐにこちらにも討伐隊が差し向けられるだろう。

 ようするに、それまでの時間が稼げれば良いのである。


「つーか、みなみの組織すげーよな」


 人智を超えたバケモノどもをやっつけちゃうんだよ。

 たった三日で。


「でも、たくさん死にましたわ」


 みなみの声に感傷はなかった。

 事実を事実として語っているような、そんな雰囲気だ。


 最大限の努力はしたし、それに見合うだけの成果もあったが、すべてを救うことはできない。そういう事実を。

 やや重くなる空気。


『みなみ! 応答して!』


 打ち破るかのように唐突に無線機がみなみの名を呼ぶ。

 コードネームではなく。


「どうしましたの? ステラ」

『ちょっとやばそう。合流できる?』


 思わず顔を見合わせる俺とみなみ。

 安全のために先行したバスの側がやばいとは、どういうことだろう。




 ステラの話によれば、バスは順調に大沼隧道(トンネル)を抜け、大沼公園を右手に見ながら国道五号線を走り、予定通り大沼公園インターから道央(どうおう)自動車道に入った。

 一時間半ほどかけて休憩地点である八雲(やくも)のサービスエリアに到着する。


 そして事件は起こった。


 なんと、あいつらがいたのである。

 ゾンビじゃないよ。


 もっと性質の悪い連中、つまり、田所を中心としたバスを奪って逃げたやつらだ。

 あれは一昨日のことなのに、なんだって八雲にいたのかっていえば、奪ったバスが壊れちゃったんだってさ。


 ざまぁ案件だよね。普通に。


 俺だったら指さして笑ってやるところだけど、自衛隊もステラも国岡さんまでも、救いの手を差しのべたらしい。

 良い人すぎかよ。


 まあ、見捨てるわけにもいかないってのは事実だけどさ。

 国民だもんね。あんなんでも。


 なんだっけな。

 けっこう前の作品で、『鴉~KARAS~』ってアニメがあったんだけど、そんなかで主人公が、ゲスの小者にかけた言葉が「お前もまた守るべきものの一部」とか、そんな感じ。


 街を守るのが鴉の役目だから。

 ゲスやクズもひっくるめて、街だから。


 自衛隊やステラも同じなんだろうね。

 田所ジジイなんて見捨てたって、ぜんっぜん良心は痛まないけど、あれもまた守るべきものの一部なんだべさ。

 立派なことだ。


 で、そんな立派な人たちに、田所ジジイどもが噛み付いたそうだ。

 自分たちが立ち往生して苦労してるのに、お前らは温泉まで入って良い身分だ、と。


 俺、その場にいなくてホント良かったよ。

 PKミツタダでぶった斬っちゃったかもしんないわ。田所ジジイ。


 ともあれ、紳士の国岡さんがそんなことをするわけもなく、あんたたちがバスを奪ったことは水に流してあげるから、一緒に新千歳に行こうと促したんだってさ。

 神か? あのひと。

 アガペーか?


 性悪の田所ジジイがそれで納得したとも思えないけど、とにかくハイウェイオアシスに籠城していたって始まらない。

 一緒に行動することになったわけだ。


 そこで、とんでもないことが発生した。


 なんと、数十のゾンビが涌いた(ポップした)のである。

 バスにいる避難者たちと、建物で田所たちの説得をおこなっていた国岡さんが分断されてしまった。

 位置的には最悪だ。


 量産型能力者(PA)のステラといえども、二ヶ所を同時に守りながら戦うのは難しい。

 それで俺たちに救援要請を出した、というのがここまでの事情である。


「突然あらわれる、というのは、まるでゲームですわね」


 アクセルを底まで踏み込んだみなみが呟いた。

 スピードメーターは時速百三十キロ近くを指し示している。


 一発免停なみの飛ばしっぷりだが、そもそもみなみも俺も免許なんか持ってないし、法定速度を守っている場合でもない。

 他に車も走っていない状態で、事故を起こすわけもないしね。


 量産型能力者(PA)の動体視力にとっては、時速百三十キロは止まっているのとかわらない。

 試したことはないけど、飛んでる弾丸とかだって見えるんじゃないかな? 俺たち。

 軽自動車ゆえの馬力の無さを嘆きたいくらいだ。


「けど、これで事件の発端が見えたような気もするよな」

「ですわね」


 どうしてゾンビパンデミックがおこったか。

 それは、函館市内の各所でゾンビやリッチが涌いた(ポップした)から。


「どうやって、という部分は残るけどな」

「いちばん蓋然性の高いのは、瞬間移動(テレポーテーション)縮地(しゅくち)でしょうけど」

「それのどのへんに蓋然性って要素があったのか問いたいけど、いまさらだな」


 自分で言って、俺は肩をすくめた。


 念動力(サイコキネシス)をもった俺たち量産型能力者(PA)が存在するのだ。テレポートを使える超能力者がいたって全然不思議じゃない。

 縮地にしたって、リッチやゾンビが存在するのに仙術は存在しないって話にはならないだろう。


「まあ、私の組織にもいますから。どっちの使い手も」

「まじかー」


 いるんすね。

 なら疑う余地もない。

 敵にも同じことができるやつがいるってだけの話だ。


 そいつらが日本を攻撃している。

 理由までは判らない。

 ぶっちゃけ興味もない。


 どんな理由を聞いたって、絶対に納得なんかできないから。


 これはべつにバケモノとの戦いに限った話ではないだろう。人間同士の戦争や紛争だって同じ。

 攻めた側にどれだけ正義があろうと、大義名分があろうと、攻められた側が納得するかって話だ。


 どぎついことをいえば、原爆を落としてくれてありがとうって思ってる日本人はひとりもいないってことである。

 それと同時に、占領してくれてありがとうって思っていた中国人も韓国人もいないだろうさ。


「責任はとらせないとな」

「だいぶ私たちの考え方に染まってきてますけど、それは私たちの仕事ではありませんわ。拓真さん」


「そうだった。別の部隊が動いてるんだっけ」

「ですわ。私たちの仕事は避難者を新千歳まで無事に送り届けること」


 そしてその障害となる敵を排除することだ。

 黒幕を捜したり潰したりは、俺たちの仕事じゃない。


「まあ、リッチ一匹倒せない私たちに、なにができるのかって話ですわ」

「そいつをいっちゃおしまいですよ。みなみさん」


 事実だけに非常にかなしい。


 軽自動車は道央自動車道に入った。

 酷使にエンジンを唸らせながら。

 新函館北斗から八雲サービスエリアまでの六十キロ弱。


「十五分で駆け抜けてやりますわ」

「さすがにそれはむりじゃねーかなー」


 

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― 新着の感想 ―
[一言] いやー、楽しい。 ここまで一気観してしまいました。 おっさんの所見ですが、1980年代から90年前半くらいまでは「原爆落としてくれてありがとう」って教育だったんですよほんとに。
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